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リチウムイオン電池の安価な鉄系正極の容量を2倍に=東北大など

2023年01月20日 06時36分更新

文● MIT Technology Review Japan

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東北大学と名古屋工業大学の共同研究チームは、安価な鉄と酸素を用いて、レアメタルフリーかつ高エネルギーを実現する新しいリチウムイオン電池正極材料の開発に成功。現在実用化されている鉄系材料であるリン酸鉄リチウム(LiFePO4)正極に比べて、約2倍の300mAh(ミリアンペア時)/gを超える可逆容量を達成した。

東北大学と名古屋工業大学の共同研究チームは、安価な鉄と酸素を用いて、レアメタルフリーかつ高エネルギーを実現する新しいリチウムイオン電池正極材料の開発に成功。現在実用化されている鉄系材料であるリン酸鉄リチウム(LiFePO4)正極に比べて、約2倍の300mAh(ミリアンペア時)/gを超える可逆容量を達成した。 レアメタルフリー正極材料である逆蛍石型リチウム鉄酸化物(Li5FeO4)は鉄のレドックス(酸化還元)反応に加えて酸素のレドックス反応も利用することで、理論的にはLiFePO4正極の2倍以上の容量を得られることが示唆され、注目されている。だが、そのための具体的な指針はこれまで得られずにいた。 研究チームは今回、Li5FeO4の容量が低いのは、結晶構造の歪みによって引き起こされる酸素脱離(分解反応)が原因であると予測。メカニカルアロイングを用いて構歪みを抑制した準安定相を合成し、得られた準安定相の正極特性を評価した。すると、充放電時の負荷が大きく低減し、LiFePO4正極の約2倍となる、300mAh/gを超える可逆容量を示し、酸素脱離が進行していないことがわかった。 この正極材料のレドックス反応を、放射光を用いた分光分析で調べた結果、鉄のレドックス反応に加えて酸素のレドックス反応が可逆に進行することを確認。計算科学によりレドックス反応を考察した結果、メカニカルアロイングによって構造歪みを抑制したことにより、鉄のレドックス反応時に起こる構造変化が容易に進行し、その結果、続く酸素のレドックス反応が分解反応を伴わずに進行することがわかった。 今回の成果により、サプライチェーンリスクを回避できる元素資源を用いたリチウムイオン電池の低コスト化と高エネルギー密度化が期待される。研究論文はアドバンスト・エナジー・マテリアルズ(Advanced Energy Materials)誌に2023年1月15日付けでオンライン掲載された

(中條)

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