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がん免疫療法による臓器傷害、原因の一端を解明=京大など

2022年07月16日 07時04分更新

文● MIT Technology Review Japan

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京都大学、熊本大学、虎の門病院の研究グループは、がん免疫療法の副反応で、正常臓器が損傷するメカニズムの一端を解明した。がん治療の選択肢として定着しているPD-(L)1 阻害療法などでは、副反応として正常臓器が損傷することがあるが、原因は明らかになっていない。

京都大学、熊本大学、虎の門病院の研究グループは、がん免疫療法の副反応で、正常臓器が損傷するメカニズムの一端を解明した。がん治療の選択肢として定着しているPD-(L)1 阻害療法などでは、副反応として正常臓器が損傷することがあるが、原因は明らかになっていない。 研究チームは、がん患者の多くが高齢者であることに着目し、がんを持たせた老齢のマウスにPD-1阻害療法を実施。臓器を解析した結果、肺、肝臓、腎臓に、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、B細胞が異常に集積し、異所性リンパ組織を形成していることが確認された。これらの臓器では抗体が沈着しており、臓器がダメージを受けていることが分かった。 次に、副反応を起こした老齢マウスの血清から生成した免疫グロブリンを、処置をしていない若齢マウスと老齢マウスに移植すると、老齢マウスの臓器だけに免疫グロブリンが沈着し、免疫療法の副反応と同様の症状が現れた。このことから、CD4T細胞やB細胞の活性化を通して誘導された自己抗体が、老齢組織に沈着することで副反応が現れると考えられるという。 肺に集積するCD4T細胞は、IFN-γとIL-21を強く誘導する。そこで、研究チームは老齢のIL-21欠損マウスとIFN-γ欠損マウスを作製し、症状を比較した結果、免疫療法に伴う臓器障害や異所性リンパ組織形成、抗体沈着にはIL-21が必要で、IFN-γは必ずしも必要ではないことが分かった。副反応が起こる臓器で発現上昇し、IL-21が制御する因子を、網羅的な遺伝子発現解析で探索したところ、B細胞の遊走因子であるCXCL13が、IL-21を産生するCD4T細胞によって発現が上昇することが分かり、実際にCXCL13がPD-1阻害療法に伴う異所性リンパ組織形成や臓器障害に寄与していることを実験で確認した。 研究成果は7月11日、米国科学アカデミー紀要にオンライン掲載された。研究チームは今後、解析を進めることで副反応が発生するメカニズムの一層の解明、新たな治療戦略の構築につなげたい考えだ。

(笹田)

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