掃除機の話題はモメやすい?
米国の西海岸に筆者が住んでいた頃、知人や友人であっても「宗教」「人種」「政治」の話題に触れるのはタブーといわれていました。日本では「政治」が「野球」になったり、場合によっては「使っているOS」や「ゲームハード」などにタブーが変わるバリエーションもあり、多様性を実感したのをよく覚えています。
家電にタブーはあるのでしょうか? 実は、「掃除機」の話題について、筆者はあまり触れないようにしています。それぞれのユーザーが家電にこだわりや愛着がある中でも、掃除というプライベートでナイーブな生活習慣に関わるものだからこそ、意見がぶつかりやすい印象を受けています。
ショッピングサイトの掃除機のクチコミを眺めると、「フィルター式がいい」「いや、サイクロン式が……」というだけでなく、ややケンカ腰な論争も見かける印象です。
筆者は昔からのダイソンファン
もっとも、筆者が掃除機の話題を避けがちなのは、さまざまなメーカーの製品を比較してきたわけではなく、昔からのダイソン製品ユーザーだから……かもしれません。
2004年に日本で発売された「DC12」を使ってから、「DC45」「V8」、今回レビューする「V12 Detect Slim」と、4台の掃除機を使ってきました。
ダイソンを選び続ける理由は、とてもシンプル。筆者の趣味はDIYで、微細な木屑が掃除機のフィルターに目詰まりしやすく、メインフィルターのないサイクロン式1択だからです。
注目ポイントは「見えないゴミの見える化」
以前、本連載ではダイソンのV8をレビューしましたが、今回使ってみたのはV12 Detect Slim(実売価格7万9000円前後)です。
最新のV12 Detect Slimを使う上で、1番楽しみにしていたのは、レーザーが搭載されたクリーナーヘッド。これは、フローリング床の見えないホコリを可視化する機能。
LEDでゴミを照らすタイプの掃除機なら、他メーカーからも発売されています。しかしV12 Detect Slimは、よりゴミを見えやすくするように、底面に近いところにレーザーを照射するようにしているほか、照射角を正確にするため、レンズの自社開発までしたそうです(参考:「掃除機のダイソンが『レンズ』を作ったワケ」)。
レーザーの照射位置が床面に近いので、普段は気がつかないホコリを蛍光グリーンに輝やかせます。製品名のようにゴミをDetect(探知)する、まるでマジックみたいな視覚効果です。
とくに、筆者のリビングは色の濃いカリン材なので、レーザーによる効果を実感しました。レーザー搭載は、部屋に浮遊するホコリが陽の光に照らされて見える現象に着目して応用したそう。V12 Detect Slimのレーザーは、床面のホコリはもちろん、目地の中のゴミも光らせるのが嬉しいところ。
さらに手元のディスプレーもゴミを見える化
もう一つの注目ポイントは、手元の液晶カラーディスプレーの表示項目。どんなゴミがどれくらい吸引されたかがリアルタイムにわかります。
10μm以上のサイズのゴミを、4つに分類して表示してくれます。計測には「ピエゾセンサー(圧電効果を利用したセンサー)」が使われ、1秒間に1万5000回計測しているそう。すごいなあ……。
参考までに、グラフで分類されるゴミのサイズは「>10μm」が花粉など、「>60μm」が微細なホコリ、「>180μm」はダニの死骸など、「>500μm」で白砂糖の粒(さらに大きいゴミなど)だそう。
また、バッテリー残量から計算した使用可能時間もディスプレーに表示されます。
いままでは捨てるときぐらいしか見られなかったゴミを、数値で表示することで、掃除がゲーム感覚に近くなり、達成感を生むギミックでもあります。そうした、ユーモアと生真面目な機能は、英国からスタートしたダイソンの製品らしく、日本のユーザーの好みにピッタリだと思っています。
吸い込むゴミの量を自動判別して吸引力を調整
ゴミが多い場所に来ると、自動で吸引力を変えるオートモードもそなえています。これは、考え事をしながら掃除をしているときにとても便利。逆にゴミの少ないところは静かなエコモードになることで、バッテリーを長持ちさせる効果もあります。
我が家は、1階と2階で140m2ほどあり、いままでのV8だと全体を掃除するにはバッテリー容量が足りず、途中で休憩をするか掃除する日を分ける必要がありました。
バッテリー消費がおさえられるV12 Detect Slimのオートモードは、筆者にとって嬉しい機能。3日に1度ほどの掃除ペースが1〜2日に1度に変化しました。
おおむね満足、でもあったら便利なこと
掃除機としてV12 Detect Slimにはおおむね満足していますが、筆者にとって、V8との気になる違いは、ハンドルからクリーナーヘッドまでの高さ(長さ)かもしれません。
V12 Detect Slimのほうが16cmほど短く、身長が182cmの筆者にとってはパイプの長さは少しだけ足りません。そのせいで腕を前方へ動かす距離が短くなるので、動かす回数が増え、軽量化したメリットが活かせないのがちょっと残念。
テレスコープタイプの可変パイプか、オプションでもいいので純正の長めパイプがあるとありがたいです。もちろん、平均的な身長の方なら十分な長さでしょう。
同社の製品には、一回り大きな、上位機種のV15があります。そちらだと筆者にはピッタリのサイズ。筆者は、かわいくてコンパクトなV12をつい選んでしまいましたが、高身長の方は店頭やショールームなどで試用してみるのもいいかもしれません。
なお、サイクロン掃除機は、数ヵ月に一度のプレフィルターの洗浄が必要。そのとき、毛が細くやわらかいブラシか、エアダスターがあると便利です。普段取りにくいクリアビンの奥の汚れが除去しやすくなります。
V12 Detect Slimの最先端の「ゴミの見える化」は、「掃除が苦手」と思っている方や、初めてのダイソン製品を買う方にはとくにオススメかもしれません。レーザーで汚れている(=掃除されていない)場所がわかりますし、吸ったゴミの量を表示してくれることで「掃除をしたぞ」という達成感も得られます。
掃除するときの「見える化」は、確実にモチベーションが上がります。しかし……筆者の仕事のマジックでは、タネやギミック(仕掛け)の「見える化」は困るかもしれません。
以前、テレビの特番で、透明なガラスのテーブルでマジックを披露したことがありました。「プロのマジシャンは、ガラスのテーブルの上でも、相手に見破られないマジックができるのだ」という演出をねらったことはわかりますし、マジック自体に失敗はなかったのですが、なんだか居心地が悪かったのを覚えています……。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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