遠藤諭のプログラミング+日記 第126回
ブロックdeガジェット by 遠藤諭 032/難易度★★
写真とカメラを100倍楽しくしてくれたカシオQV-10を作る
2022年01月31日 09時00分更新
写真の歴史はこのカメラより前と後で分けられるんじゃないか?
私が、コンピューターやネットデジタルのメディアの仕事にかかわるようになってから、いちばん画期的と思った商品といったら、カシオ計算機の「QV-10」は、たぶん間違いなく3本の指に入ると思う。
ブロックdeガジェットで、1994年に発表、1995年に発売された最初期のデジタルカメラ「QV-10」を作った。私とこのカメラのちょっと特殊な出会いについては、ビデオの最後で語っているのだが、そのときの新鮮な驚きは忘れられない。
最初に量産されたデジタルメカラは、富士フイルムの「フジックスDS-X」(1989年)とされる。それ以前にも2インチフロッピーを使うアナログ式電子スチルカメラが発売されていて、月刊アスキーでも記事にしていた。しかし、QV-10は、それらすべをふっ飛ばすと感じたからだ。
まさに写真という《体験》を完璧なまでに変えてしまった。レンズ部分が、前下側に90度、上側から回って180度回転(いわゆるスウィーベル)、1.8インチの液晶がファインダーとなり、撮ってすぐ見れるビュアにもなる。そして、パソコンに撮影画像が取り込まれ、ネットやメールというものを根本的に変えいくことになる。
QV-10で撮影したデータが出てきたので掲載してみる。撮像素子は1/5インチ25万画素、仕上がりも320×240ピクセルの画像データとなるが、この例にはないが金色などもうまく表現できていた(内蔵メモリに96枚保存可能)。なにより、レンズを回して自撮りしたり2台向かいあわせて無限ドロステ画像を作るなど遊んでいて楽しかった。
QV-10の誕生に関しては、かつて同社のラベルプリンタであるNAMELAND用オプションのカメラが関係していると伺った記憶があるのだが。ただ、2015年に行われた20周年記念イベントでは、カメラ付きテレビとして開発されたと紹介されたそうだ(開発者の末高弘之氏、中山仁氏、オーディオ評論家の麻倉怜士氏が登壇)。カメラを作るために社内コンセンサスをとるために当時は人気のポケットテレビと組み合わせた企画としてスタートしたのだとか。
たしかに、当時は、液晶を搭載したポケットテレビが人気商品の1つだった。私も何台か持っていたのを思い出して引っ張りだしてきたのが、ブロックで作ったQV-10と並べた冒頭の写真。1992年に発売された「社会の窓」(型番はCV-1)である(これも当時大々的に宣伝された製品)。
ここで注目してほしいのは、パッケージなどに「私はいつも、ポケットに情報の窓口を持っている」と書かれていて、情報ツールの位置づけでもあったことだ。
実は、QV-10も、発表会では仕事上の情報を撮影しておいてあとで役立てるような使い方が提案されていた気もする。自撮りの元祖のような使い方をすぐさまみんなやったわけだが、自撮りが提案されていたわけではなかった。CV-1もQV-10も、情報ツールだったとは、たぶんその頃流行った「情報武装」という言葉を思い出さずにはいられない。
ブロックで作ったQV-10とPetitColle(プチコレ)、社会の窓、そして、社名の入った商品と業界は大いに注目したPocketPC(Windows CEベース)のCASSIOPEIA。同社は、米国ではPlamOSで有名な入力方式Graffitiを装用したPDAであるZoomerなども発売していましたね。
カシオという会社は、山口百恵を起用したテレビCM「デジタルはカシオ」を地で行く路線を展開していた。つまり、時計に続いていろんなものをデジタル化しようというわけだ。なのでそれは必ずしも背広族だけをねらったわけではなかった。
ちなみに、私が、QV-10の次に大好きなカシオの商品、1998年に発売された「PetitColle(プチコレ)」なんかはその典型的な例だろう。デジカメとプリクラを合体させたような商品で、2000年頃に何かで知り合った米国人とPSION ORGANIZERと物々交換して、お互い大満足した記憶がある。
イノベーションに関するセミナーや書物はいろいろあるけど、QV-10みたいな商品こそ、教科書どおりのイノベーションのような気もするし、教科書が問うているような方法では生まれないイノベーションのような気もする。だからテクノロジーの世界は楽しい?
■ 「ブロックdeガジェット by 遠藤諭」:https://youtu.be/bSXCLTc42II
■再生リスト:https://www.youtube.com/playlist?list=PLZRpVgG187CvTxcZbuZvHA1V87Qjl2gyB
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遠藤諭(えんどうさとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。
Twitter:@hortense667公開当初、一部で記事に間違いがありました。お詫びして修正いたします。(2/1 23:00)

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