佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第168回
独自の空間オーディオ技術で普通のスピーカーの音が劇的に変わる
シーイヤーの立体音響技術がスゴイ? finalの「ZE8000」も頼ったその技術を独占取材
2023年01月24日 13時00分更新
独自のソフトウェア技術を自社開発製品にも応用
そんなシーイヤーは、自社でも製品開発をおこなっている。
2015年にはビームフォーミングマイク技術を応用した「DOMNO 2MIC」を開発し、CESのInnovation Awardを受賞している。これはMEMSマイクを2基用いている。iPhoneのLightoning端子に装着可能なMFIアクセサリーのマイクだ。iPhoneはカメラに比してマイクの性能進化が遅いので、現在でもVlog用途などに活用できそうな製品に思える。
また2016年にはすでに触れた独自の空間音響技術Cear Fieldを用いたBluetoothワイヤレススピーカー「pavé」のクラウドファンディングを実施している。これはキューブ状のコンパクトなワイヤレススピーカーだが、Cear Fieldによりかなり広い音場を作り出すことができる製品だ。
CES 2023に出品した機材は、このCear Fieldでは最新の第5世代技術を搭載したBluetoothワイヤレススピーカーだ。
ただし、見かけ上は普通のBluetoothワイヤレススピーカーにすぎない。それもそのはずでデモ機は筐体やスピーカーなどのハードウェアを市販のBluetoothスピーカーから流用して作っている。
真のポイントはその内部に据えられた、シーイヤーの製作による基板にある。この基板にはクアルコムの最新のSoCが採用されていて、ソフトウェアの中はCear Fieldの第5世代技術が隠されている。
早速その音を聴かせてもらうとちょっと驚いた。
目の前に置かれた小さなワイヤレススピーカーから出ているとは到底思えない広い音場だからだ。両手を広げた幅ほどはあるだろうか。実際に音が回り込んで聞こえるほどで、実際にスピーカーがあるのではないかと思えてくる仮想音場で、指で触りたくなるほどの臨場感がある。
もう一点気がついたことは、音楽そのものが鮮明でクリアに聞こえることだ。とても明瞭感が高いサウンドで、オーディオマニアでも満足できるような透明感が高いサウンドである。
切り替えスイッチで元の製品の音に戻すと、まったく違う音がするのにも驚いた。いわゆる一般的なワイヤレススピーカーの音になる。とても同じハードウェアから出ているとは思えないほど音が異なっているため、耳がついていけないほどだ。いわゆる「頭がバグる」というやつだ。
第2世代のCear Fieldを用いたpavéとも比較試聴してみた。pavéも確かにサイズと比較すれば広い音場だが、今回のデモ機には到底及ばない感じではある。また音のクリアさも劣っている。音が濁らないのは音を立体化したときに副作用が出てしまうので、それを抑える独自のノウハウがあるということだ。再生にもビームフォーミングの考え方が適用できるという。それを使うと音源がきちんと分離されて濁らないように聞こえるという。従来は信号処理の速度が遅く、実現が難しかったが、クアルコムの最新のSoCならば、プログラミングの柔軟性と処理速度の高さを兼ね備えている。ようやくこのレベルのサウンドが可能になったそうだ。
低価格で魅力ある音が出せる製品の登場に期待
デモを聞いていて思わず「これが欲しいのでどこで売っているんですか」と聞いてしまったほどだが、もちろんこれはデモ機であり、手に入れることはできない。市販品を改造しただけでこんなに優れた音が出せるのには正直驚いた。
シーイヤーはスピーカーもきちんと設計したものにすればもっと立体音響の効果は高いと語っている。そこでシーイヤーは製品化を目指した開発を進めている。製品は低価格で実現できそうだということだ。もちろんSnapdragon Sound対応で、さらにLE Audioにも対応する予定だという。
こうした立体音響の効果は、耳の個人差にも左右されるという。シーイヤーでは将来的に、AIを空間オーディオに応用することでこの個人差を解決する方法に取り組んでいくつもりだ。
立体音響・空間オーディオはこれから進化していく技術ではあるが、それがピュアオーディオのマニアにも受け入れられるかは純粋に音質の問題もある。音が広がっても音自体が悪ければオーディオ的には受け入れられないだろう。音質と立体音場の両立に回答を見出せそうなシーイヤーの技術に注目していきたいと感じた。
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