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佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第174回

小岩井ことりさん出演のASMRイベント配信レポ、KORG Live Extremeで聴くリアルさ

2023年03月03日 13時00分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

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主催の小岩井ことりさんがMCを担当

 声優の小岩井ことりさんがプロデュースを担当するASMR音声作品に特化したレーベル「kotoneiro」のイベントである「ASMR Tasting Party♪」が2023年1月22日(日)に開催された。これは同レーベルの二周年記念であり、初のリアルイベントになった。

 このイベントは会場でのPA類は使用せず、参加者はイヤホンやヘッドホンを持参して席に設置されたアンプに接続してステージ上でのトークをそれで試聴するというものだ。この点においては2021年に行われた藤田恵美さんの「Headphone Concert 2021」に似ている。Headphone Concert 2021では収録がメインで観客はヘッドホンでそのラフミックスされた音を聞くという趣向であったが、このイベントではもともとイヤホンやヘッドホンリスニングに向いたASMRでのライブである点が異なっている。しかし観客がヘッドホンで聞き、配信もなされるという形式は同じなのでシステムも似たものになっているようだ。

 ライブではASMRイベントらしく各出演者にひと組ずつのダミーヘッドマイク(Neumann KU100)を用意してASMR音声を記録し、会場内ではそのASMR音声を有線でアンプに分配して3.5mmイヤホンジャックを使用して参加者が聞く。会場外への配信においてはKORGのハイレゾ配信システム「Live Extreme」を使用してカメラで撮影した映像をミックスしてインターネットで動画配信を行った。配信の音声は96kHz/24Hzのハイレゾで、映像はフルHD画質である。これはライブだけではなくアーカイブも用意されている。本記事はこのアーカイブ試聴によるものだ。

 KORGのLive Extremeは何回か取り上げてきたが、単に高音質配信というよりもオーディオ・ファースト配信と言った方がふさわしい音質優先の配信の仕組みだ。通信容量に制限のあるときは従来の方式では映像が優先されて音声の質が落とされてきたが、Live Extremeにおいては音質の方が優先されるという音楽配信に向いた仕組みだ。今回は最新のVersion 1.9.0に対応、ライブ配信中でも巻き戻し再生が可能な「追いかけ再生」や配信者向けの新機能などが採用されている。

 このライブの視聴にはM2搭載「MacBook Air」を用いて、ASMRに適したfinal「E500」をMacBook Airのイヤホン端子に接続して再生した。これはハイレゾ・ロスレスのための有線イヤホンとして使うためだ。加えてASMR効果の比較用にagの完全ワイヤレスイヤホンである「COTSUBU for ASMR」と通常版「COTSUBU」を使用した。またfinal「ZE8000」と第二世代「AirPods Pro」も参考に使用した。

 96kHzでのハイレゾ伝送なのでMacの場合にはまずAudio MIDI画面でサンプリングレートを96kHzにセットすることがビットパーフェクトで再生するためには必要となる。これはLive Extremeの視聴に使うSafariがオーディオの自動サンプリングレート切り替えに対応していないためだ。

 E500では驚くほどリアルなASMR音声が楽しめた。初めに小岩井さんが階段を上がる音の軋みから始まり、ASMRを十分に実感できるリアルさと耳への近さが感じられる。注意事項を会場に語りかける際にはダミーヘッドの左右に口をうごしながら行うので、その都度イヤホンの左右に音が動く。単に配信機材に凝っただけではなく、細かな演出まで考えられていると感じた。ここはさすがASMR音源に手慣れている印象だ。

 また音質が極めてリアルでLive Extremeらしさが堪能できる。普段はASMR配信というとYouTubeが多いと思われるのでここは多くのリスナーにとって新鮮に感じられるだろう。

3人の声優が揃い、その前にダミーヘッドマイクが置かれている。

 イベント進行自体の詳細は省くが、小岩井さんがゲストを呼んでトークをしながら様々な音源によるASMRの実況ライブ中継を行うというものだ。映像もあるので、ダミーヘッドに息を吹きかけたり囁いたりする動作もわかり、ASMRでの配信の実際がわかりやすい。ダミーヘッドのどこに息を吹きかけるとリアルかというのもよくわかるので、ASMRを志向する配信者にも興味深いと思う。会場にダミーヘッドが3台並ぶのはなかなか壮観というかシュールな光景でもある。たしかにユニークなライブだ。

 次に再生機材でのASMR対応のありなしを比較してみるためにCOTSUBU for ASMRと通常版COTSUBUで同じ箇所(お手玉を握りしめるASMRサウンド)を比べてみると、たしかにCOTSUBU for ASMRの方がよりリアルで鮮明であり耳に近く感じられるが、通常のCOTSUBUでも十分にASMRらしい音のリアルさと近さを感じることができる。参考までにZE8000で同じ箇所を試してみると、耳からの距離は適度にありながらASMRに感じられる誇張感が少なく自然な音再現が感じられた点もなかなか興味深いと思う。これらのことからASMRに特化した機材の方がよりASMRらしさを楽しめるが、普通の機材でもその機材の性格に応じてASMR音源を楽しめるのではないかと思う。

会場風景

 最後にひとつの試みとしてASMRと空間オーディオの組み合わせを試すためにiPhoneでも試聴してみた。iPhoneを使用したのはiOS 15から導入されたステレオ音源を空間オーディオ化する「ステレオを空間化」機能を使用するためだ。このため第2世代AirPods Proを用いてiOSでステレオを空間化機能をオン(ヘッドトラッキングをオン)にして上記と同じ箇所で試してみると、なかなか面白い体験ができた。ASMRでは左右は明確に感じられるが、それをヘッドトラッキングして頭を動かすと左右の位置関係を逆転できるのだ。ちょっと不思議な感覚だが、これは耳の位置に近く録音するASMRの方がよりわかりやすいのではないかと思った。

 ちなみに空間オーディオに対応しているというM2搭載MacBook Airの内蔵スピーカーで聞いても、このライブ配信では映像に近い位置で音が鳴るような独特のリアルな体験ができた。この辺のオーディオ形式と空間オーディオ再生機能の関係はなかなか興味深い。

 すでに述べたようにASMRはよくYouTubeで配信されるがLive Extremeでのハイレゾ配信の音質は比べられないほど高いのでとても新鮮な感覚が味わえた。ASMR配信の凄さが解放された、ともいうべきだろうか。今回のライブは様々な意味でユニークな試みであり、かつ演出・音質・技術など総じてクオリティが高いイベントだと言えるだろう。

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