たてものOS ミニ・アイデアソン
ーー 自分が、ビルを好きなようにハックしていいと言われたら何をしますか? ハックというのは、いままでにないアイデアを盛り込んでやるというような意味ですね。
本田 ぼくがやりたいなあと思ってるのは、メタとリアルを同じ場所で融合させたい。ぼくが今ここにいるじゃないですか。でも菅原さんは自宅にいる。菅原さんがあたかもここにいるようになる。
ーー スターウォーズのホログラムみたいな?
本田 近いですけど、いてもいなくても体感できる、いてもいなくても同じ空気や感覚が味わえるようにしたいですね。
ーー VRではなくてですか? それをするとホリゾンワークプレイスみたいになるじゃないですか。
本田 没入っていう形ではなくて、リアルとバーチャルを融合する建物を作りたいですね。
ーー たしかに、没入がいいわけではないですもんね。会議のテーマが主役で、感動するわけじゃないですもんね。
本田 バーチャルはバーチャルで多分違うんですよね……。
ーー たてものOSがあるから、ビル全体が包括的に繋がっているからリアル空間にいつでも適切なホログラムを登場させられる?
本田 いつでも共有できるし、設備も触れるし。
ーー たとえばバーチャルに手書きで描いたら反映されるとか?
本田 そうです。
ーー いいですね。菅原さんはどうですか?
菅原 それと比べると現実的すぎるかもしれないですが、われわれの提供する今までのサービスはビルを管理される方向けのサービスがメインだったんです。
ーー 防災センターの人とかですね。
菅原 そうです。なのでご要望いただくシステムは現実的である意味地味なものが多かったんですが、入居される人向けのサービスは幅広いものがある。もうちょっと多くの人に身近なシステムを作りたいんですよね。
ーー たとえば?
菅原 たとえば今日、会議室に来てもらいましたが、受付をすると、この会議室に行くというのが連携されて、ビーコンで位置情報を取ると「何階に向かってください」と出てくるとか。個別にシステムはあるんですけど……。
ーー いいですねそれ! いますぐ特許取ったほうがいいんじゃないですか。渋谷のパルコは、上から床に映し出されるサイネージが人を認識しているのがありますが、ただついてくるだけですからね。
菅原 ただこれまでは設備導入にも敷居が高かったり、メーカーごとの連携ができないとかいう問題があって。
ーー DX-Coreとつながったら別次元のことができますよね。
菅原 視覚障害をもたれている人は位置情報を使って音声案内で誘導というのはすでにやっているんです。それを標準的なものにするというのを目指したいです。
ーー 「トイレどっち?」と言うと床に出るとか。私もほしいですね。
菅原 グーグルマップの館内版みたいな。右方向に行ってくださいと出るとかでもいいと思ってます。
ーー 越地さんは、どうですか。アイデアソンみたいな話ですけど。
越地 これまでの話はソフトウェアでシステムをアップデートするというものですが、どのみち建物なので躯体は傷んでいく、そこをいかに点検レスで長持ちさせるか。進化するのと退化させないという両面ですね。いままではアップグレードする機能開発でしたが、今度はダウングレードしない機能を開発したい。IoTセンサーを使って、躯体が傷んでないか、センシングしてデータを日々積み重ねていくということですね。
ーー 鉄骨にストレスセンサーをつけるとか?
越地 実際やるってことはあるんです。ゆれた直後にどれだけ躯体にダメージが加わるかをセンサーで見てたりするんですよ。
ーー 梁に張力センサーがついてるとか?
越地 基本的には加速度センサーをつけていて。どれくらいゆれるとどれくらいダメージがいくとかはシミュレーションでわかるので。それは震災のようなアクシデントに対応するものですが、日常的な劣化が見えにくい。躯体はどうしても老朽化していきますが、メンテナンスはお金がかかる。なので、メンテナンスをしなくても維持できる方にしていきたい。ソフトでアップグレードするところと物理をダウングレードさせないところ、その融合はやっていきたいなと。
ーー 通常、躯体の点検はどうやってるんですか?
越地 目視や超音波、レントゲンのようなもので定期的に計測してます。
ーー ミシュランタイヤの大型トラックのタイヤは何キロ走ったら交換というふうにしていたが、タイヤにセンサーを積んで傷んだら交換というふうにした。それで、不要なタイヤ交換をなくしたという事例がありますね。そういう話をビルでも可能というわけですよね。その種のことはテナントからも話はあったりしますか?
菅原 同様の話をいただいておりまして、構築対応中です。
ーー できる幅が広がるとやりたいという話が増えますね。部屋の人数が何人以上になったら空調を入れるとかそういうのですかね。
本田 たとえば人の数だとカウントしないといけないのでカメラとかBLEとかビーコンが必要になりますが、会議室予約にあわせて事前換気を入れる、照明を入れる、会議が終わったら自動的に消すとかはできると思います。
ーー なるほど。最後に言い残したことがあれば。
菅原 DX-Coreと連携したパートナーさんが、「こういうの持ってます」と面白い設備やサービスがあればぜひ紹介していただきたいです。
OSは人が出会えるコミュニティ
メブクス豊洲でも、ミシュランタイヤが走行距離ではなくIoTセンサーで交換時期を知ることに近いアプローチが行なわれるそうだ。外気を取り込むときに使用するフィルターを、いままでは1年、2年と期間で決めて交換していたが、汚れると圧力が変わるのでセンサーでそれを感知して交換する。DX-Coreでセンサーの数値を集めてメーカーにデータを渡すらしい。
最後にアイデアソン的なお話になって、これからのビルは、どんなふうにも変わりえるという印象を受けた。ここでも自動車の例をとれば、EVに関して《安全上の理由でなんからの音を発生する》ことが法制化された(欧州では停車時、米国は走行時も)。15年後、街の音はすっかり変わっているかもしれないのだ。それでは、DX-Coreを使ったビルの音も大きなテーマだなんて話も出ていた。
WindowsにしろMacOSにしろ、iOSにしろAndroidにしろ、OSは、ニュースなどでは《基本ソフト》と訳される。しかし、それがうまく活用されるには、企業を超えてソフトウェアやデバイス、それらと開発者や使う人たちが出合うコミュニティでもあることのほうが大きい。それによって、はじめてみんながハッピーな世界ができる。たてものOSはそんな世界に踏み出している。
遠藤諭(えんどうさとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『ジェネラルパーパス・テクノロジー―日本の停滞を打破する究極手段 』(野口悠紀雄氏との共著、アスキー新書)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。
Twitter:@hortense667Facebook:https://www.facebook.com/satoshi.endo.773
(提供:清水建設株式会社)
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