中堅中小企業のDXの遅れやIT人材不足の解決策としてノーコードの普及促進、活用を後押し
「ノーコード推進協会」設立、日本のソフトウェア文化変革を目指す
2022年09月01日 07時00分更新
「ノーコードによるソフトウェア文化の変革」をビジョンに掲げるノーコード推進協会(NCPA:No Code Promotion Association)が、2022年9月1日の設立にあわせて記者発表会を行った。アステリア、サイボウズ、船井総研デジタル、INDUSTRIAL-X、シムトップス、セゾン情報システムズ、ウイングアーク1stの7社が発起人企業として参加。幅広く会員企業を募り、2022年末までに30社、2023年には100社の加盟を目指す。
「『ノーコード思考』に発想を変え、日本のソフトウェア文化を変革したい」
ノーコード推進協会は、ソースコードを一切記述せずにアプリケーションやWebサービスの開発を可能にする「ノーコード(ノーコード開発)」の普及促進を通じて、日本における旧来型のソフトウェア文化の変革を目指す組織。ノーコードに関する情報発信や情報共有、ノーコードを活用したデジタル活用人材の育成推進、「ノーコード思考」の社会浸透、ノーコード製品を活用する業種、業態、領域の拡大などに向けた活動を展開していく。
IDCジャパンによると、2020年の国内におけるノーコード/ローコードプラットフォーム導入率は8.5%であったが、2021年には37.7%にまで増加。2023年には、新規開発されるアプリケーションのおよそ6割がノーコード/ローコードによる開発になると予測している。
代表理事に就任予定の中山五輪男氏(アステリア CXO)は、「ノーコードが日本の中堅中小企業のDXを救うことになる」と語る。日本は「世界デジタル競争力ランキング」において主要63カ国中で28位とデジタル活用が遅れている。同協会では、ノーコードの普及と浸透がそうした状況を大きく変えると考えている。
「日本の中堅中小企業は、大企業のようにDXを外部のIT企業に任せられるほどの資金がなく、ITに詳しいデジタル人材も社内にいないという課題がある。だが、ノーコードを活用することで、中堅中小企業には自分たちに合ったDXを進めることができるようになる」「システムを構築する際に、外部のIT企業に頼るのではなく、自らがノーコードで業務アプリを開発する『ノーコード思考』に発想を変え、日本のソフトウェア文化を変革したい」「日本はノーコード全盛時代に突入する。それを促進していくのが、ノーコード推進協会の役割だ」(中山氏)
具体的な活動として、ノーコード白書や書籍の出版、展示会やイベント、セミナーの開催のほか、日本ノーコード大賞の開催、ノーコード関連用語の標準化作業、ノーコードカオスマップの制作、マーケティング施策の実施、SNSやYouTubeなどでの情報発信、全国キャラバンによる普及啓蒙活動、ノーコードを普及させるために必要なプレゼンテーション講座の開設などを予定している。これらは同協会内の部会活動を通じて展開する。
9月29日には、「ノーコード全盛時代の幕開け」と題した第1回目のオンラインセミナーを開催する予定だ。
「現場からアプリが生まれる。中小企業にとっては即効性がある処方箋」
ノーコード推進協会 副代表理事に就任予定の青野慶久氏(サイボウズ 代表取締役社長)は、「協会の発足を心の底からうれしく思っており、悲願でもあった」と述べたうえで、同協会立ち上げの背景となった日本の現状を次のように評価する。
「サイボウズの創業から25年間に渡って、日本のデジタル化をどう推進するのかを考えてきたが、経営者の理解が進まず、デジタル人材も増えず“デジタル敗戦国”とまで言われている。日本はデジタル人材の絶対数が少なく、しかもその多くがIT事業者側にいる。そのため企業は外部に(システム開発を)丸投げするしかなく、良いシステムができず、効率も上がらない」(青野氏)
ただしこうした厳しい現状はノーコードによって変えられると、青野氏はノーコードに対する強い期待を語る。
「だが、発想を変えるとデジタル人材以外の人たち、しかも現場業務に詳しい人たちがたくさんいるとも言える。現場の人たちにノーコードツールを与えることでデジタル人材化ができ、現場からアプリが生まれることになる。とくに中小企業にとっては即効性がある処方箋となる。ノーコードツールならば毎日アプリを生み出すこともできるため、欧米を一気に追い越せるだろう。“1億総デジタル人材化”ができ、これこそが日本型のDXとなる」(青野氏)
さらに、ノーコード人材が増えることで、それに飽き足らなくなった人々が「ローコード人材」へと進化し、ゆくゆくは高度デジタル人材が増える結果につながるという将来ビジョンを描いているという。
「たとえば東京・白金台の八芳園では、ブライダル部門のデジタル化が遅れていたが、ノーコードツールを利用することで社内にデジタル人材が育ち、ブライダル業界向けにDX支援事業を立ち上げた。DXに出遅れていた企業が、DXを提供する側に回ることができている」(青野氏)
ノーコード推進協会にはさまざまなジャンルのノーコードツールベンダーが参加できるほか、外資系ベンダーや販売パートナー、ユーザー企業の参加も想定されている。青野氏は「ノーコードはひとつのツールで完結するものではない」と述べたうえで、さまざまなツールを組み合わせることでより多くのことがノーコードで実現可能になるため、「多くの企業が連携してノーコードを広げていくことが大切だ」とまとめた。
デジタル庁も「ノーコードは重要なアプローチとして推進していく」
同協会発起人の1人であるアステリア 代表取締役社長の平野洋一郎氏は、「(日本国内で)『2030年には79万人のIT人材が不足する』と言われているが、アステリアが創業した24年前にも同じようなことが言われていた。このままでは20年後も同じことを言っているかもしれない」と語り、「IT人材不足」問題解決に対するノーコードの効果に期待を寄せた。
「ノーコードは日本の大企業、中小企業、そして地方の企業において、現場を含めたデジタル化を実現するものになる。デジタル化やDXが進んでいない企業こそが、“リープフロッグ(カエル飛び)”現象のように飛び出すことができる。ノーコードは日本全体のリープフロッグにもつながり、世界に遅れているいまのデジタル化の状況を飛び越し、企業の競争力の源泉になる」(平野氏)
副代表理事に就任予定の森戸裕一氏(日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事)は、「ノーコードは、デジタル人材を確保しにくい中小企業への導入が検討されており、ノーコード推進協会の役割は高まっていくだろう」と語った。
デジタル庁 統括官の村上敬亮氏からのビデオメッセージも放映された。村上氏は「“人月工数”で積算する商売の時代ではなく、ソフトウェアを作る作業を抽象化し、よりユーザーフレンドリーにすることが時代の方向性。それに合致するのがノーコードだ」「デジタル庁としても、ノーコードは重要なアプローチとして推進していきたい」と語った。
発表会ではノーコードを活用したユーザー事例も紹介された。
愛媛バス 財務部 取締役の森川由貴氏は、「ノーコードにより、システムの知識がゼロでも社員が自由に使えるシステムが構築できた。使いはじめは使い勝手が悪くても、作り直すことができる。業務システムとして導入しはじめたものが、基幹システムに育ち始めている。システムづくりの喜びを感じている」とコメントした。
また熊本県小国町 町長の渡邉誠次氏は、「DXに取り組んでいるが、小規模自治体では専門知識を持った職員がいないことや、大規模な予算を確保できないという課題がある。そこでノーコードによる業務アプリの作成、運用を行っている。小規模自治体におけるDXには、ノーコードが重要なキーワードになる。ノーコード推進協会の取り組みが、小規模自治体や小企業におけるDXの追い風になることを期待している」と述べた。