このページの本文へ

Sales Cloud/Service Cloud/Marketing Cloudとの統合、Slack連携アプリ開発ツールを発表

「SlackとSalesforceの統合はさらに進化」担当幹部が語るロードマップと戦略

2022年05月10日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 Slackは2022年4月27日、Salesforce.comの年次開発者向けイベント「TrailblazerDX 2022」において、Salesforceの各クラウドサービスとのSlackの統合や、Salesforce Platform上でのSlack連携アプリを可能にする開発ツール群を発表した。

 この発表に合わせ、ASCII.jpではSlackでプロダクト&プラットフォーム担当SVPを務めるロブ・シーマン氏に話を聞いた。シーマン氏は3カ月前までSalesforce.com側でSlackの統合を担当しており、双方の製品をよく知る人物だ。

Salesforce.comが米サンフランシスコとオンラインで開催した年次開発者向けイベント「TrailblazerDX 2022」

Slack プロダクト&プラットフォーム担当SVPのロブ・シーマン(Rob Seaman)氏

――Salesforceの年次イベントであるTrailblazerDX(旧称:TrailheaDX)に、Slack、Mulesoft、Tableauの3社が初めて参加しました。今回のSlack関連の発表について教えてください。

シーマン氏:大きく2つの発表がある。1つめは、Salesforceの各クラウドサービスとSlackとの統合機能である「Sales Cloud for Slack」「Service Cloud for Slack」「Marketing Cloud for Slack」。2つめは、Salesforce Platform上でSlackとの統合アプリを開発できる「Salesforce Platform for Slack」ツールの提供だ。

 1つめから説明すると、Salesforceで特に利用者の多いSales Cloud、Service Cloud、Marketing Cloudの各サービスとSlackを連携可能にするものだ。3つに共通する特徴として、ふだん利用しているSlackチャンネルにSalesforceの情報を組み込むことができる。

 たとえばSales Cloud for Slackでは、営業担当者、法務担当、プロダクトチームなどが参加する商談のSlackチャンネルとSales Cloudを連携させることで、関係者間でSales Cloudに登録されたアップデートの情報を共有できる。

 Sales Cloud for Slack、Service Cloud for Slack、Marketing Cloud for Slackは現在オープンベータとして提供しており、今年6月には一般公開となる予定だ。

Sales Cloud for Slackの利用イメージ。商談の見込みから成約まで、関係者が参加するSlackチャンネルに一連の商談情報を共有できる

 2つめのSalesforce Platform for Slackにおいては、「Flow in Slack」と「Apex SDK for Slack」の2つを発表した。

 Flow in Slackは、Salesforceのビジネスプロセス管理とオーケストレーションレイヤーである「Salesforce Flow」において、Slack APIをサポートするというものだ。Salesforce側で自動化されているワークフローをSlackでモニタリングし、何らかのアクションを取ることも可能になる。

 これを使うと、たとえば「Sales Cloudで一定金額以上の商談が特定のステージに移行すると、法務チームが参加するSlackチャンネルを自動生成する」といったフローを、コードを書くことなく作成できる。

 Salesforce Flowは毎日440億件のフローが実行されるなど、すでにSalesforceユーザーの受け入れが進んでいるツールだ。Flow in Slackでは、このFlowを使ってSlack上でユーザーにアクションを促すプロンプトを作成するなど、Slackとの連携動作ができる。

Flow in Slackの利用イメージ。Salesforce上で構築したフロー(従業員の健康状態チェック)の入力プロンプトをSlackにも表示させている

 Flow in Slackがローコードツールであるのに対し、「Apex SDK for Slack」はプロコード(プログラミングコードによる開発)のツールだ。Salesforceのスクリプト言語であるApexを使って、SalesforceをベースとしたSlackアプリケーションを作成できる。SlackとSalesforce間の認証処理、Slack向けのUI生成などをミドルウェアなしに行うもので、Salesforce開発者は馴染みのあるApex言語を利用して、両アプリケーション間の接続部分を気にすることなくアプリケーションを作成できる。

 Flow in Slackは6月にベータ提供、10月に一般公開を予定している。Apex SDK for Slackは、6月にパイロット版の提供を開始し、2023年2月に一般提供とする計画だ。

Apex SDK for Slackの利用イメージ

――Slackとの統合により、顧客はどのようなメリットが得られるのでしょうか?

シーマン氏:「ユーザーの受容」と「業務のスピード化」が大きなメリットだ。平均的なSlackユーザーは1日10時間Slackを開いており、うち90分間は使用している。Slackの最大の資産は「実際にユーザーが毎日使っている」という点にあり、ソフトウェア企業にとってSlackは重要な場所になりつつある。Slack上にユーザーがいると考えると、そこに自分たちのソフトウェアを統合することは大きな意味がある。

 また、異なるサービスやアプリケーションとの間を行き来する必要がなくなるので、商談をクローズしたり、サービスのケースをクローズするまでの時間が短縮できるだろう。

 もう1つメリットを挙げるとすれば、コロナ禍で米国では転職が増えているが、Slackを使い慣れている人は多い。Slackを使ってオンボーディングしてチャンネルに参加し、すぐに業務をスタートできるメリットもある。

――2021年9月には“Slack-First Customer 360”という言葉を掲げて、Salesforce-Slack間の統合を進めてきました。共同顧客の反応はどのようなものですか?

シーマン氏:Commerce Cloudとの統合では注文の例外アラート、Tableauとの統合では特定のダッシュボードやレポートの追跡といったかたちでスタートした。

 たとえばIBMはSalesforceとSlackの両方を導入している顧客であり、統合の方向性を定めるうえで参考にしている企業の1社だ。統合に対する反応は良好で「もっと進めてほしい」という声をもらっている。またFOXは“Slackファースト”で業務を進めており、Salesforceだけでなく他のアプリについてもSlack統合を積極的に進めている。

――Slackと統合するSalesforceの機能はどのように決めているのですか?

シーマン氏:Slackとの統合で、すべてがSlack上で事足りるようにわけではない。Slackとの統合に適しているのは、通知、承認、クイックアップデートのようなもの。もちろん、これらは引き続きSalesforceでも行うことができる。逆に、Slackにフィットしないものとして、マーケティングのジャーニー作成、1つの製品構成で3桁もの項目を含むような複雑な見積書の作成などがある。これらは、Salesforce上で行う方がスムーズだろう。

 これまでの取り組みで学んだことはたくさんある。Slackはオープンなのでたくさんのことができるが、失敗もある。

 当初、われわれは個人ユーザーにフォーカスしていた。だが、チャンネルベースの考え方を受け入れ、チーム作業を基本とするユースケースにアプローチすることにした。今回発表した統合はその結果だ。

――Salesforceによる買収前、Slackが持つ優位性の1つが「独立性」でした。Salesforceとの統合強化は、その優位性を損なうものになるのではないかという見方もできます。

シーマン氏:そんなことはない。Slackは創業時から「オープン」という理念を掲げてきた。現在でもオープン性は変わっておらず、製品戦略もオープンだ。実際に、今回発表したようなSalesforceとの統合が実現できるのも、オープンなAPIがあるから。他社がアクセスできないようなものを(独占的に)使って構築したのではなく、Slackとしても、さまざまなアプリケーションをSlackにAPI統合することを推奨している。

――あなたはSalesforce側でSlack統合を担当し、Slackに移ったそうですが、2社の違いや類似点は?

シーマン氏:価値観は2社で共有している部分が多いが、製品の性質は異なる。Salesforceでは組織全体が使うような製品を構築してきたが、Slackでは大規模なアプリケーションではなく、規模が小さいが人が注意を払うべきイベントにフォーカスを変える必要があった。

 また、Salesforceは部門にフォーカスするのに対し、Slackは幅広いユーザーが使っており、UIが重要だ。解決すべきユースケースも幅広い。ここは、大きな違いになる。世界中の人を対象としたコンシューマーマインドセットが必要だが、簡単なことではない。挑戦を楽しんでいる。

――SalesforceとSlackとの統合に関して、今後の計画を教えてください。

シーマン氏:次の大きな発表として、今年の夏ごろには「Health Cloud」や「Financial Services Cloud」とSlackとの統合を計画している。さらにCommerce Cloud、Tableauについても、追加の統合機能を開発しているところだ。

カテゴリートップへ