「ESG経営」は儲かるのか? 因果分析で紐解く。
提供: 電通国際情報サービス
最近、「ESG投資」という言葉をよく聞くようになった。
ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の略で、持続可能な世界の実現にはESGに配慮した企業の取り組みが重要とされる。ESG投資はすでに欧米で広がっている動きだが、投資家などがESGに配慮した企業を長期投資の対象にする動きが日本でも広がっているという。
しかしESGの取り組みは財務諸表に載らない非財務データ。経営者にとっては「ESG経営」が業績に及ぼす影響がなかなか見えない課題があった。
そこで電通国際情報サービス(以下「ISID」)オープンイノベーションラボ(以下「イノラボ」)のメンバーは、非財務データサイエンスの専門家であるサステナブル・ラボと共同で、非財務情報が企業パフォーマンスに影響を与えているのか検証した。検証に使用したのは、ISIDとソニーコンピュータサイエンス研究所(以下「ソニーCSL」)、クウジットの3社が共同展開している因果分析サービス「CALC(カルク)」だ。
今回の検証でわかったのはどんなことだったのか、その意義とはどんなものなのか。そして今後、結果はどう生かされるのか。取り組みに携わった5人に語ってもらった。
会場提供:SPROUND(スプラウンド)
品川インターシティ22階に位置するシードスタートアップのためのインキュベーションオフィス。品川エリアでのイノベーションネットワーク構築を推進する日鉄興和不動産と、日米を拠点に活動するベンチャーキャピタルDNX Venturesによる共同運営。
https://spround.tokyo
ESG/SDGsに特化した非財務データプラットフォームを開発しているサステナブル・ラボ
── 初めにサステナブル・ラボについて教えてください。
平瀬:我々はESG/SDGsに特化した非財務データプラットフォームを開発していて、足元では国内外の金融機関・上場企業に提供しており、今後はグローバル展開を進めているという企業です。具体的には、CO2排出量や女性従業員・役員の比率、廃棄物排出量、水消費量、研究開発費、従業員満足度、労働分配率など、ESG/SDGsに関するデータを1社あたり700〜800項目程度集め、AIによって解析し、見える化しています。
解析結果をもとに、気候変動、環境管理、ダイバーシティ、労働者の権利といった15のテーマに落とし込んで、企業や自治体の環境・社会貢献度を可視化する「TERRAST(テラスト)」というプロダクトを開発しています。これはサステナビリティ推進における健康診断ツールのようなもの。プロダクト名は「照らす人」をもじっていて、「良い企業を照らしたい」という弊社理念に由来します。「自社は<気候変動>分野では競合他社より優れているが、<ダイバーシティ>分野では劣っているね」「昨年と比べて<ダイバーシティ>が伸びている」など自社を時系列で俯瞰したり、同業他社と横比較できたりもします。また、それら非財務要素が将来業績や株価、また社会インパクトにどうつながるのかを予測分析する機能の実装も予定しています。
── 今回検証に利用したCALCは「因果分析サービス」を掲げています。そちらについても伺えますか。
磯崎:これまで統計学の活用シーンでは因果関係の識別はほとんど行なわれておらず、相関がベースでした。しかしそれだと、疑似相関といった、本来は因果関係にない相関がデータに含まれてしまいます。たとえばデータを使って不具合の原因を知りたいと思ったとき、ただ不具合と連動しているだけの因子もたくさんあるわけですね。こうした場合、相関を越えた原因と結果の関係を知ることが必要なんですが、統計科学ではそこが未発達だったというのが私の問題意識でした。
そこで(因果関係を知るための)独自の理論とメソッド、アルゴリズムを開発して、ある程度使えるレベルになってきたというところで、5〜6年以上前からソニーグループに展開して、その後、ISIDと一緒に外部に展開してきました。それがCALCです。因果関係がわかれば、不具合を直すにはどこにアクションすればいいかもわかります。AIや機械学習は主に予測に使われていますが、因果関係がわかると予測ではなく、施策を打つためのデータ分析にも使えるわけです。
たとえばマーケティングで売上を伸ばすにはどうしようとか、不具合を直すにはどうしようといったことですね。今まで経験と勘でやってきたところにデータを入れて因果関係を推定して、どこに施策を打てば自分たちが望んでいる改善効果を得られるのかがわかる。そういったところに潜在的なニーズがかなりあるのではないかと考えて、因果をデータから推測するということをやっています。
平瀬:今や金融とESGは切り離せないし、事業経営とサステナビリティ推進も切り離せないという一定の共通認識があります。「長期目線を持った投資や経営をしよう」と言われることが多くなりました。ただ、「ESGは本当に利益に繋がるのか?」という問いがあります。「CO2排出量を減らせば株価が上がるのですか?」とか「女性役員を増やしてジェンダーバランスが良くなったら生産性が上がって、従業員幸福度が高まるのですか?」と。特に機関投資家、上場企業においては、説明責任を背負っています。
「世界を良くするために、サステナビリティを推進するんだ」というのは素晴らしいメッセージですが、それだけでは社内外に対して説明責任を果たせない、エンゲージできないことが当然あります。そのときに、どう説明するか。ESGのような非財務要素が業績や株価、また社会インパクトにどう影響するのか。この説明は、あらゆる金融パーソンや上場企業の経営層にとって重い課題です。そのとき、データドリブンなCALCの因果分析はエンゲージのための強力な武器になります。
森田:イノラボがこのテーマに取り組んだ背景として、我々自身がSDGsの取り組みをすることで会社にどういうインパクトを与えられるのか、どう説明したらよいのか悩んでいたというのがあります。そんな中、たまたまサステナブル・ラボさんのことを知り、ESG・SDGsの取り組みを因果的に説明できたら面白いなと思ったんです。これまで、SDGsの取り組みをデータに基づいて、さらに因果まで踏み込んで説明している事例は、調べた限り出てこなかったので。
今世の中でこれだけESGが叫ばれているのに、ESGの取り組みと企業パフォーマンスの因果性が解明されていないのは世の中にとっても不幸なことですし、我々もそれらをデータで示すことができれば活動が追い風になると思いました。そこで、チャレンジングだけどやってみようと始めたのが経緯です。
平瀬:ISIDさんは因果分析のリソース、我々はESG/SDGsのビッグデータを持っていたので、得意分野を組み合わせました。
磯崎:解釈の部分でドメイン知識があるのは大きいと思っていました。我々も、平瀬さんやサステナブル・ラボのデータサイエンティストの方々のESGに関する知見を得ながら解釈を深めていった形でしたね。