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マイクロソフト「Empowering Japan's Future」で語られた、DX競争力を高める“5つのポイント”

「日本企業のDX成功には『開発者体験』が必要」日本CTO協会・小野氏

2022年12月27日 08時00分更新

文● 指田昌夫 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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既存組織への理解がなければDXは遅れる

 では、どうすれば日本企業のDXは加速できるのか。岡嵜氏は、DXクライテリアの中から経営にかかわるテーマをいくつかピックアップして、小野氏に質問した。

 まず「経営陣に技術者出身のCTOまたは技術担当役員がいるか」について。クレディセゾンでは小野氏がその役割を担っている。「技術を知らない役員がいない場合、2つのDXのうちの『開発者体験』ががら空きになってしまう恐れがある。経営レベルで技術を前提にした議論をしていくために、ぜひ必要だ」。

 しかし多くの企業では、そうした人材が経営層に加わり、意思決定に強く関与していく環境をすぐに整えることは難しい。そこで小野氏は、IT調査会社のガートナーが推奨する「バイモーダル」を採り入れることを推奨する。

 既存事業の蓄積の上で動いてきた「モード1」のシステムと、新しい「モード2」の仕組みを両立させるのがバイモーダルの考え方だ。例えばダムを造る事業において、失敗を繰り返して改善していくという方法は使えない。それは既存のシステムを用いて計画的に進めていく必要がある。一方で、スタートアップがアジャイルに開発を進めるモード2も同時に取り組む。「モード1を全否定してしまうと、逆にモード2の動きも遅くなる。この2つをそれぞれリスペクトしながら同時に進めることが必要だ」。

 そのためには、両者の文化の違いをつなぐ「ガーディアン」の機能が不可欠だと小野氏は話す。「デジタル人材として入社した人が社内で孤立しないように、仲立ちをするガーディアンの役割は重要だ」。

 これに対して岡嵜氏は、「DXというと変革ばかりに目が行くが、じつは既存の企業組織を尊重し、理解することも大事だというところが気づきになった」と語った。

DXリーダーは短い言葉でビジョンを示すべし

 次に「デジタルやデータ活用について、経営者がビジョンを発信できているか」という問いについて、小野氏は「リーダーは短い言葉で繰り返し説明する必要がある」と説明する。

 「クレディセゾンは、DXを経営の最重要課題として『CSDX』という言葉で発信している。これは中期経営計画の3本柱の1つでもある。また、私がアドバイザーを務める東京都でも、デジタルによって都政をどう変えるかを示す行動指針の資料を作成した」

 さらに、「競争領域と非競争領域を明確にし、競争力領域に対して内製化する」「ローコードやSaaS間連携などの自動化、効率化ツールを活用する」などについては、次のように見解を述べた。

 「システムごとに判断して、グラデーションを持たせることが重要。SIerによる開発が良いものはそのまま継続する。また、ビジネスサイドの考え方を持った人がローコード/ノーコードで開発することも、業務を理解したうえで効率化を実現する最短距離になる。クレディセゾンではRPAやローコード、ノーコードを扱う部署を新設している」

 マイクロソフトのナデラ氏は、将来的にプログラムの7割程度がノーコード/ローコード化すると予測しているが、小野氏もその程度までは進むのではないかとみている。ただし、ローコード開発の管理には注意も必要とも言う。

 「ローコードの適用利用が広がっていくと、プログラムの処理に専門的な知識が必要な領域に入ってくる。そこを野放しにすると事故が起きるため、開発にはガバナンスを効かせることが必要だ」

 最後に、デジタル人材に対する人事制度について。クレディセゾンでは、総合職の人事コースと別に「スペシャリスト」のコースが用意されている。小野氏は「スペシャリストの枠にデジタル人材を当てはめて、うまくいっている」と話す。

 「既存のキャリアパスの中に、専門性を評価できる仕組みを加えるだけでも機能するケースが多い。まったく新しい評価制度を無理して作る必要はないと考えている。また、お金を積まなければ優秀な人材は採れないと言われるが、お金で来た人はお金で去る。実は、一番必要なものは、組織の中での上司のサポートだという調査結果もある」

* * *

 本講演の全体を通じて語られたことは、経営陣をはじめとして組織全体が技術に対する理解を持ち、技術者の仕事を尊重できるかに、DXの成功はかかっているということだった。

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