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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第172回

ペンチも“映え”させる時代!? DIYで使う工具を「紅茶」と「酢」で黒染めする

2022年08月02日 16時00分更新

文● 前田知洋 編集●ASCII

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SNSで「映え」る工具とは

 家を修理してしまうプロみたいな人から、ゆるんだネジを締めるだけの人まで、DIYの幅は人それぞれです。とはいえ、毎日のように作業するという人はそれほど多くないでしょうから、ツールボックスを開けてみたら、しばらく使ってない工具がサビだらけ……そんな経験もあるかもしれません。

 筆者は、もちろん適切なメンテナンスは必要ですが、その上で「錆びていても、工具は機能すればいい」と以前は思っていました。

 しかし、最近はDIY中の写真をSNSに投稿すると、その仕上がりよりも、「工具が汚い」と残念なコメントをもらうこともあります。

 逆に言うなら、工具類が手入れされていると「うまくDIYで修理できている」という印象になるから不思議です。ただし、工具が新品でピカピカすぎるのも、DIY初心者みたいに見えてしまうかもしれません。

工具類はなぜ錆びやすいのか

 錆びない金属といえば、ステンレス(スチール)が思い浮かぶでしょうか。しかし、工具は炭素工具鋼で作られていることがほとんど。その理由は工具に必要な「耐摩耗性(すり減りにくさ)」や「固さ」が優れているからです。

 一方、デメリットとして、炭素が含まれる鋼は錆びやすい欠点があります。ちなみに、錆びにくいステンレスはクロムと鉄の合金を指します。

炭素工具鋼でできた工具は錆びやすい

 ステンレス製の工具も存在します。しかし、工具に必要な耐久性から、錆びやすい炭素工具鋼がよく使われるのが現状です。

上級者っぽくなり、しかも錆びにくい、ツールの黒染め

 表面が黒い鉄というと、フライパンなどの「黒サビ(四酸化三鉄)」が有名です。しかし、今回紹介するのは「四酸化三鉄」ではなく、いわゆる「タンニン鉄」を鉄の表面に付着させ、防錆する簡単な方法です。

 手間は多少かかりますが、タンニン鉄による「黒染め」なら、家にある材料で可能ですし、見た目だけでなく、錆びることを防止する効果もあります。興味のある方や、よくDIY写真をSNSに投稿する方は、試してみてはいかがでしょうか。

紅茶とお酢を使った黒染めのやり方

 主に必要なのは、サビ落とし剤、紅茶、お酢の3つです。作業の時間はそれほどかかりませんが、作業を当日と翌日の2回に分けることをおすすめします。時間をおくと、しっかりと黒染めができます。

今回用意した磨き粉とサビ取り剤(写真にはスチールウールがありますが、念入りに下処理がしたい場合のオプションです)

(1)しっかりとサビを落とす
 サビ取り剤や磨き剤を使って、工具のサビを落とします。ムラのない仕上がりにしたいなら、下処理が大切になります。筆者はサビ防止が目的なので、ややテキトーにサビ落としをしています。

 今回は塗るだけでサビを落とすタイプのサビ取り剤を使いました。もちろん、新しく買った工具なら、このプロセスは必要ありません。

こすらずに落ちるタイプのサビ取り剤は強い匂いがする。今回使ったのは「ネジザウルスリキッド」

(2)表面をきれいに洗う
 表面に油分があると、黒染めがうまくいきません。サビを落としたら、食器洗い洗剤などでしっかりと洗い流します。

食器用洗剤を使い、油分をしっかりと水洗いする

(3)黒染め液を作って漬ける
 黒染めしたい部分を浸せる容器を用意して、黒染め液を作ります。今回は200ccほどの水に紅茶のティーバッグ4つを鍋で煮出しました。適度に冷めたら、容器に煮出した紅茶を移し、全体の2割を目安にお酢を継ぎ足します。

家にあった紅茶とお酢

ティーバッグ4袋を200ccのお湯で煮出す

濃い紅茶を容器に入れ、お酢を2割ほど足して漬ける(熱湯に注意)

 準備ができたら、工具を黒染め液に浸します。90分以上漬けておくと「タンニン鉄」が表面にできますが、筆者は次の日まで一晩漬けることにしています。

(4)十分に乾かし、油を塗る
 液から取り出し、黒く染まっていたら軽く水で流します。擦るとタンニン鉄が取れてしまうので、水に浸す程度に。自然乾燥、もしくはドライヤーで乾燥させて、仕上げに油を塗って完成です。

一晩漬けるとこれくらい黒くなる。擦ると色が落ちてしまうので、軽く水で流す程度に

しっかりと乾燥させたら強めに擦っても大丈夫。今回は、粘度が高めの刃物用油を仕上げに使った

屋外で1年ほど使ってもサビは目立たない

 ネットで検索してみると、キャンプ用のナイフに同様の黒染めをしている人もいます。ナイフへの黒染めの効果に対する賛否は人それぞれ。

 筆者による工具の黒染めでは、屋外を含め、1年ほど使っても目立つサビは発生していません(本記事冒頭の写真)。タンニン鉄によって油の定着がよくなったり、タンニン鉄の皮膜により空気に触れる部分が減ったことによる防錆効果だと、筆者は推測しています。メンテナンスは表面のツヤがなくなってきたら、油を薄く塗る程度。頻度は1年に1回ほどです。

ほかにも錠剤の防錆剤や防錆ケースなどもある

 サビの防止について調べてみると、錠剤形の防錆剤や、工具箱の内側に似た成分を配合した製品もあります。密閉空間であれば、有効期間は2年だそう。

 筆者は工具を毎日のように使い、出しっぱなしにしていることも多いので、錠剤タイプは使ったことはありません。釣り具や、スキー/スノーボードなどの防錆に使われるようです。気になる方は「気化性防錆錠剤」などで検索してみてください。

 今回紹介した黒染めも、それさえしておけば大丈夫、というものではありません。「身から出たサビ」などの格言もあるように、日々のメンテナンスや工夫が必要なのは、工具だけでなく、人生も同じ。とくに、SNSの投稿に、予想外の部分をコメントされる現代では、ますます大切になるでしょう。

 人生のメンテナンスがおろそかな筆者ですが、とりあえず「紅茶の風呂」にでも入ってみると、身から出るサビも少なくなるかもしれません(笑)。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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