なぜネットワーク・トランスフォーメーションが必要か? その先進事例は?
Colt星野社長が語る、DXの進展で企業ネットワークに求められる「新たな要件」
2022年12月12日 08時00分更新
メタバース、自動運転車から、IoT、クラウド利用、リモートワーク/ハイブリッドワークまで、社会とビジネスのデジタル化が急速に進展している現在、企業のネットワークにも大きな変革が求められている。いわゆる「ネットワーク・トランスフォーメーション」だ。
デジタル・インフラストラクチャ・カンパニーとして世界中の企業が求める高品質なネットワークサービスを提供するColtテクノロジーサービス 社長の星野真人氏は、そうしたネットワーク・トランスフォーメーションの動きが日本企業でも徐々に見られるようになったと語る。これからの世界を見通したとき、企業のネットワークは具体的にどう変わるべきなのか。海外での先進事例やColtの取り組みなども含め、星野氏に聞いた。
グローバルな光ファイバー網を自社所有、そのColtが新たに目指す姿
Coltテクノロジーサービスは、欧州を拠点とするColtのアジア部門として、法人向けの各種ネットワーク(専用線、Ethernet、IP)や音声といったサービスを提供する通信事業者だ。
欧州とアジアを中心に世界五十数都市で光ファイバーネットワークを自社所有しており、顧客企業の拠点やデータセンター、パブリッククラウドなどを、広帯域/低レイテンシなネットワークで一気通貫につなぐ点を大きな特徴としている。
日本市場における事業展開は1999年のKVH株式会社設立にさかのぼり(2014年にColtが買収)、現在は東京、大阪、シンガポール、香港、上海、シカゴ、ソウルに営業拠点を構える。金融、サービス、メディアなど幅広い業界の顧客企業にサービスを提供しており、アジア全体で3100社を超える顧客企業を持つ。
2022年11月には米国の通信事業者、Lumen TechnologiesのEMEA(欧州、中東、アフリカ地域)事業を18億ドルで買収する意思があることを発表した(買収完了は2023年下半期の見込み)。この買収によってEMEA全域のネットワーク・インフラをさらに強化するとともに、Lumenとのパートナーシップを通じて北米地域のカバレッジも拡大する狙いがあるという。
Coltがこうした積極的な動きを見せる背景には、グローバルで新たに掲げるビジョンがあると星野氏は説明する。
「さまざまな顧客企業に対して『いつでも、どこでも、どんなかたちでも』最良のネットワークを提供できるデジタル・インフラストラクチャ・カンパニーになるというビジョン。これが、現在のColtが目指す姿です」
そしてこのビジョン実現に向けて、Coltが取り組みを強化しているのが、顧客企業における「ネットワーク・トランスフォーメーション」の支援だ。星野氏は、多くの企業が取り組むDX(デジタル・トランスフォーメーション)の一部として、ネットワーク・トランスフォーメーションは欠かせないものになると語る。
「リモートワークや在宅勤務を推進する、オンプレミスではなくクラウドの活用を増やすなど、コロナ禍やDXの影響もあって、企業におけるネットワークの使われ方が世界中で大きく変わってきています」
たとえば、Coltが企業に提供するインターネットバックボーンのトラフィック比率を見ても、直近のデータでは半分以上をクラウドサービスやCASBへのトラフィックが占めている。「オンプレミスではなくクラウドへのトラフィックがここまで増えているということに、わたし自身もかなり驚きました」と星野氏は述べる。
変化する企業ネットワークの要件、「柔軟さ」が今後のキーワード
従来の企業ネットワークでは、可用性や通信安定性、セキュリティ、そしてコストに見合った高速さ(帯域幅)が主な要件だった。これらの要件は変わらないが、ネットワーク・トランスフォーメーション以後はそこに「柔軟さ」という大きな要件も加わることになるという。
「リモートワークやクラウドへの快適なアクセスといった新たなニーズに対応するためには、Coltが掲げるビジョンのとおり『いつでも、どこでも、どんなかたちでも』利用できる、より柔軟な企業ネットワークへの変革が必要になります。従来のネットワークではコストも含めて実現が難しかった柔軟なネットワークを、進化した通信インフラや技術でどう実現していくのかがキーポイントだと考えます」
そうした柔軟なネットワークを実現するためには、たとえばWANの接続先を柔軟かつ迅速にコントロールできる「SD-WAN」の技術や、オンプレミスデータセンターを経由せずにクラウド上で通信のセキュリティを担保する「SASE」「CASB」といった機能を取り入れることになる。
Coltでは、クラウドサービスやSASEなどとのピアリングでSD-WANのアンダーレイを支えるアクセス回線サービス、マネージドSD-WANサービス、SASEゲートウェイサービスなど、さまざまなソリューションを提供しており、ネットワーク・トランスフォーメーションを進める顧客企業やSIベンダーをサポートしている。また、WebポータルやAPIを通じたオンデマンドでの回線帯域幅のスケールアップ/ダウン、従量課金モデルなども実現している。
欧州や米国よりはやや遅れているものの、日本でもネットワーク・トランスフォーメーションに向かうトレンドは感じていると星野氏は語る。実際にインターネットアクセス回線やクラウド接続サービスの売上は急成長しており、「柔軟性に耐えられるネットワークを求める動きは、日本でも確実に来ています」と強調する。
「新型コロナのパンデミック発生に伴って、2020年は多くの企業でリモートワーク環境の整備、『とりあえずインターネット回線の帯域を増速する』ことが最優先の課題となり、それ以前に計画されていたさまざまなネットワーク整備のプロジェクトは先送りされました。それらは2021年、2022年になって再開されたわけですが、その間にプロジェクトの目的そのものが変化して、『もっと柔軟なネットワークに変えていく』というかたちにシフトしてきていると思います」
大幅な回線コスト削減も可能にする“柔軟なネットワーク”
“柔軟なネットワーク”を実現するネットワーク・トランスフォーメーションによって、どのようなビジネスメリットがもたらされるのか。星野氏はいくつかの事例を紹介した。
たとえばヨーロッパ放送連合(EBU)を母体とし、サッカーの国際大会などのスポーツ中継を数多く手がけるメディアサービスプロバイダーのEUROVISION(ユーロビジョン)では、ライブストリーミングサービスに使用する帯域幅のオンデマンドなスケールアップ/ダウンを行うことで回線コストを大幅に抑えている。
またドイツの「ベルリン国際映画祭」では、各会場のサーバーへのデジタルシネマ配信などにColtのメトロエリアネットワークを活用しているが、ここでも同様に、大量のトラフィックが流れるイベント会期中のみ帯域幅を拡大してコストセービングを図っているという。
「これらはイベントでの活用例ですが、一般企業でも同じようにメリットが得られます。たとえば週1回、月1回といったペースでデータをクラウドにバックアップしている企業は多いと思います。そこでColtのポータルにあるスケジューラー機能を使い、バックアップを実行する時間帯だけ帯域幅を10Gに増速する、終わったら100Mに戻す、といった使い方ができるわけです」
こうしたサービスは、高度なネットワーク技術や自動化(SDN)技術に加えて、Coltが多くの都市で光ファイバーネットワークを自社所有しているからこそ実現できるものだという。
「他社の光ファイバーネットワークを借りてこうしたサービスを展開しようとしても、特にコスト面で柔軟さが制限されてしまいます。自社でネットワークを所有しているからこそ、それを使ってどんなサービスモデルを作るかを自由に決めることができる。この優位性は大きいでしょう」
光ファイバーによるメトロネットワークの構築には大きなコストと時間がかかるが、星野氏は将来に備えてその投資を継続していくと強調した。すでに過去5年間、国内における投資予算の半分以上を光ファイバー設備にあてており、ネットワークのカバレッジ拡大と接続点の増加、そして広帯域化を積極的に進めているという。
強みとする自社所有ネットワークをさらに拡充、SD-WAN技術進化も取り込む
「ネットワーク・トランスフォーメーション」という市場の大きな動きを見据えて、グローバル、そして日本のColtはこれからどんな取り組みに注力していくのだろうか。
まずビジネスの中核をなすネットワークインフラへの投資は継続していく。先に触れたLumenの事業買収や国内ネットワークへの投資強化もそれに当たるが、さらに星野氏は日本全国のカバー都市拡大、アジア圏でのリージョン拡大も、顧客ニーズを分析しながら段階的に進めていきたいと話す。
またSD-WANサービスでは、技術進化のスピードに合わせて機能面の強化にも投資していく方針だ。オンデマンド性も高めて「どのネットワークサービスにおいても『いつでも』を実現したい」という。
日本企業のクラウド移行、ハイブリッドクラウド環境の構築はこれからさらに本格化していくとみられる。そこではネットワークも一体で考える必要があるため、パートナーであるSIベンダーと協調して提案を進めたいと語った。
「クラウドと同じように、ネットワークも必要なときに必要なだけリソースが使えるようにする。そんなサービスをColtが提供することによって、企業ネットワークに対するお客様のマインドセットもだんだんと変わってくるはずです。日本はまだまだこれからの市場であり、開拓していく余地が大いにあると考えています」
(提供:Coltテクノロジーサービス)