まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第84回
【第3回】「少年ジャンプ+」編集長細野修平氏による大学特別講義
少年ジャンプ+細野編集長「令和の大ヒットは『ライブ感の醸成』で決まる」
2023年04月02日 15時00分更新
配信サービスの「一気見」形態はライブ感と相反しがち
細野 一方、TVの凋落と共に語られていたのが、「Netflixをはじめとした動画配信サービスが席巻し、世界を支配するんだ!」といった言説でした。そしてその当時、頻出したキーワードとして「ビンジウォッチング」が挙げられます。みなさんご存知かちょっとわからないのですが、簡単に言うと「一気見」のことですね。
『ストレンジャー・シングス』や『ハウス・オブ・カード』といった人気作を全話一気に見る、という楽しみ方/受容の仕方が最先端であって、それによってエンタメが変わっていくんだ、というふうに言われました。
ですが、Netflixで最近ヒットしたアニメ『サイバーパンク:エッジランナーズ』を私も見て、めちゃくちゃ面白くてまさにビンジウォッチング、一気見したのですけれど、世間はそんなに盛り上がっていないなと思っていまして。
これこそが同時代性の欠如なのではと。みんなが同じタイミングで見るという視聴方法ではなかったので、(作品は面白くても)あまり話題になりにくく、共有・愛着につながらなかったのかなと。
まつもと 今、エッジランナーズ観た人に手を挙げてもらったところ、22人中4人でした。話を先取りしてしまうと、毎週更新という視聴行動の習慣付けが重要なんだろうなと思ったりしています。すみません、先回りしちゃいました。
細野 いえいえ、ありがとうございます。他方でアマゾンプライム・ビデオの『力の指輪』――『ロードオブザリング』関連の作品なのですが――が毎週金曜日に最新話を配信するというかたちになっており、配信サービス側もこのへんに気づき始めている/気にし始めているのかなと思いました。
一方、動画配信のすごさや影響力は非常に強まっていると『サマータイムレンダ』という作品で逆説的に感じました。2022年4月からTVで2クール放送したのですが、動画配信に関してはDisney+限定でした。アニメの出来はすごく良かったと思うのですが、ちょっと広がりが強くなかったのかなと思っています。
対して『鬼滅の刃』の場合は、配信サービスが後伸びに大きく影響したと感じています。放送後半に火がつきましたが、ほとんどの動画配信サービスで視聴できたため、みんなが後追いで観て、さらに話題になって一気に広がりました。
Webtoonは「待てば無料」だからこそ、ライブ感に欠ける
細野 他方、Webtoonについて。「待てば無料の功罪」と書きました。Webtoonには面白い作品がたくさんあると思っていますが、なかなか日本では大ヒットが出てこないなとちょっと感じたりしています。
第1回でご紹介した飯田さんによる記事『韓国の「NAVER Webtoon」と日本の「LINEマンガ」の致命的な違い』という記事(「現代ビジネス」2022年10月27日)では、なぜ日本からヒットが出づらいのかなどを考察した内容だったのですが、そこでは3つのことが語られていました。
それは「コメント機能がない」「シェア機能がない」「新人作品の優先順位の低さ」。こういった機能の問題があるので広がらない、ヒットしないのではと書かれていたのですが、私は読ませ方、習慣化の違いかなと思っています。
「待てば無料」とは、待ったら無料で読めるということなのですが、逆に言うと、待たないと読むことができない。そして、待ち方は人それぞれ違ってくるので、先ほどのライブ感の項で話した「同時代性」が生まれづらいのではと思いました。こういったところが、Webtoonからヒットが今一歩、出てこない理由じゃないかなと感じている部分があります。
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