自動運転をターゲットとしたAIプロセッサーを開発
VSORAは2018年あたりまではそれこそ通信分野などに向けた信号処理をメインとしていたわけだが、2019年あたりから“A New DSP Approach to Accelerate 5G and AI Design Development”と、ターゲットとする市場に“AI”の文字が入るようになり、2020年になると“AI & Signal Processing/ADAS/Digital Communication”とターゲットにADASが入るようになり、2021年にはついにDigital Communicationの文字が消え、代わりに自動運転をターゲットとしたAIプロセッサーであるTyrを前面に押し出すようになった。
その2020年、AI向けとしてVSORAが発表したのがAD1028である。AD1028は、FP24(16bit仮数+7bit指数+符号)のALUを1024個並べたDSP部と、FP8のMAC演算を16K個同時に演算可能なMACアレイを16個(つまり1サイクルあたり256K個の演算が可能)搭載したDLA部、それにTCM(Tightly Coupled Memory)を組み合わせた構成である。
ちなみにAD1028はVSORAではミッドレンジ向けという扱いであり、ハイエンドは2048 ALUのDSPと512K MACを搭載したDLAから構成されるAD2056という製品が予定されていた。
もっともこのAD1028、2020年の時点で7nmプロセス向けにテープアウトしており、2GHz動作で1PFlopsの演算性能(DLA部:DSP部は4TFlops)を持ち、消費電力は35W未満。ダイサイズはTCMを除いて35mm2とされていた。実際にはこれだけの演算性能を持たせるとなると、相当なサイズのメモリーが必要になる。VSORAの推奨によれば、AD1028の構成であればおよそ105MBのTCMが必要、という計算だそうである。
ちなみにラフな計算であるが、同じく7nmで製造されるRyzen 5000シリーズに利用されていたZen 3コアのL3(32MB)のエリアサイズがおおむね36mm2なので、同じ形で実装すると105MBではおよそ118mm2ほど。それとAD1028自身の35mm2とあわせてダイサイズは153mm2とけっこう大きくなる。
ただSRAMなので消費電力はそれほど大きくはならない。VSORAはこのAD1028で30TOPS/Wを実現できるとしているが、厳密に計算すれば29TOPS/W弱といったあたり。30TOPS/Wも誇大表現とは言い切れない程度、といったところか。たぶんSRAMも込みにして40W程度、実質25TOPS/Wあたりが現実的な線だろう。
なぜDSPとTLAの2ブロックが必要か? という理由が下の画像だ。VSORAはLevel 4の自動運転をターゲットに置いており、ということはさまざまなセンサー(カメラや長/中/短距離レーダー、LiDAR、超音波センサーなど)を使ってまず周囲や進行方向の状況を取得、これをベースに自動運転の判断を行なう必要がある。そこでまずDSP部で、こうしたさまざまなセンサー情報を処理し、この結果をDLA部を利用して処理する、という構成を狙ったわけだ。
ちなみにVSORAによればDSP部は複雑な処理も可能な汎用のALUをベースにした構成だそうだが、DLA部はもう完全にMAC演算に特化した構成のようで(アクティベーション用の関数があるかどうかも不明)、MACを制御するコントローラーにあたるものがなにかしら搭載されていないとやや処理的に厳しい(これを全部外部のホストから行なっていたら、そこがボトルネックになる)気がするのだが、そのあたりの詳細は一切公開されていない。
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