中国ではAIやバーチャルキャラクターなど
テクノロジーの活用が本格的に進行している
中国で、日本でも放送中のテレビアニメ「王様ランキング(中国語名:国王排名)」が人気だ。検索傾向を見るとピークは過ぎたが、それでも鬼滅の刃やワンピースなどの定番作品を上回っており、中国のECサイトでは各種非公認グッズも多数売られている。
王様ランキングでは弱者や障害者などの多様性の受容がよく描かれる。中国で生活していたときに感じたのは、日本と比べて障害者に優しくないということ。改善はしているのだろうが、点字ブロックの上に雑誌などの売店が鎮座し、シェアサイクルが歩道を埋めるなど、点字ブロックが使い物にならなかったという光景をよく見た。
それより以前は実質的に歩行者より車が優先で、弱者は安心して道路を渡れる状況ではなかった(これはだいぶ変わってきた)。そんな中国で王様ランキングが人気ということは、ネットの反応からも多様性の受容に人々が共感しているのである。
そして障害を持った人々を助けるハイテク製品が近年続々と登場している。
目が不自由な人に対しては音声コントロールできる家電がかなり揃ってきた。音声コントロールというとスマートスピーカーを想像するが、それだけではなく、最近ではスマートスピーカー機能を搭載したテレビがシャオミやファーウェイなどから発売されている。そしてシャオミとファーウェイ、そしてアリババは、各社それぞれが1つのアプリから家電をコントロールできる共通のIoTプラットフォームを構築しており、カーテンやライトやロボット掃除機など多数の製品が発売されている。
スマート家電登場以前は、中国ではボタンを押すと大きな音が出る電卓やフィーチャーフォンがあって役立っていた。こうした機能は(特にデジタル機器に弱い中高年向けの)ニーズの1つとしてあり、たとえばスピーカーなども大きな音が出るものが喜ばれていた。
ファーウェイのモバイルプラットフォームに手話生成APIが
バーチャルキャラクターによる手話も開発が進む
一方、耳が不自由な人のために特に今年に入って、さまざまな手話のテクノロジーが導入されるニュースが報じられている。
たとえばファーウェイは、グーグルの「Google Mobile Services(GMS)」搭載ができなくなって以降、自社で「HarmonyOS」や「Huawei Mobile Service(HMS)」を開発し、同社の過去のモデルを対応させている。10月のHMSのアップデートでは、手話生成サービスAPI「SignPal Kit」が入った。これにより音声や文字を自動でバーチャルキャラクターに手話で表示することが可能になった。ウェブ会議や学生向けの教室、教育サービスなどさまざまな場面でバーチャルキャラクターによる手話を提供できるようになる。
またファーウェイは、同社も共同開発に携わった手話翻訳ソフト「譯語」を、中国の南昌などいくつかの都市の学校に提供し授業での運用を開始した。もともと中国の教育政策で、各学校の教室にスマートディスプレーの導入が進んでいる。譯語はそのディスプレーでバーチャルキャラクターが入力に対して手話で語る(動作する)というもの。
黒板やディスプレーで文字が表示できるのになぜバーチャルキャラクターによる手話の必要があると思うかもしれないが、手話にすることで、難しい文章がわかりやすくなるとのこと。将来さらに多くの学校にこのソフトを無料で提供し、聴力障害のある学生たちの学習効率アップに活用してもらおうと予定しているそうだ。
手話をするバーチャルキャラクターを開発するのはファーウェイだけではない。検索からAI(自動運転含む)に力点を移したバイドゥ(百度)が開発したバーチャルキャラクターが、北京冬季五輪での実況で活躍予定だ。バイドゥはもともと翻訳サービスや音声認識サービスを開発していて、スマートスピーカーも中国企業の中でも早くから出していた。そのバイドゥがリアルタイムに音声を聞き取り、手話という形でアウトプットするバーチャルキャラクターを開発した。
手話自動翻訳に取り組むのはバイドゥやファーウェイなど大企業だけではなく中小企業も取り組んでいて、中国各地のテック系の展示会でお披露目されている。既に中国中央電視台(CCTV)だけではなく、各地のローカルのテレビ局のニュース番組にも各社が開発した手話をするバーチャルキャラクターが登場し、各地の役所の受付でも同様にバーチャルキャラクターによる手話での説明が表示されるモニターが設置されている事例が報じられている。
手話といえばこんなニュースも。中国南部の南寧で、聴覚障害者だけでやりくりする魯肉飯屋が盛況だという。専用手袋をつけて手話をすると、手の動きを翻訳して機器が発声してくれるというシステムを導入し、より簡単なコミュニケーションを実現した。スタッフ同士は手話でコミュニケーションを取り、注文はタッチパネルのレジ端末で可能としても、店員から顧客へのコミュニケーションは、紙や電子ボードを用意して対応していたが、それが大きく改善したわけだ。同市の聴覚障害者の団体は魯肉飯屋の試みを支持し、そこで働けるスタッフを送る協力をしているそうだ。
このように音声や文字から手話へ、手話から音声へというテクノロジーが導入されたニュースが続々と登場している。中国政府は2025年までの「五ヵ年計画」に書かれたさまざまな目標の中に、バーチャルキャラクター産業を育てる計画が含まれていることから、手話をするキャラクターの開発も拍車がかかる。各社がより滑らかでわかりやすく正確に出力してくれるバーチャルキャラクター開発に磨きをかけそうだ。
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