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ボトルネックだった基幹システムをZAC Enterpriseにリプレース

上場に必要だった内部統制をクラウドERPで実現したネオマーケティング

2022年01月31日 09時00分更新

文● 指田昌夫 編集●大谷イビサ

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 企業のマーケティング支援サービスを提供するネオマーケティングは、上場準備のために内部統制や決算処理の強化が必要になり、ボトルネックになった基幹システムをオロのクラウドERP「ZAC Enterprise」にリプレースした。導入から運用に至るまでの経緯をネオマーケティングの長澤 宏季氏、秋田誠氏に聞いた。

ネオマーケティングのエントランス

上場に向けたボトルネックは基幹システムだった

 ネオマーケティングは、市場調査を中心に企業のマーケティング支援サービスを提供している。業容は順調に拡大し、2018年を迎えることには株式上場も視野に入ってきていた。同社の管理本部では上場準備を進めるために要員を増強し、新たに入社したのが今回取材した長澤宏季氏だった。

 だが、好調な業績とは裏腹に、当時の同社には上場に際して必要な内部統制や決算処理に必要な仕組みが整っていなかった。長澤氏は語る。

「当時は社内で開発したオリジナルの基幹システムを使用していましたが、それはいくつかの重要な機能が不足していました。たとえば月次や期末の『締め』に関する機能がありませんでした。売り上げの管理はできましたが、発注月の情報がないので仕掛かり原価の管理などもできません。また、入力したデータにはロックがかけられなくて、不用意に過去の数字が動いてしまう恐れがあったのも、大きな問題でした」

 さらに、会計システムと連携するために出力できるデータの形式が固定されており、それが仕様変更で変わってしまうこともあった。早くから上場を意識していた同社では、監査法人のレビューで内部統制についてこうしたシステム上の懸念点を指摘されていた。これらは、運用の改善だけでは解決できないと判断。財務会計システムに問題があると考え、同社では新たな基幹システムの検討に入った。

 いくつかのシステムから選定していくなかで、重視したのは機能面とコストだった。大規模なパッケージ製品であれば機能面はカバーできるが、予算の面で厳しい。低予算で導入できるクラウドERPの中で同社が注目したのが、オロの「ZAC Enterprise」だったという。長澤氏が前職でZAC Enterpriseのユーザーだったことも、導入を後押しした。

基幹システムの入れ替えを短期間で完了した背景

 導入に向けたキックオフを行なったのが2018年の7月、以降のプロセスはスムーズに進み、全社運用の開始が年明け2019年の1月だった。基幹システムの入れ替えとしては比較的短期間で完了した。

 全社のシステム移行は、平行運用期間を設けずに一気に切り替えることにした。「1月以降に発生した案件から、すべてZAC Enterpriseに入力することを徹底しました。移行期間にまたがる案件の処理は、管理本部側で対応して、現場の負担が二重にならないように配慮しました」(長澤氏)

 新しいシステムを社員に定着させるための研修も、管理本部が現場社員をリードして実施。導入期間に、よく利用することが想定される社員に実際に使ってもらい、使い勝手の確認と課題の抽出を行なった。

 そのため、導入直後こそ慣れない部分があったが、大きな問題なく全社での運用が始まった。「支援態勢を整えたことで、入れてしまえば、みんな使ってくれると考えていました」(長澤氏)。結果は想定通り、当初からアレルギーなどはなく、すんなり受け入れてもらえたという。

IT統制強化に加えて管理会計支援機能も活用

 ZAC Enterpriseの導入によって、ネオマーケティングでは基幹業務の内部統制が大幅に改善した。まず、価格や数量、納期などに関する入力ミスが可視化できるようになった。不整合が起きるとシステムが警告を表示し、先に進まないため、ヒューマンエラーや規定のルート外での承認を排除できた。

「システムで運用しているということが、外部に対してはっきり言えるようになったことは大きいと思います」と長澤氏。単にエラーを出して突き放すのでなく、具体的に間違いの箇所を指摘するため、修正もしやすくなったという。

 ZAC Enterpriseは、基幹業務の販売管理、購買管理、勤怠管理、経費管理など機能別のモジュールで構成されている。たとえば販売管理では、見積書の作成から受注確度の登録、受注後の発注、仕入れ、支払い後の入金の消し込みまで、一連の登録と管理を行なうことができる。

 プロジェクトごとに各業務の完了予定日を設定できるので、締め日を超えて残っている業務はアラートを出すことができる。これによって、上場企業に求められる月次決算の早期化を実現する。また勤怠管理と経費管理を組み合わせることで、人員の工数と時間単価を登録し、実際の勤務データを掛け合わせて労務費の管理をすることも可能だ。

 このように管理会計の粒度が上がったことで、業績の着地見込みの確度が高まったことも大きな成果だという。

「受注前の見積もりの状況など引き合いの管理ができるため、四半期決算などに対応するための先々の状況がつかみやすくなりました。また、受注後も月をまたぐ仕掛かり案件の計上時期を含めた見込みがわかるので、計画の着地状況がプロジェクトごとにリアルタイムで把握できます。これらを部門別、全社などの軸で集計して、決算の説明時に使用しています」(取締役 管理本部長 秋田誠氏)

ネオマーケティング 取締役 管理本部長 秋田誠氏

 また、ZAC Enterpriseの特徴は、クラウドERPでありながら日常の業務管理や管理会計機能も備えている点だ。同社ではこれらの機能も活用し、内部統制以外の業務改善にも取り組んだ。

 長澤氏は「一番大きな目標だった、上場のための統制機能がしっかりできたことはもちろん成果です。ですがそれ以外にも、従来やりたくてもできなかったことを、このタイミングで一気に変えることができました」と語る。

 たとえば、職務権限規定に沿った承認フローがある。以前の基幹システムは、権限の管理ができなかったため、いったん紙で出力し、承認権限のある社員の間を紙が行き来する運用となっていたため、業務の負担が大きく、時間もかかっていた。ZAC Enterpriseによって、それがオンライン上で完結できるようになった。「たまたまですが、コロナ前にこの運用に切り替えていたことで、コロナ禍のテレワークになってからも業務が止まることがなかったのはよかったと思っています」(長澤氏)

800社の導入実績をテンプレート化して提供

 ネオマーケティングは2021年4月に株式上場を果たし、その後の業績も好調に推移している。同社のIT統制と業務改善に大きく貢献し、上場を支えたZAC Enterpriseだが、長澤氏は1点だけ、機能面の要望を語る。「マスターデータをインポートする際、データを1つずつ登録しなければいけないのが面倒です。これを一括で登録できればもっと便利だと思います」

 ZAC Enterpriseの開発元であるオロでも、この点は要望が多いことを認識しており、業務モジュール別に順次マスターデータの取り込み機能をリリースしている。いずれはすべての機能に対応できるようになる見込みだ。

 ZAC Enterpriseは、中堅中小企業向けのクラウドERPとして、ネオマーケティングをはじめ約800社で利用されている。導入企業が増える過程で、各企業の要望に合わせた数多くの機能群ができあがり、登録されているという。新規ユーザーは、その機能群をチョイスすることで自社に合わせたシステムを構築できることがメリットになっているが、半面、機能が増えて選ぶことが煩雑になってきていた。

数多くの機能群から構成されるZAC Enterprise

 そこで、新バージョンのZAC Enterpriseでは、ユーザーがよく使う機能を束ねたプランを用意し、業種別、業務別などに特化した業務パッケージを提供する計画だ。そうすれば、ユーザー企業はこれまで以上のスピードでクラウドERPを立ち上げることができるようになるだろう。

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