印南敦史の「ベストセラーを読む」 第1回
『コンビニオーナーぎりぎり日記』(仁科充乃/著)を読む
「休日が取れなくなって1057日目」ぎりぎりのコンビニオーナーが、それでもコンビニを経営してよかったと思えた瞬間
2023年08月24日 07時00分更新
わずか30分の空き時間が「休日」
1990年代に、夫とともにコンビニ大手3社のうちの1社である「ファミリーハート」(どこかで聞いたことがあるが、もちろん仮称だ)とフランチャイズ契約を結び、長らく営業を続けてきた人物。店舗は、関東地方のT県に位置する国道沿いの郊外店である。
近隣にコンビニが増えて売り上げが激減するだけでなく、時給を上げても応募者はゼロ。そんな状況下では休めないのはむしろ当然で、昼ごろに帰宅できたりすれば罪悪感すら湧くという。空き時間に30分ほど本屋に行ければ、休日を満喫した気分になるのだそうだ。
30年前に夫と2人でコンビニオーナーになった当初、私が直面したのは強烈な人間不信だった。
・レジに立ったお客が、野良猫にエサでもやるように小銭を放り投げる。
・「お弁当、温めますか?」と尋ねると、レンジのほうを顎でしゃくる(「温めろ」ということらしい)。
・電話に出ると、「レシート見たらスパゲッティーが1つ余計に計上されているぞ。今すぐ家まで金持って謝りに来いよ!」。
……書き出せばきりがない。それは私がそれまでの人生で経験したことのない出来事だった。ふだんニコニコと接している知人や友人たちも、もしかしたら裏ではみんなこんな態度をとっているのかと疑いたくなった。(「まえがきーー本日で1057連勤」より)
幸い私は、冒頭のバイト時代にそこまで嫌な思いをしたことはなかった。当時はまだ、いまにくらべれば穏やかな時代だったのかもしれない。あるいは私がラッキーだった可能性もあるが、いずれにしても、現代のコンビニが客のイライラのはけ口になっていることは多くの人が知るところだ。
働く側にとってはたまったものではないはずだが、著者も日常的にそんな“洗礼”を受けてきたわけである。「コンビニの仕事を始めて、私は心が確実に汚れていくのを感じた」という一文の重さを、私たちコンビニユーザーは理解する必要があるだろう。
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