慶應義塾大学の研究チームは、大腸がんの増殖を司るヒトの「がん幹細胞」が化学療法後も死滅せず、再燃・再発につながるメカニズムを初めて解明した。大腸がんの生命予後を決めているがんの再燃・再発に着目した新しい治療法の開発につながる可能性がある。
慶應義塾大学の研究チームは、大腸がんの増殖を司るヒトの「がん幹細胞」が化学療法後も死滅せず、再燃・再発につながるメカニズムを初めて解明した。大腸がんの生命予後を決めているがんの再燃・再発に着目した新しい治療法の開発につながる可能性がある。 化学療法でも死なない「がん幹細胞」の存在は、がんが再燃・再発する原因と考えられてきたが、その詳細は明らかにされていなかった。今回研究チームは、ヒト大腸がんをマウスの体内に移植し、その振る舞いをリアルタイムに観察する技術の開発に成功。この技術により、一部のがん幹細胞は休眠状態(増殖しない状態)にあり、化学療法を生き延びてクローン増殖することを明らかにした。 さらに、がん幹細胞が、細胞外基質(基底膜)にしがみつくことによって休眠状態を維持していること、さらに、基底膜との接着が弱まると休眠状態のがん幹細胞は「YAPシグナル」の活性化とともに増殖を再開することを発見(YAPは、細胞がどのような足場と接着しているかを認識する機構の一つ)。YAPシグナルを阻害する薬剤が、化学療法後のがん幹細胞の再増殖を抑え、がんの再燃・再発を遅らせることを動物モデルで確認した。 研究成果は2022年7月7日付けで、国際科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された。