航空時計の名門による、スマートなレフティデザイン
ジン/356.EURO FLIEGER.Ⅲ
1961年にドイツ・フランクフルトで創業したジンの正式名称は「ジン特殊時計会社」。立ち上げたのはドイツ空軍のパイロットとして活躍したヘルムート・ジンで、つまり彼による、特殊な使途に特化した時計の企業という意味だ。
ただこの「特殊」がいよいよ具体性を増したのは、1994年に工学士のローター・シュミットが経営を引き継いだ後のことで、当初はヘルムート・ジンが実地体験で学んだ様々な知見を盛り込んだ、つまり凡百のブランドには決して真似のできない航空計器や航空時計がメインだった。そこから現在まで一貫して続く根幹、アイデンティティといえば創業者が蒼穹を駆け巡りながら思い描いた「究極の航空時計」なのだ。その系譜を継ぐ新作がこのほど、日本限定で発売された。
「356.EURO FLIEGER.Ⅲ」は2000年に発表された「356.EURO FLIEGER」、2007年の同「Ⅱ」に続く第3作で、NATO軍が配備するユーロコプターの機体に搭載されたジン社製オンボードクロックの意匠を取り入れたもの。真っ先に目をひく特徴は視認性を高めるビビッドなイエローカラーで、このモデルでは指針やインデックス、そして本作で新規に設けられた3時位置のスモールセコンドにも大胆にフィーチャーされている。このスモールセコンドはユーロコプターの実機と同じく、コクピット内のブラックライトをあてると発光する仕組み。平常時においても鮮やかな色調の素地が表示を目立たせ、的確な「秒」の視認を促す。
このモデルのさらなる特徴は初代から受け継がれる、リューズとプッシュボタンを通常とは反対に配した特殊設計だ。一般的な時計では左利きのために講じたレフティ(左利き)仕様とされることもあるが、このモデルでは利き腕を限定するのではなく、あくまで操作性の向上や誤作動を防ぐために採用されているという。
ともあれ、このいかにもマニアックなレイアウトが、くだんの配色と相まって(デイリーユースの視座では)スタイリッシュというほかない。航空時計の本家によるこの腕に載せる計器は、信頼性の高い自動巻きCal.SW500を搭載し、防水機能は10気圧(水深100m相当)を誇る。空を飛ばずとも日常を勇猛に前進するオーナーの、心強いイクイップメントとなりそうだ。