新築だけが建築ではない。改修にも最新鋭の技術がフル活用されている。
とりわけ地震大国・日本の名建築には、耐震基準の見直しに伴う耐震改修が欠かせない。迎賓館赤坂離宮、国立西洋美術館、第一生命保険本館など、数多の名建築の改修を手がけてきたのが清水建設。中でも代表的なのは国立代々木競技場だ。
建設・総合意匠は丹下健三。1964年、東京オリンピックのために作られた。清水建設が施工したのがプールをおさめる第一体育館だ。全長約280メートルのメインケーブル2本が渡され、そこに屋根が吊り下げられる「吊り屋根方式」を採用。鋼板で作られた屋根は船底のように1つとして同じ角度がない曲線形状で、当時の吊り構造技術ではなしえなかった挑戦的な設計になっていた。
ふたたび訪れた東京オリ・パラの開催を目前に控えた2019年、代々木競技場の改修にあたったのが毛利元康氏だ。しかし代々木競技場は仮設を前提に作られていた施設。その後50年以上も残ることは想定されておらず、改修は困難の連続だったという。清水建設の取材を通じてたてものとまちのイノベーションを追ってきたアスキー総合研究所の遠藤諭が、毛利氏にその苦労を聞いた。
「ありえない短期間」で作った競技場
── 改修というのはどういうことをするんですか?
基本的には地震に対する安全性を確保するための改修が目的で、追加で外構の耐震改修をやりました。あとは誰もが安全安心に参加できるためのバリアフリー化、セキュリティの確保、安全性。
── そもそもこの競技場はどんなふうに作られたものか教えていただいていいですか。
ご存知かもしれませんが、ものすごい短期間で作られているんです。もとはワシントンハイツという米軍居住地だったんですが。
── その前は代々木練兵場でしたよね。
そうです。1959年5月にオリンピックの開催が決まったとき、米軍居住地だったのでなかなか中に入れなかったということもあって、基本設計5ヵ月、実質設計6ヵ月、入札2ヵ月、施工19ヵ月ということでやってるんですよ。
── 常識から考えると……
考えられないです。入札2ヵ月というのもありえないし、施工19ヵ月もありえない。それくらいの短期間で工事をやったということです。
── かなりの突貫工事だった。
「ゆく年くる年」のときもまだ「隣はまだ工事をしています」と放送されたようです。
── やっぱり印象的なのは楕円形の外観ですが、あれはどういう経緯でああなったんですか。
昭和31年に、新潟の神社で124人が将棋倒しで亡くなられる事故があったんです(彌彦神社事件)。その当時、日本で1万人を収容する施設というのは初めてだった。それでいざというとき四方向から逃げられることを考えて巴型の形にしたと聞いています。
── なんと、防災がベースにあるんだ。
原宿の方から来る人、渋谷の方から来る人をうまく配置できるように建物の中には立体交差点を作っているんですよ、プロムナードとして。原宿から入りたい人は上を、渋谷から来る人は下を通る。そういう誘導の仕方を考えて作られていたわけです。だから、その当時から原宿口には歩道橋を作ろうという構想が丹下先生にはあったと聞いています。
── 今原宿駅前にある歩道橋がそれですか?
そうです。あれは作らないと動線が確保できないということで。
── その後竹の子族が活躍する場所ですよね。そんな理由があったとは。
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