編集部員の「これ、買いました」 第11回
RESOLUTEのジーンズを、尾道で暮らす人がリアルに1年間履きました:
尾道の人が履いたジーンズがビンテージに? 「尾道デニムプロジェクト」ジーンズを買った
2023年01月10日 16時00分更新
尾道の人がジーンズを育てるプロジェクト
ジーンズというのは不思議なものです。どこにでも売っている一般的な衣類でありながら、ビンテージ品は驚くほど高額になる。もともとは作業着だったのに、高級ブランドもこぞって手掛けている。
そして、履き込んでいった際の色落ちがここまで尊ばれる服(パンツ)というのも、なかなかありません。大抵の衣服はきれいな状態に価値があるのに、ジーンズの場合は「育てる」という概念さえあるのですから。
さて、「いい感じに色落ちしたジーンズが欲しい」となった場合、難しいのが入手方法です。ビンテージは高い。自分で履くと時間がかかる。ユーズド加工したものもありますが、「世界に1本だけ!」感は薄い。どうしたものか。
そこで、2022年11月に「尾道デニムプロジェクト」のジーンズを買いました。
尾道デニムプロジェクトは、広島県・尾道を舞台に、世界にほこるクオリティーの備後地方のデニムと、尾道の街の魅力を発信することを目的として、2013年にスタートしたプロジェクト。
尾道で暮らす人がワークパンツとして実際にジーンズを1年間履き込み、ユーズドデニムを育てるというものです。
履き込まれたジーンズには魅力がありますが、それを一から作るのは大変。尾道デニムプロジェクトの場合、「だったら、実際に1年しっかり履いて育ててもらおう」という、明快なコンセプトになっています。
プロジェクトに参加する人たちは、漁師、大工、サラリーマン、農家、住職など、多種多様です。当然、各々の仕事も生活も違うわけで、十人十色のシワや色落ちが生まれます。そもそも、ジーンズは作業着として生まれたので、働く人のパンツになるのは自然な成り行きともいえましょう。
プロジェクトの参加者1人につき、2本のジーンズが渡されます。「履く→回収」「配布→回収」を毎週交互に繰り返し、回収したデニムは工場でしっかり洗うことで、色落ちも進みます。
そうやって育てられたユーズドデニムは、尾道市にある尾道デニムショップにて販売しています。価格は状態やサイズなどに応じて、2万6800円〜4万8000円(税抜)。
しかし、筆者は現地で買ったわけではありません。2022年11月、都内のセレクトショップ「ZABOU」で尾道デニムプロジェクトのイベントが展開されており、そこで購入しました。
美容師からガラス職人に引き継がれた……?
尾道デニムプロジェクトのジーンズは、当然、すべて一点モノ。タグには、着用者の職業、サイズ、価格が記入されています。
気に入った色落ちのジーンズでも、サイズが合わないと困ります。その点、筆者が購入したものは、試着したところ、色落ちの雰囲気もサイズも(ウエストがちょっとだけ大きいのですが)しっくりきたので、えいやっと購入。3万9380円です。まあ、安くはない。
なお、タグには「美容師 ガラス職人」と記されています。美容師でありながらガラス職人、そんなマルチな職業の方だったのかな……と不思議でした。
イベントの説明のために来店していた尾道デニムプロジェクトのスタッフによると、「最初は美容師さんが履かれていたのですが、体型が変わって入らなくなったので、ガラス職人の方に引き継いでもらいました」とのこと。あ、なるほど……。
使用しているジーンズは「RESOLUTE」
さて、このジーンズは、「RESOLUTE」というブランドのモデルがもとになっています。要するに、尾道の人がRESOLUTEのジーンズを1年間履いたわけです。
筆者が購入したものはRESOLUTEの「710」というモデル。1960年代のデニムを再現した生地を用いた、細めのテーパードストレートモデルです。
ちなみに、この710は、どんな体型の人でもなるべく丈を切らずに(シルエットが変わらないように)履けるようにするため、ウエストに対して最大8レングス(28〜36インチ)を用意。その数は合計で87サイズとなっています。
たとえばウエストが30インチの場合、レングスは28〜36インチから選べるので、8種類も揃えていることになります。
RESOLUTEのデザイナーである林芳亨氏は、1988年、デニムブランド「ドゥニーム」にデザイナーとして参加。退社後、2010年にRESOLUTEをスタートさせました。
染め、縫製、仕上げまでの全生産工程が、備後地区の職人の手によるもの。昔ながらの染色方法、旧式の織機で織られたオリジナルの生地は、履き込んでいくにつれて、味のある色落ちを生んでくれます。
そんなRESOLUTEを手掛ける林氏の生まれ故郷が、尾道の隣町である松永なのがポイント。備後地域を活性化しようという想いに共感し、林氏が尾道デニムプロジェクトの監修を引き受けた経緯があるそうです。
ねじれや色落ちがビンテージの雰囲気
尾道の働く人たちに1年間履き込まれ、何度も洗濯されたジーンズ。色落ちもさることながら、大きくねじれているのも目に付きます。
ジーンズの生地は「綾織り」です。経糸と緯糸が交差するところが点のようになり、それが連なって斜めに線のようになります(「綾目」と呼ばれます)。
RESOLUTEの生地は綾目が左から右に上がっている「右綾」なので、綾目の方向に、つまり左から右にねじれていきます。古い時代のジーンズは、ねじれるのが自然なことでした。それを回避するためにねじれないように工夫していくのも、ジーンズの進化の歴史なのです。
しかし、RESOLUTEは古き良きデニムの生地を再現しているので、どんどんねじれていくわけですね。それもまた魅力。
筆者が購入したものは、アタリ(物などに擦れたり当たったりして生まれる、部分的な色落ち)はしっかりありますが、シワのように付いているというよりは、全体的にのっぺりと色が落ちています。
美容師〜ガラス職人の方が履いていたので、おそらく、ジーンズの一部が擦れるような激しい運動などは少なかったはず。ただ、膝の部分は白くなっているので、屈伸運動(しゃがみ込む)、「立つ、座る」はそれなりにしたのでしょう。
筆者の好みとしては、「ヒゲ」(前面の足の付け根〜太もも部分に出る、横方向の擦れたアタリ)や「ハチノス」(膝の裏側にできるアタリ)などはくっきり出てほしくなく、全体的に淡く色落ちしてほしい。なので、購入したジーンズの雰囲気は大いに好物です。
さて、RESOLUTEのデニム生地は「セルビッジ(selvage、日本では『セルビッチ』とも表記される)」。旧式の織機で織り上げられ、生地の端には「耳」と呼ばれるほつれ止めがされているものです。
ジーンズは、もともと作業着です。セルビッジが使われた理由は、生産効率のために耳付きの生地を使用し、生地末端の処理をせずに済むようにしたことが始まりと言われています。
もっとも、今ではもっと効率のよい生地の生産方法があるわけですが、昔ながらのデニムを愛好する人たちからは、「セルビッジでなければ」という声も多いですね。
古い織機で職人がスピードやテンションを調整しながら作ったセルビッジの生地は、経糸と緯糸のテンションに微妙なバラつきがあり、表面がごわごわとしたものになります。これがジーンズにふさわしい色落ちを生むとされています。
また、セルビッジのデニムを使ったジーンズは、洗濯していくと、脇の縫い目(耳の部分)が擦れて、キャタピラの跡のようなくっきりした色落ちも生まれます。なかなか迫力があってよろしい。
裾はチェーンステッチ(環縫い)仕上げ。上糸と下糸が二重に交差して縫い目を形成する縫い方です。表と裏で縫い目の見え方が異なり、裏面のループが連なった状態が鎖に見えるのでその名が付いています。
生地と糸の収縮率が異なるため、洗うたびにキュッと引き締まり、生地の表面が波打つ特徴があります。これによって生じるアタリも、独特の表情を生んでいますね。
履いたその日からビンテージ気分
履いてみると、丈がちょっと短いように思うかもしれませんが、RESOLUTE自体がそもそも細身のモデルなので、あまり長いと格好がつきません。筆者としても、ロールアップして履くことがないので、これぐらいのサイズ感がちょうどよい。靴にちょっとかかる、足の甲に当たるか当たらないか……くらい。
あくまで古着なわけで、自分に合ったウエストとレングスでないとハマらない。その点、筆者が購入したものは、サイズは問題なし。色落ちの加減も、長年にわたって履き込んだような味わいが出ています。
後ろから見たほうが、シルエットがわかりやすいでしょう。ゆったりというよりは、脚が長く見えるようなテーパードストレート。ヒップ周りは、以前に履いていた人の下半身に合わせて、曲面的に少し伸びています。もっとも、緩んでいるわけではないので、筆者のお尻を持ち上げるような感じになってくれました。
ちなみに、後ろのポケットの形がちょっとアンバランスなのは、1960年代頃のジーンズをベースにしているからだそう。“あえて”そうしているのですね。
これまで見てきたように、ビンテージさながらの色落ちをするRESOLUTEを、尾道の人たちがリアルに履きこんだことによって、各所に味のある色落ちやアタリが生まれ、世界に1本しかないジーンズになったのだ……ということがわかりますね。
履いたその日からビンテージ気分。実際に履き込まれていた風合いもさることながら、「尾道の働く人たちが、生活の中で履いていた」というストーリーも持っているわけです。
古着、ユーズドのジーンズは数ありますが、「前に履いていた人は、こういう人だった」というストーリーを持っているものは珍しい。そこが、尾道デニムプロジェクトならではの魅力でしょう。
そんなことを考えると、このジーンズを履いて、尾道に行ってみたいという気持ちも生まれてくるではありませんか。身体に合ったサイズですから、うっかり石段で転げ落ちるなんてこともなさそうだし……。
安い買い物ではありませんが、独自の“ビンテージ”という概念を持ったジーンズとして、おもしろいアイテムだなと感じながら履いています。
モーダル小嶋
1986年生まれ。担当分野は「なるべく広く」のオールドルーキー。編集部では若手ともベテランともいえない微妙な位置。一人めし連載「モーダル小嶋のTOKYO男子めし」もよろしくお願い申し上げます。
この連載の記事
-
第10回
ゲーム・ホビー
2022年に一番履いたスニーカー、ニューバランス996ゴアテックスモデル -
第9回
ゲーム・ホビー
「品質保証110%」という自信満々すぎるチノパンを買いました -
第8回
ゲーム・ホビー
米海軍のトレーニングショーツは夏にピッタリかもしれない -
第7回
ゲーム・ホビー
ドイツ軍の運動靴「ジャーマントレーナー」を履く -
第6回
デジタル
10年憧れ続けた靴、パラブーツ「ミカエル」の完成度に感激する男 -
第5回
ゲーム・ホビー
大人の革靴としてパラブーツ「シャンボード」を選びました -
第4回
ゲーム・ホビー
ミリタリーウェア“定番”の一つ、M-65フィールドジャケットを買う -
第3回
ゲーム・ホビー
ジョブズも履いた3万円のニューバランス「991」は愛すべき一足 -
第2回
ゲーム・ホビー
メイド・イン・プリズン! アメリカの刑務所で作られたデニムを履く -
第1回
ゲーム・ホビー
フランス軍のモッズコート「M-64パーカー」を買った - この連載の一覧へ