中小運輸事業者における事業計画策定、計画実行支援などをデジタル活用で展開
「物流の2024年問題」でウイングアーク1stや商工中金など4者連携
2023年04月14日 07時00分更新
商工組合中央金庫(商工中金)とウイングアーク1st、運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)、サスティナビリティ・DX推進協議会(SDXC)の4者は2023年4月13日、運輸事業者へのソリューション提供に向けた体制を共同で構築することを発表した。
物流業界が抱える「2024年問題」の解決に向けて、運輸事業者のデジタル活用を支援。4者が一体となり、運輸業界に特化した事業計画策定、計画実行支援、改善ツール提案、補助金獲得支援などによる一連のサポート体制を構築する。まずは、約1万社の物流関連企業と取引がある商工中金の顧客基盤を活かした展開を開始する。
中小運輸事業者にのしかかる「物流の2024年問題」の解決目指す
「物流の2024年問題」は、トラックドライバーの時間外労働の上限規制によって発生する輸送能力の低下や、それに伴う収入減少などの問題を指す言葉だ。物流業界にも“働き方改革”のメスが入る格好だが、物流業界だけでなく上流の生産者や製造業、下流の小売店や消費者まで、幅広い産業と暮らしに影響を及ぼすとみられている。
しかし中小運輸事業者は半数以上が赤字であり、「全産業よりも労働時間が2割長い」「賃金が2割安い」「人手不足が2~3倍に達している」といった調査結果もある。問題解決は簡単ではない。商工中金の調査によると、2024年問題への対応ができている運送業者はわずか15%。今後実施する取り組みを聞いたところ「標準的運賃などに基づく適正運賃の収受」が75.7%、「業務の見直し」が49.3%だった。
商工中金常務執行役員の山田真也氏は、「対策に着手できていない部分が多い一方で、多重的下請け構造により、10億円未満の企業では価格転嫁が難しいという課題もある。建設、飲食、宿泊などの業界では賃上げが進んでいるが、運輸は賃上げが進んでいない」と指摘する。
「これまでは、ドライバー確保と車両確保により、荷主の要請に応えることが運輸業界の役割であったが、2024年問題を背景にした課題に対応するためには、モノを運ぶだけでなく、戦略を持ち、DXを進め、それにあわせた資金調達を含めた実効性のある事業計画を作る必要がある」(商工中金 山田氏)
デジタルの事業可視化基盤を中心に事業者と連携して支援
そもそもの発端となったのは、TDBCが2019年度に取り組んだ経済産業省の「ものづくり・商業 ・サービス生産性向上促進補助金」を活用した「車両動態管理プラットフォーム」実現の取り組みだという。
これは、運輸事業者やデバイスメーカーの枠を越えた車両動態情報の可視化によって、物流DXを推進するプラットフォームの構築を目指したものだ。TDBC内にワーキンググループを設置し、さまざまな車載器や位置情報サービスによる位置情報を、メーカーを超えて一元的に可視化するプラットフォームの社会実装に向けた協議を実施した。大規模な実証実験を経て、2022年1月にはサービス事業会社のtraevoを設立、同年2月には会員企業が出資して合弁事業化している。
一方、経産省の補助金事業では「30社以上の中小企業に対して、3~5年の事業計画策定のための支援プログラムを開発、提供すること」が要件となっていたため、その社会実装を行う組織として、2022年3月にサスティナビリティ・DX推進協議会(SDXC)が設立された。
2022年4月には、商工中金が主催した運送事業者向けセミナーでTDBCが講演し、それをきっかけに今回の中小運輸事業者向けの事業および経営支援の協議が始まったという。山田氏は、商工中金はおよそ1万社の物流関連企業と取引があるなど運輸/物流業界との関係が深く、全日本トラック協会をはじめとする業界団体を通じた“面”の連携も行えると話す。
「実効性がある事業計画を作ることができれば、戦略、ソリューション、資金調達による支援が可能になる。物流で働く人たちが、夢がある業界であることを実感してもらえるサービスに仕上げていく。業界を活性化させるイネーブラーとしての役割を果たしたい」(山田氏)
そして、支援プログラムを仕組みとして提供するためにはプラットフォーム化が必要であることから、ウイングアーク1stの中小企業支援プラットフォーム「BanSo」を活用することを決定した。
“事業成長を伴走するプラットフォーム”BanSoでは、運輸事業者が財務情報などをExcelでアップロードすると、データベースエンジンの「Dr.Sum」に取り込まれ、BIツールの「Motion Board」によって可視化される。さらにコミュニケーション機能として「dejiren」も組み込まれており、運輸事業者が、BanSoを通じて商工中金やSDXCと連携しながら事業計画を策定し、自社の進捗状況を社の状況を継続的にモニタリングすることで、企業成長につなげることができるという。
BanSoの初期費用は10万円、月額利用料は3万円から(いずれも税抜)。ウイングアーク1st 代表取締役社長執行役員CEOの田中潤氏は、BanSoのプラットフォームにTDBCとSDXCの企画で生み出されたモデルを組み込むことで、事業者を支援していくと説明した。
「BanSoは簡単に使えるよう設計されており、Excelファイルをアップロードするだけで経営実績情報の表示や同業他社との比較が可能だ。10種類のテンプレートも用意しており、事業計画を策定したことがない企業でも、データを入力するだけで経営計画と経営状況を可視化できる」(ウイングアーク1st 田中氏)
運輸業界/中小企業の抱える課題の解決に期待
TDBCは、2016年8月に協議会として設立され、2018年に一般社団法人化した組織。運輸業界とITをはじめとする多様な業種のサポート企業が連携して、デジタルテクノロジーの活用を通じて、運輸業界を安心、安全、エコフレンドリーな社会基盤に変革することを目指している。現在は173社が参加している。
「運輸業界は99%以上が中小企業であり、同じ課題を各社が解決するには時間も手間もかかる。TDBCでは各社の共通課題について議論し、仮説をもとに実証実験を行い、社会実装につなげる活動を行っている。現場で使えるものかどうかをポイントに評価している点も特徴であり、年1回のTDBC Forumで成果を発表している。TDBC認定ソリューションとして、現在4つのソリューションが認定されている」(TDBC 代表理事の小島薫氏)
またSDXC 代表理事の藤田祐介氏は、「中小事業者の約9割が、事業計画が未策定であったり、仮に策定していたとしても実効性が不十分であったりしており、2024年問題を乗り越える事業計画がないのが実態だ」と明かした。
事業計画書策定モデルによって、企業の内外に関係する人たちとの共通言語化が可能になり、標準化ができる。クラウドツールを活用した事業計画策定を通じて、中小運輸事業者のトップ自らかが経営のDXを体感し、推進してほしい。この取り組みが、事業者の強靭性の実現や、持続可能性の強化につながると確信している」と語った。
実際に事業計画書を策定した企業からは、「社長の頭のなかにあったイメージを他の経営陣や従業員と共有できた」「会社が伸びるイメージを明確に持つことができた」「会社の強みや弱みなどを専門家によって言語化してもらい、理解しやすくなった」「経営幹部に対する適切なマネジメントができるようになり、経営会議のレベルがあがった」「どこからDXを進めればいいのかが明確になった」など、好意的な声が多く挙がっているという。