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“ハイブリッドワーク時代”への備えを呼びかけ、ローカル5Gサービス「Cisco Private 5G」も発表

シスコ、Wi-Fi 6EアクセスポイントなどオフィスNW向け新製品群を発表

2022年03月31日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 シスコシステムズは2022年3月29日、“ハイブリッドワーク時代”に適したオフィスのアクセスネットワークを構築するための新製品群を発表した。最新規格のWi-Fi 6Eに対応する無線LANアクセスポイント「Cisco Catalyst 9136」「Cisco Meraki MR57」、アップリンク100G/400Gに対応する「Cisco Catalyst 9000X スイッチ」、ローカル5Gのマネージドサービスを提供可能にする「Cisco Private 5G」が発表されている。

 同日開催された記者説明会には同社 代表執行役員社長の中川いち朗氏らが出席し、これから企業のハイブリッドワーク化が進むなかでネットワークに求められる要件、従来型のオフィスネットワークに生じる課題、シスコだけが提供できる価値など、今回の新製品提供の背景にあるコンセプトも含めて紹介された。

シスコが発表した企業向けのアクセスネットワーク製品群(「NEW」の表示があるもの)

シスコシステムズ 代表執行役員社長の中川いち朗氏、同社 執行役員 エンタープライズネットワーキング事業担当の眞崎浩一氏、執行役員 サービスプロバイダーアーキテクチャ事業担当の高橋敦氏

「オフィス勤務者が減ってもトラフィックは増えている」企業ネットワークの課題

 新型コロナウイルスの感染状況はまだ一進一退を繰り返しているが、そうした中で「ハイブリッドワーク」への注目が高まっている。たとえコロナ禍が過ぎ去っても、以前のようにすべての人がオフィスで働く状況には戻らず、オフィスワークとテレワーク(リモートワーク)を柔軟かつ適切に組み合わせるハイブリッドな働き方になる、という考え方だ。実際多くの意識調査でも、とくに従業員側ではハイブリッドワークへの移行を望む声が強くなっている。

 こうしたハイブリッドワークの時代を迎えたことで、オフィスネットワークには「異変」が起きていると、シスコ 執行役員 エンタープライズネットワーキング事業担当の眞崎浩一氏は説明する。オフィスと在宅/リモートで分散した働き方を実現するためにビデオ会議やクラウドアプリケーション(SaaS)が多用されるようになった結果、パフォーマンスやトラフィックの問題が浮上してきているのだ。

 「たとえばシスコでも、オフィスで働く人はコロナ前の9割減くらいになっているが、拠点(オフィス)のトラフィック量は以前よりも増加している」(眞崎氏)。シスコによるグローバル企業調査「Cisco Hybrid Work Index」でも、コロナ前/後(2019年/2021年)の拠点トラフィック量を比較すると29%増加したことが明らかになっている。

オフィスの勤務者が減ってもトラフィックは増加するなど、ハイブリッドワーク時代には“異変”が起きているという

 眞崎氏は、こうした利用形態の変化に伴ってオフィスネットワークに生じている課題を説明した。ビデオ会議によるトラフィック量の増加、クラウドアプリケーションによる大量のセッション消費、IoT接続の増加などによって、無線LANアクセスポイントだけでなくその上位にあるスイッチやルーターにも負荷とボトルネックが生じて、オフィス勤務者のユーザー体験を悪化させる原因となる。

 「『出社する人数が2割、3割に減るのならば、オフィスネットワークにはそんなに投資しなくてよいでしょう』と言う方もいたが、実際にはこういうことが起きてしまった」(眞崎氏)

ビデオ会議やSaaSの利用増加によって、従来のオフィスネットワークのままでは従業員体験の問題が生じると指摘

 さらに眞崎氏は、あらゆる業種の企業でDXが推進されるなかで、オフィスネットワークが果たす役割そのものも広範なものになっていることも指摘する。ネットワークはストレスなくつながり、大容量/双方向の無線通信が可能で、もちろんセキュアでなくてはならない。さらにはオフィスへの安全な復帰、SDGs達成への貢献、高度化するIoTへの対応、IT/OTのセキュアな統合といった要件も満たさなければならない。

オフィスネットワークの果たす役割も拡大している

新製品群は「ハイブリッドワークを支えるソリューション」

 上述したオフィスのアクセスネットワークにおける課題に対応し「ハイブリッドワークを支えるソリューション」として、眞崎氏は今回発表の新製品群を紹介した。

 まずはWi-Fi 6E対応のアクセスポイント、Catalyst 9136とMeraki MR57だ。Wi-Fi 6Eでは、従来の2.4/5GHz帯に加えて、混雑のない(他用途の電波との干渉が少ない)6GHz帯をサポートするため、Wi-Fiアクセスが「“爆速”“爆低遅延”になります」と眞崎氏は説明する。なお、日本国内では現在まだ6GHz帯の利用は認可されていないが、利用が認可され次第ソフトウェアアップデートで対応すると述べた。

 Catalyst 9136とMeraki MR57は、いずれもマルチギガ(5G)ポートを2つ備えており、PoE給電の冗長化に対応。さらにCatalyst 9136は最大10Gbpsのアップリンクにも対応する。税抜価格はCatalyst 9136が34万円、Meraki MR57が2893ドルから(いずれもライセンスや保守サービスは別途)。

6GHz帯も利用するWi-Fi 6Eの特徴

 こうしたWi-Fi 6Eアクセスポイントの収容に適したディストリビューションスイッチ「Catalyst 9300Xシリーズ」も発表された。マルチギガビット対応の10GBase-Tポートを備え、90W給電(IEEE 802.3bt)が可能。またアップリンクは100Gや40G、マルチギガビットに対応しており、ボトルネックの発生を防ぐ。

 このほか、マルチギガポートの高密度収容(最大384ポート)も可能なモジュラー型アクセス/ディストリビューションスイッチ「Catalyst 9400Xシリーズ」、ボックス型のコアスイッチ「Catalyst 9500X シリーズ」、モジュラー型のコアスイッチ「Catalyst 9600X シリーズ」も発表している。9500X/9600Xシリーズは、シスコ独自のスイッチング/ルーティングASIC「Cisco Silicon One」を搭載しており、400Gアップリンクに対応するなど高いパフォーマンスと消費電力効率を両立させている。

 最小構成時の税抜価格は、Catalyst 9300Xが約198万円から、Catalyst 9400Xが約1900万円から、Catalyst 9500Xが約1080万円から、Catalyst 9600Xが約1620万円から。

コアスイッチでは独自ASIC「Silicon One」を採用、アップリンク100G/400Gのバックボーンも実現可能にしている

 これらの新製品の特徴について眞崎氏は、前述したハイブリッドワーク時代のネットワーク要件である「最高の業務体験を提供」「安全で持続可能なワークスペースを実現」「大規模なセキュアIoTを支える」の観点から説明した。

 たとえば「最高の業務体験を提供」について、Catalyst 9136は、機械学習技術を適用してアクセスポイント自身が電波の干渉を自動的/自律的に低減させる「CleanAir Pro」を備えている。

 また、Catalyst 9136は環境センサー(空気中の汚染物質、温度、湿度)を本体に内蔵しており、オフィス内の環境を「Cisco DNA Spaces」で可視化できる。デバイス接続台数などの情報と合わせて、オフィスや工場内のどこで「密」が発生しているのか、空気の状態はどうかといったことが一目でわかるわけだ。

オフィス内の環境を多視点で可視化する「Cisco DNA Spaces」。日本語ローカライズも進めているという

 さらにCatalyst 9136はWi-Fi以外に、USBやThread、Bluetooth Low Energy(BLE)といった接続規格にも対応し、1台でIoTゲートウェイの役割も果たす。接続されたすべてのデバイスについてAI分析を行い、疑わしいデバイスについては自動的に隔離を行う「IoTゼロトラストセキュリティ」の機能も提供する。

ローカル5G/プライベート5GとWi-Fiの統合を図る「Cisco Private 5G」

 企業のマルチアクセス環境を実現する手段として、今年2月に発表されたローカル5G/プライベート5G向けソリューション、Cisco Private 5Gも紹介された。現在は一部顧客への先行導入が始まっており、今年夏ごろから一般提供を開始予定だという。

 Cisco Private 5Gを利用するユーザー企業は、マネージドサービスとしてローカル5G/プライベート5Gのネットワークを利用することができる。こうしたマネージドサービスをサービスプロバイダーが提供するために必要な製品(パケットコア、サーバー、ネットワーク機器など)を、シスコが提供する仕組みだ。なおシスコはローカル5G基地局を提供していないが、他社製のオープン仕様(Open RAN)基地局の検証、認証を進めており、これらを組み合わせて提供する。

 シスコ 執行役員 サービスプロバイダーアーキテクチャ事業担当の高橋敦氏は、Cisco Private 5Gの特徴として「企業ネットワークとの統合」「As-a-Serviceモデルの提供」「実績のあるテクノロジー」の3点を挙げた。中でも最も重要なポイントは、既存のエンタープライズネットワークとの統合だ。

 「シスコでは、Wi-Fiと5Gはアクセスネットワークの技術として共存するもの、補完し合うものと考えており、ユースケースに応じてWi-Fi、5Gを提供する。そして、その双方が『Cisco ISE』の配下で、ポリシーとID管理の一貫性が担保されるアーキテクチャを目指している。これにより、ユーザーはアクセス方式の違い(Wi-Fiか5Gか)を意識することなく、シームレスにアクセスできるようになる。将来的には『Cisco DNA Center』や『Meraki Cloud』との統合、連携も検討されており、セキュリティを含めた企業ITシステムへの統合は、今後最も注力していく分野となる」(高橋氏)

Cisco Private 5Gの特徴と提供内容

ダッシュボードでは拠点ごとのネットワーク稼働状況、SIMやデバイスごとの情報などが参照できる。高橋氏は、シスコがサービスプロバイダー市場やエンタープライズ市場で培った実績に基づく製品であることを強調した

目指すものは「“DX Ready”で変化に即応できるプラットフォーム」

 シスコ 代表執行役員社長の中川いち朗氏は、現在のシスコが注力しているのは「シスコだけが実現できる、“DX Ready”で変化に即応できるプラットフォームの提供」だと強調した。この目標に向けて、6つの注力分野への投資を継続していく。

「変化に即応できるプラットフォーム」提供を目的に、6つの分野に注力すると説明

 今回の発表も、ハイブリッドワークを支えるために「変化に即応できるプラットフォーム」を提供するものと位置づけられている。加えて、今回を第一弾の発表として、4月にはMeraki、5月にはコラボレーション分野、6月にはセキュリティ分野での発表を行う予定であると説明した。

 「安全で快適で働きやすい環境を社員に提供するためには、安全安心なアクセス、柔軟なコラボレーション環境、すべてをリアルタイムに可視化できること、という3つの要素が必要だ。これらをすべてを提供できるのが、変化に即応できるシスコのプラットフォームにほかならない」(中川氏)

ハイブリッドワークの実現に向けて求められる3つの要件

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