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武田俊太郎(東京大学大学院 )

2021年11月25日 00時00分更新

文● MIT Technology Review Japan

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独自のループ型光回路を考案し、原理実証に成功。大規模な光量子コンピューター実現への道を拓いた。

創薬から人工知能(AI)まで幅広い分野への応用が期待される次世代のコンピューターとして、量子コンピューターの開発競争が激化している。量子コンピューターの実現については、超伝導回路、イオン、半導体などさまざまな方式が研究されており、光子を用いて計算する「光量子コンピューター(Optical Quantum Computing )」もその一つだ。しかし、いずれの方式も技術的な課題により、大規模化が阻まれている。

武田俊太郎は、大規模な光量子コンピューターには大規模な光回路が必要になるという従来の常識を、独自のループ型光回路のアイデアで覆し、その原理実証に成功した。その成果は、光量子コンピューターの飛躍的な大規模化を可能とし、開発に必要なリソースやコストを大幅に減少させるブレークスルーとなるものだ。

光子は外乱に強いため、量子コンピューターの他の開発方式で必要とされるような冷却装置や真空装置が要らないという利点がある。しかし、計算をするには光の進路に沿って量子テレポーテーション回路を配置する必要がある。そのため、実用化できるレベルの計算をしようとすると、量子テレポーテーション回路のブロックを大量に用意しなければならなくなる。武田は、ループする構造の量子テレポーテーション回路を作り、機能を切り替えながら同回路を繰り返し利用することで、最小規模の量子テレポーテーション回路で計算を実行する手法を考案し、心臓部となる光回路の開発にも成功した。

室温環境で超高速動作し、光通信の機能も併せ持つ光量子コンピューターが実用化されれば、創薬・物流・金融・ITなどの産業を支える重要なインフラとなるだろう。武田の研究成果はまた、光を用いたさまざまな量子情報処理、たとえば量子インターネット、量子センサー、量子イメージングなどの実用化を後押しする基盤技術になり、社会を大きく変革する可能性がある。

(中條将典)

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