JAPANNEXT、ベッカー・サムエル氏のルーツを探る
漢字の読み書きもできるフランス人社長、日本でいきなり起業してうまくいった理由とは?
提供: 株式会社JAPANNEXT
フランスでは日本人との交流で日本語を習得
今ではメモを漢字を交えて取れるように
――どのようにして日本語を覚えたのでしょうか?
ベッカー氏:まずは日本人の友達がほしかったので、パリで日本のレストランや本屋が建ち並ぶエリアで配られている日本人向けのフリーペーパーを手にしました。そこには、「フランス語を教えてください」といった募集が掲載されているので、その募集に行って私がフランス語を教える代わりに、日本語を教えてもらうことで覚えました。
――それはかなり積極的なアプローチですね。
その募集にはほとんど毎週行ってまして、その方の日本人の友人にも会うことで、日本語の勉強が割と簡単にできました。ですので、日本に来る前から、結構日本語を話せたように思います。ちなみに、最近はスマホやPCで文章を書くので忘れ気味ですが、今では漢字の読み書きもできるようになりました。仕事ではメモもできる限り日本語で、漢字を入れて書くように心がけています。
――これだけ日本に長くいると、フランス語を忘れたりしませんか?
ベッカー氏:確かに、日本にいる間はフランス語を話す機会があまりありませんので、自分のフランス語が下手になってきたなと思うことがあります。久しぶりにフランスに帰ると、みんなフランス語なのですごく新鮮に感じますし(笑)。でも、話しているうちに自分のフランス語もすぐ戻りますね。今は弊社にフランス人の社員もいますし、東京でもフランス人の友人がいるので、フランス語を話す機会も増えたので、4、5年前よりかはフランス語をしっかり話せてると思います。
――ご家庭でフランス語は話さないのですか?
ベッカー氏:私の妻は日本人で4歳と1歳の娘がいるのですが、フランス語がまったくできないのが少し残念ですね。私は娘にできる限りフランス語で話しかけているのですが、娘たちが通っている保育園がすべて日本語なのと、私と妻が日本語で話すものですから、娘にはフランス語だと通じなくてコミュニケーションが取れません。ですので、フランス語と日本語の両方で話しかけることが多いです。
――ほかの外国人の方とのコミュニティーとかあるのでしょうか?
ベッカー氏:最近はコロナの影響で、東京を出て田舎で暮らそうとする外国人も増えました。私が住む千葉県一宮町でも、小さいですがフランス人のコミュニティーができ、外国人コミュニティーも以前と比べて多くなりました。あとは、子供の年齢が近い親同士の交流で、ほかの外国人と接する機会も増えています。そういった方たちとは、家族ぐるみで遊びに行ったりするのですが、子供がいる前では、私を含めてみなさん日本語で会話しています。ですが、親同士だけの場合は、英語で会話することが多いですね。
――ベッカーさんは英語もできるんですね。
ベッカー氏:英語しかできない友人も多いので、その場合は英語で会話しています。昔から英語を話す友達がいましたし、英語の映画もよく見るので、それで英語を覚えました。フランス語と英語は似ているところも多いので、日本語よりは覚えやすかったと思います。
コミュニティーに積極的に入っていける反面
実は結構人見知りだというベッカー氏
――そうしたコミュニティーはどのように作るのでしょうか?
ベッカー氏:一宮町では外国人に会うこと自体がそもそも珍しいのですが、何かの機会で会うと、その人にも何人か外国人の知り合いがいるので、そういった人たちを通してコミュニティーが広がっていきました。そういったコミュニティーには日本人の方もいまして、週末に市場に行くなどして遊んでます。
――そうしたコミュニティーに入っていけるベッカーさんのコミュニケーション能力がうらやましいです。
ベッカー氏:いえいえ、実は私も結構、かなり人見知りなほうでして……。新しい人と会うときはすごく緊張します。ですが、なんとか頑張って知り合いになっています。最初の入り口はかなり頑張っていまして、プライベートでは人見知りで苦しんでいますよ。――となると、外国である日本で起業することは、かなり大変なことのように思うのですが……。
ベッカー氏:小さな頃から日本で事業を起こしたいという夢がずっとありました。日本に留学した時も「フランスに戻りたくない」、「日本にずっと居たい」とその想いが強くなり、日本で起業したという流れになります。「毎日が戦い」という感じで、少しずつビジネスを拡大してきました。私が幸運だった点は、前の事業で社員として入社してくれた日本人の方にめぐりあえたことですね。JAPANNEXTを企業する際には信頼関係も築けており、それで今の会社があると思っています。
創業当時は販路開拓で苦戦するも
知らないがゆえにうまくいったことも
――起業して特に苦労した点を教えてください。
ベッカー氏:JAPANNEXT創業当時は、販路開拓ですね。ネットワークがまったくありませんでしたので、飛び込み営業でいろいろなところに製品を持ち込みました。ですが、最初はほとんど断られ、相手にしてもらえるまでかなり時間を要しました。その中でもビックカメラさんとはすぐに商談していただき、感謝しています。ビックカメラさんで弊社のディスプレーの販売が始まると、ほかの量販店も扱ってくれるようになりました。当時は、自分でいろんなところに声をかけたり、カタログを送ったりしても、返事がまったく来ないことがほとんどでしたね。
――逆にここが良かったと思える点があれば教えてください。
ベッカー氏:今思えば、業界のどこかの会社に入って、10年や15年ほど経験を積んでから起業するという方法がラクだったかもしれません。ですが、私は何もわからないままスタートしたので、知っていたら手を出さなかったようなことでもうまくいくこともありました。私は、なにも動かないことが一番もったいないと考えていますので、何でもやってみるとうまくいくことも多いと感じました。
――知らないがゆえに、業界が長い人では採用しないアイディアとかアクションとか?
ベッカー氏:例えば、ほかのメーカーでは春モデルや秋モデルなどを数ヵ月前から用意して、新しいモデルを一斉に発売するといったところが多いかと思います。ですが、私はできるだけ早く製品を出せる状態ならすぐ発売するといった感じで進めてきました。ビジネスとして考えた場合、そういったメーカーの手法のほうが効率的なのでしょうけど、私の手法では新しい機能を搭載したモデルをお客様がいち早く入手できるようになりますので、この方法のほうがお客様に喜ばれるのかなと思っています。
――最後にフランスでのPC事情をお聞きしたいのですが、フランスではPCをどこで購入するのが一般的なんでしょうか?
ベッカー氏:私がフランスを離れて20年ぐらい経つので、現状が正しいかどうかわかりませんが、通販で購入する人が多いと思います。弊社が手掛けるディスプレーという分野に限ると、フランスでも日本と同じようなブランドが人気ですね。マーケットは日本と同じような感じという印象です。ただ、日本で人気があるメーカーでも、フランスではあまり見かけないといった違いはあります。
――流通メーカーの違いはおもしろいですね。
ベッカー氏:もちろん、日本でもフランスでも人気のメーカーさんもあります。例えば、ハイエンド向けだとEIZOさんの製品は品質が良く、根強いファンがいて、フランスでも人気があります。あと、今回の出張ではフランスの量販店も見て回ったんですが、ディスプレーは台湾メーカーや韓国メーカーのものが多かったですね。
――日本ではあまり聞かないけどヨーロッパで強いブランドやメーカーってあるのでしょうか?
ベッカー氏:少しPCとは外れるのですが、フランスには「トムソン」という家電機器を手掛ける企業があったのですが、今は中国資本が入って「テクニカラー」となり、トムソンはブランド名として残っています。トムソンのディスプレーも見かけはしますが、それほどシェアが強いというわけではないです。
――なるほど。中国資本が入っているのは日本と似た状況ですね。今日はありがとうございました。
ベッカー氏から感じるのは「日本が好き」という熱量の大きさだ。起業するにあたり、経験が足りずいろいろな弊害もあったと思う。しかし、変化が急激なVUCA時代と言われて久しい昨今、凝り固まった先入観がビジネスを阻害することはままある。古くからある大企業ですら、これまでの習慣を見直さなければ生き残っていけない厳しい時代だ。
その点、ベッカー氏は日本でのビジネスをよくわからないまま起業したがゆえに、先入観にとらわれずに顧客に対して真正面から接することができ、それが好転した良い例だと感じた。それは、今回のインタビューで明らかになった自然豊かな故郷であったり、家族やコミュニティーだったり、これまでの人生において育まれたベッカー氏の人となりも大きく関係しているのだろう。今後も「独自路線」を歩み、唯一無二のメーカーとして邁進してほしい。
(提供:株式会社JAPANNEXT)
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