自分のモデルのトランプが転売されていた
このところ、撮影用のライト機材にハマっています。撮影用のライト機材は、カメラやレンズほど高価ではありません。しかし、ライト本体、スタンド、デフューザー(光を柔らかくするフィルター)など、増えれば増えるほど、ボディーブローのように財布に効いてきます。
しかし、今回は経済的な話ではありません。撮影用のライト機材は、意外に大きくて、場所を取ります。普段はリビングルームをスタジオ代わりにしているので、来客時に出しっぱなしというわけにもいきません。
そこでストレージルーム(納戸)のトランプのコレクションの一部をフリマアプリに出して、機材の収納スペースを確保するということを思いつきました。今回は「メルカリ」を使用してみます。
フリマアプリやオークションサイトで、トランプが人気なのは何となく知っていました。さらに、「前田さんのトランプ、フリマアプリで買ったんですよね。高かったんですが……」という話を、ファンや友人から聞いたこともあります。
マジックファンでない方に少し説明いたしますと、米国のメーカーによる「Tomohiro Maeda model」と名付けられたトランプが少しだけ存在しています。
今も昔も、トランプ単体では販売されたことはありません。筆者のDVDや、筆者が監修し2006年に発売されたマジックができるデジタル腕時計「CASIO MGC-10」(参考:CASIO「MGC-10」、開発秘話)などに付属していたものです。バラ売りされていないこともあり、ある意味、レア物といってもいいかもしれません。
あらためてフリマアプリなどを検索してみると、結構なプレミア価格。自分の名前の付いたトランプに価値が生まれるのはありがたいですが、高額で転売されてしまった場合、そのお金がトランプのメーカーなどには行きません(もちろん、筆者にも……)。それって長い目でみると、あまり良くないと思うのですよね。
オリジナルのホログラムステッカーを作ることに
もちろん、筆者モデルのトランプがフリマアプリで売られること自体は止めようがありません。しかし、トランプを欲しい人にとっては、価格の問題はもちろん、保存状態の悪いモノを手にしてしまうリスクもあるかもしれません。
それなら、自分自身でトランプを出品すればいいのかも……と考えました。
フリマアプリなので一度に大量に出品できないものの、「欲しい人のところに、いつかは届いてほしい」という欲も生まれてきたからです(金儲けの欲ではありません)。最初は、ストレージルームの場所を空けるのが目的だったのですが……。
もっとも、自分がフリマに参戦したとしても、またそれが転売され、高値がついて……という循環になる可能性もあります。そこで、自分から出品したトランプには印をつけてフリマで売り、利益が出た場合はトランプのメーカーなどに還元する方法を考えることにしました。
今回、注目したのが偽造防止用のホログラムステッカー。ディズニーグッズとかの商品タグでたまに見かける承認シールです。
ところが、調べてみるとホログラムステッカーって、作るのが大変なんですよね。時間もお金もかかりますし、いろんな届け出も必要です。だからこそ、偽造防止や承認になるわけですが……。
いろいろな人の力を借りて、半年かけて無事にホログラムステッカーが完成しました。剥がすと「void」(無効)の文字が出るギミックもあります。
ついでにホログラム風のロゴが入った、ステッカーの証明カードも製作して、いよいよフリマに出品です。
メルカリのアカウントで「本人確認」して出品
筆者は、過去にメルカリにアカウントを登録済みです。ただ、調べてみると、2021年の5月に「昭和レトロ ニンテンドー ミラクルトランプ」を購入しただけ(笑)。いただいた評価も1個しかありません。
「購入してくれる人に不審がられないかなあ」と不安になりつつ、数個だけ出品することに。偽者だと誤解されないために、筆者のTwitterアカウントで「メルカリに出品しました」とツイートもしておくことにしました。
なお、価格については、筆者のモデルのトランプ自体がコレクター向けということ、ホログラムステッカーなどの経費がかかっていること、整理のために始めたのに販売&配送するたびに赤字では本末転倒であることなどをふまえた値付けにしました。もっとも、それでも筆者が大儲けするというほどの価格ではありません。
秒で完売。でも、発送にテンテコ舞い
筆者は、メルカリで売れたら、梱包材などを用意して……と、ゆったりとした流れを考えていました。しかし、出品とほぼ同時に購入していただいて焦りました。
というのも、メルカリでは、出品者も購入者も「匿名」で荷物を送受できるため、宅急便伝票も普通とは違います。
今回はヤマト運輸のネコポスを利用しましたが、梱包後の大きさや厚みにも規定があり、受け付けてもらえるのは、外形が、縦23〜31.2cm、横11.5〜22.8cm、厚さ3cm以内(ヤマト運輸と契約している法人・個人事業主は2.5cm以内)、重さ1kg以内です。
結果、梱包の方法や発送にテンテコ舞い。まるっきりの初心者ぶりで恥ずかしいです。
警察署を通じて公安委員会に「古物商申請」を提出
今回のメルカリの利用に際して、このように出品し続けることなどが事業と判断されることも想定し、「古物商」の申請をしておきました。
注意しておくべきは、申請料は1万9000円で都道府県の印紙で支払うこと。申請に必要な「身分証明書」は免許書やパスポートのことではなく、市区町村から発行してもらえる「破産者名簿に記載がないこと。後見の登記の通知を受けていないことなど」を証明する書類なこと……などです。
あとは警察署に行く前に「申請書類をもらいたい」や「提出したい」と担当部署に連絡し、先方の予定を聞いておくのも大切です。
告知と供給のバランスを取るのは難しい
1回目の出品で購入できなかったTwitterのフォロワーさんからは、残念がるリプライもありました。それに「ごめんなさい」をしつつも、2回目の出品は少し多めの1ダース(12個)にしました。これなら、きっと欲しい人にも行き渡るはず……。
ところが、今回も出品するとほぼ同時に「購入」の通知をメールとアプリで受け取るという、ありがたいドキドキとハラハラが続きます。うれしさのあまり、トランプを投入しすぎれば、梱包や発送が追いつかなくなりそう。そんなドキドキです。
しばらくは、自分が梱包と発送ができる範囲の量を少しずつ出品していくことで、家の整理と適切な価格での供給を両立させるつもりですが、物販というのは難しい……。そんなことを痛感しました。
もちろん、今回の試みは、フリマアプリの市場において過剰なプレミア価格で転売されることを少しでも防ぎ、ゆっくりでも、欲しい人にダイレクトに前田モデルを届けるためのもの。儲けることが目的ではありません。
しかし、企業や店舗をうまく運営している方々は、筆者のような苦労にプラスして、合法的に儲けを出さなければいけないわけで……。ひたすら尊敬するばかりです。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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