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スポーツエコシステム推進協議会主催「Sports Ecosystem Conference」

ベッティング、テクノロジー導入 スポーツの未来を考える

2023年01月17日 06時00分更新

文● 中田ボンベ@dcp 編集● ASCII STARTUP

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 2022年12月7日、スポーツエコシステム推進協議会が主催する「Sports Ecosystem Conference」が国立競技場で行なわれた。2022年4月の設立イベント以来、2度目のリアルイベントとなった今回は、スポーツDXの動向やスポーツにおけるテクノロジーの最前線などのセッションを実施。その模様をお届けする。

押し寄せるスポーツベッティングの波

 スポーツエコシステム推進協議会は、DX時代のスポーツ産業の振興とスポーツエコシステムの確立を目的として、2022年1月に発足した団体。日本のスポーツ産業の発展や課題解決、さらにはスポーツ産業を起点とする新たなエコシステムの形成を図ることを目指している。

「欧米スポーツDXの動向と日本の現在地」をテーマにしたトークセッションでは、スポーツエコシステム推進協議会の稲垣弘則事務局長、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグの佐野正昭氏、DAZN JAPANの山田学氏が登壇。ファナティクス・ジャパンの川名正憲氏がモデレーターとなり、海外と日本のスポーツDXの違いなどを語った。

スポーツエコシステム推進協議会 稲垣弘則事務局長

 ここでメインテーマとなったのが「Sports betting(スポーツベッティング)」だ。いわゆる「スポーツの試合を賭けの対象にすることだが、ヨーロッパでは1960年から合法化され、アメリカでも約半分の州で合法化されている。特に熱狂的なのがアメリカで、今年のスーパーボウルではなんと日本円で約8500億円ものお金がベッティングされた。海外でもベッティング企業がスポーツイベントのメインスポンサーになるなどその勢いを増している。

DAZN JAPAN 山田学氏

 山田氏によると、DAZNでは海外でも有名なベッティング会社のCEOだったシェイ・セゲフ氏がCEOに就任。ベッティングに関するノウハウを生かし、ベッティング事業を広めるコンテンツの提供が進んでいる。ここで大事にしているのが、スポーツを楽しむ選択肢のひとつとしてスポーツベッティングを提供すること。お金が興味や関心の真ん中ではなく、あくまでメインはスポーツ。そのため、ライトでカジュアルな層をメインにサービスを提供しているという。

 一方で、日本ではスポーツベッティングは禁止されている。「toto」や「WINNER」があるが、これは賭博ではなく「富くじ」に分類されるスポーツくじの一種として特別に認可されているものだ。とはいえ、稲垣事務局長によると「スポーツベッティングは富くじとは異なるものとされているが、実際のところ区別ははっきりとしていない。そのため、日本でスポーツベッティングを実施するには法律から見直す必要がある」とのこと。

スポーツベッティングの課題とは

 もし、日本で認可された場合でも実施には多くの課題を乗り越える必要がある。山田氏は、「スポーツベッティングの負の部分への対策が必要」と話す。例えば依存や八百長などだ。

 山田氏は「そこでテクノロジーの活用が期待される」という。例えば、依存の恐れがある人には、これ以上ベッティングが加速しないようなアプローチをオンラインで行うなどの仕組みだ。実際に海外ではこのような仕組みができつつある。また、八百長に関しても、選手の動きやデータ上から、不正な行為を見つけるテクノロジーが生まれている。

 スポーツベッティングが1960年から行われているイギリスでは、公平な試合が行われているのかを調べる団体を立ち上げ、警察、セキュリティー会社、スポーツ団体と連携。八百長など不正に対して厳しいチェック体制を整えている。他にも、情報漏洩がないような体制作りや、選手や関係者を誹謗中傷から守ることも重要だ。

ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 佐野正昭氏

 同セッションで佐野氏が「スポーツくじやベッティングを機会に、選手を調べる、ホームページで確認するなど興味関心が広がる。コミュニケーションの活性化という点もスポーツくじやベッティングに期待している」と話したが、超えなければならないハードルは多いものの、実現すればスポーツ界が盛り上がる可能性は大いにある。

 稲垣事務局長は本セッションのまとめとして、「スポーツベッティングについては、すでに海外での前例が数多くあり、いいとこ取りができるはず。課題を洗い出し、そこに対する対策やスポーツチーム、団体が潤う収益システムなど、日本独自の仕組みを作っていくことが大事」と締めた。

スポーツは加速するテクノロジーの真っただ中にある

 続いてのトークセッションでは、読売巨人軍の星春海氏、ソニーの山本太郎氏が登壇し、「スポーツ×テクノロジーの最前線とスポーツの権利の在り方」について語った。

 星氏によると「スポーツビジネスはテクノロジーの進化の真っただ中にあり、特にファンエンゲージメントにおいては、テクノロジーとデータの組み合わせは切り離せないものになっている」と現状を語った。

 例えば、巨人のフランチャイズ球場である東京ドームは、2021年から2022年にかけて過去最大規模の改修を実施。これまでの4倍となる125メートルのLEDビジョンを導入し、来場したファンにこれまで以上の映像コンテンツを届ける体制を整えた。スポーツの価値、プレーヤー、団体の価値を高めるためにも、テクノロジーの進歩とその活用が必須だ。

ソニー 山本太郎氏

 スポーツにおけるテクノロジーで外せないのがソニーグループ。特に2022年に行われたカタールワールドカップで大きな注目を集めた「VAR(ビデオアシスタントリプレイ)」は、ソニグループのひとつである「ホークアイ」によるものだ。

 今回登壇した山本氏は、ホークアイの日本事業の統括とアジアパシフィックエリアの展開を任されている人物。山本氏は、「スポーツテクノロジーでは、ホークアイ、ビヨンドスポーツ、パルスライブといったソニーグループの3社に注目してもらいたい」と話す。

 ホークアイは、サッカーのVARなどのビデオ判定事業で活躍しており、他にもトラッキングによる判定、体の動きを解析も行っている。ビヨンドスポーツは取得したデータをAIで解析し、ビジュアライゼーション(可視化)する技術を持つ企業。リアルタイムでのデータ取得を行う他、バーチャルでの活用も期待できる分野だ。

 パルスライブはwebサイトの運営やプレミアリーグのアプリ展開などを行っており、特に「ファンエンゲージメント」で貢献している企業だ。これら3つの事業をうまく組み合わせ、活用することで、スポーツの価値を高め、より高い感動を提供できるようになると山本氏は語った。

テクノロジーの進化はデータの権利にも影響する

 テクノロジーの進化はスポーツの魅力をさらに引き出してくれるが、星氏によると「テクノロジーの進化によって、データの権利や価値を見直す必要が出てくる」という。スポーツにおいて得られるデータが誰の物で、誰が利用できるのかは、国やスポーツ団体によって異なる。

 例えば、サッカーの場合はJリーグ機構側に権利があるとしており、プロ野球の場合は地域権(東京ドームで主催した試合は巨人に、ビジターとしてマツダスタジアムで広島との試合を行った場合は、広島に権利があるなど)で定めている。個人の肖像権は、球団と選手個人で使用条件や使用料など契約を結び、ユニフォーム着用時の写真や映像や球団側、それ以外は選手側にあるなど定めている。

 しかし、今後テクノロジーの進化で取得データが複雑化、データ量も多くなると、現状の権利整理のままでいいのか、あらためて検討していく必要が出てくる。特に、ホークアイのように映像からバットの動きや骨格のデータなど、これまで以上のトラッキングデータが取得できるようになれば、再整理が必要になると星氏は話す。

読売巨人軍 星春海氏

 権利だけでなく、膨大なデータをどう生かすのかを考える必要もある。選手の練習後の消費カロリー、摂取カロリー、運動データなどを選手の技量向上、ビジネスにどのように活用していくかを検討しているのが現状だという。

 また、データ活用においては、やはり「スポーツベッティング」が挙げらえる。しかし、星氏は日本の場合スポーツが「教育」と密接に結びついていることもあり、社会の理解を得るのはまだまだ難しいとして、「プロ野球においてはベッティングビジネスに踏む込むことはできない」とのこと。

 とはいえ、海外事業者が日本をターゲットにベッティングビジネスを展開しようとしているのが現状だ。残念ながら、権利者の許可を得ずにベッティングの対象にされるなど問題も出ている。星氏は「誰がそのデータの権利を有しているのか、どうすればビジネスに利用できるのかを明らかにするガイドラインを設けることで、不正への対応もしやすくなる」として、テクノロジーの発展だけでなく、それに伴う権利についても考えを改め、成熟させていく必要があると語った。

 今回の「Sports Ecosystem Conference」で話題になることが多かったのが「スポーツベッティング」。日本では合法化されていないが、海外では人気コンテンツに成長している。totoやwinnerのように特別に認可されて実施される可能性もあるが、もし実施可能となった場合でもハードルは多く、海外事業者とのパイの奪い合いも必至。押し寄せるスポーツベッティングの波に日本や日本のスポーツ界がどのような対応を見せるのか。今後の展開に注目したい。

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