役割や能力の異なる異機種ロボットを自動化/最適化、ベンダーロックインの解消も図る
SAP、異機種混在の倉庫ロボットを連携「SAP Warehouse Robotics」発売
2022年06月30日 07時00分更新
SAPジャパンは2022年6月28日、倉庫ロボット連携ソリューション「SAP Warehouse Robotics」の提供を開始した。
「SAP Business Technology Platform(BTP)」で構築されたSAP Warehouse Roboticsは、ロボットを活用した倉庫業務の自動化を実現するソリューション。役割や能力、ベンダーの異なる複数の異機種ロボットを稼働させていても、それぞれのロボットの集約管理や指示連携、ロボット配置計画の最適化などを行い、柔軟な倉庫オペレーション構築を支援することができるという。
SAPジャパン SAP Labs Japan シニアプロダクトスペシャリストの前川純氏は、倉庫現場においては生産年齢人口の減少による人手不足の一方で、デジタル化により商流と商機が変化し、たとえば当日出荷や翌日配送、土日配送対応、24時間受注対応、さらには商品数とカスタマイズの増加などで「倉庫業務が煩雑化している」と説明する。
「これらを解決するためにロボットの導入が進んでいるが、複数の異機種ロボットが稼働する環境の構築と管理は、時間も手間もかかり、容易ではない。その結果、1社のロボットベンダーに依存する状況となり、ベンダー特有のフロアレイアウトや業務フローに固着した運用が生じて、ダイナミックな変化に対応できなくなっている」(前川氏)
SAP Warehouse Roboticsは、こうした課題解決に貢献し、柔軟な倉庫ロボティクスの実現を支援するという。たとえば、これまで数カ月を要していたロボットの連携開発が数週間で実現できるほか、業務の拡大に合わせてロボットの台数追加も容易に行える。「新規ロボットの追加だけでなく、修理のための代替機の入れ替えなども容易にできる」(前川氏)。
データ連携によって、ロボットが持つ適性を捉えた運用も可能になるという。たとえば、軽量物を搬送する際はロボットAに、重量物を搬送する際はロボットBに指示を行う、といった具合に、タスクに応じた振り分けを自動処理できる。この指示連携によって、異機種混在のロボットを活用した複雑な業務の遂行を可能にしている。
さらにSAP Warehouse Roboticsは、他の管理システムと連携する“多層階ソリューション”となっている。在庫管理や商品の処理、移動をサポートする倉庫管理システム「SAP Extended Warehouse Management」と連携することで、入庫、保管、出荷に加えて、流通加工などの多様な倉庫タスクを処理。コンベアやスタッカークレーン、RF(無線)フレームワークを活用したフォークリフトなど、さまざまな物流機器との連携による複雑な編成にも対応できる。
加えて、ロボットから収集したビジネストランザクションデータを経営基幹システムである「SAP S/4 HANA」と連携し、現場データを垂直統合することで、データを経営視点からリアルタイムに可視化し、経営判断の支援につなげることもできる。たとえば、入荷検品を自動処理してサプライヤーへの支払処理を行ったり、商品出荷や運送会社への引き渡しに合わせて売上計上を行ったりすることが可能だ。「より迅速で高度化された『Industry4.Now』の世界観が実現できる」(前川氏)。
なおSAPでは、2023年にSAP Warehouse Roboticsと製造業向け管理システム「SAP Digital Manufacturing Cloud」との連携を可能にする計画だ。これにより、製造現場における仕掛品の搬送指図への対応などを実現し、製造現場から倉庫現場をつないだ次世代物流倉庫やスマートファクトリーの実現を支援するという。さらに2023年以降も、外部倉庫管理システムとの連携など、さまざまな関連アプリケーションとの連携を進めていく方針だとしている。
「自動化が進んでいる日本は重要な市場になる」
SAP EWM担当プロダクトマネジメントのクリスチャン・リーズ氏は、SAP Warehouse Roboticsについて、「ベンダーに依存することなく、ロボットを簡単に統合でき、異なる種類のロボットをひとつのソリューションで管理できる」と説明した。欧米では2022年5月に発売したが、過去2年間に渡って独Bachtleと共同開発を進め、数カ月間に渡る本番環境での運用実績もあるという。
「SAP Warehouse Roboticsにとって、日本は重要な市場になる。日本では自動化が進んでおり、ロボットを使った運用にも積極的に取り組んでいる。そのため、このソリューションを早期に採用することができる。ロボットベンダーと協力して、エコシステムを構築したい」(リーズ氏)
SAPジャパンでは、パートナー企業や機器ベンダーとともに市場開拓を進めるほか、、「Industry 4.Now HUB TOKYO」を通じてエグゼクティブを対象とした顧客訪問やワークショップを行い、積極的に提案を行っていくという。
記者発表会では、2020年9月に設置した企業のインダストリー4.0化を推進する組織Industry 4.Now HUB TOKYOの成果についても紹介された。
SAPジャパン SAP Labs Japan Head of Digital Supply Chainの鈴木章二氏は、「コロナ禍でサプライチェーンの課題が浮き彫りになった。分断したサプライチェーンに対処し、次の成長につなげていくことがあらゆる企業の課題になっており、製造や物流に留まらず、サプライチェーン全体として捉えたDXプロジェクトが推進されつつある」と語る。SAPジャパンとしては、日本の製造業のDXを本質的に加速し、新たな技術を対応させるスコープを「ものづくり現場」からさらに広げて「サプライチェーン全体」へと拡大する方針だという。
「Industry 4.Now HUB TOKYOは、こうした流れを捉えた企業の次世代の姿を体感してもらえる場になる」(鈴木氏)
Industry 4.Now HUB TOKYOでは、次世代サプライチェーンへのデジタル活用体験を行うカスタマーワークショップエンゲージメントを開催し、これまでに90社が参加しているという。
さらに、2022年1月からスタートしたサプライチェーンDX推進リーダーシップコミュニティの「Industry4.Now塾」には、これまで20人が参加。「部門を横断してDXを推進するためのリーダシップを高めることを狙った取り組みであり、四半期ごとに実施している。様々な業種から参加してもらっており、SAPを通じた新たな気づきだけでなく、参加者同士の学び合いも促進されているのが特徴」だと述べた。