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業務を変えるkintoneユーザー事例 第124回

中堅建設会社が本気で挑んだワークプレイス改革

八洲建設がkintone導入に用いた「三種の神器」とは何か

2021年10月26日 10時00分更新

文● 指田昌夫 編集●MOVIEW 清水

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 「kintone hive 2021 Nagoya」の2番目に登壇したのは、中部地区の中堅建設企業である八洲建設だ。執行役員 業務推進室長の清水幹高氏と、経営企画部次長の佐藤和嘉氏の2名が、同社が3年前から取り組んだワークスタイル改革の経緯と、kintone導入のポイントについて説明した。

ワークプレイス改革に3年前から取り組む

 八洲建設グループは、1946年創業、今年75年目を迎える建設企業。橋や商業施設、公共施設、病院や工場など、建築土木の総合建設業を営む。またグループ企業に戸建て住宅、サ高住の建築、アパート、賃貸マンションの仲介事業や、農業関連まで幅広い事業を抱えている。

 清水氏は、同社の執行役員として経営戦略全般を担っている。また佐藤氏は経営企画部で人事、総務、経営企画など幅広く担当するかたわら、kintoneをあらゆる業務に取り入れることを意識しているという。

 同社は2018年から、働き方改革に本格的に乗り出した。年間休日120日、週5日間工事、残業40時間以内という目標を掲げて改革をスタートし、約1年後の2019年から、社内環境の見直しに着手した。

2018年に設定した「年間休日120日、週5日間工事、残業40時間以内」という目標値。

「個人専用デスク、専用電話、書類の山にそれらと格闘する社員という見慣れた風景と決別し、会社に来る無駄をなくすための改革に着手した」(清水氏)

 同社の業務には課題が大きく3つあった。1つは紙で運用されている業務、次に押印、そして3つめが、社員がそれらの書類を入手するためにいったん会社に立ち寄り、そこからすぐ現場に向かわなければいけない「V字出社」だ。

kintone導入を成功させた「三種の神器」

 改善方法を検討している最中の2019年、同社は「kintone hive」でkintoneの存在を知る。

 kintoneに可能性を感じつつも、同社ではまず「なぜkintoneを導入するのか」について真剣に議論した。「ペーパーレスのためでなく、kintoneの導入が目的でもなく、真の目的は何か。それはエンゲージメントの向上であるという結論になった。そして、それが改革プロジェクト『スマートギャザ』という考え方にまとまった」(清水氏)

八洲建設 執行役員 業務推進室長 清水幹高氏

 スマートギャザとは、社員の活躍、生産性、働き方、そして企業価値のすべてを高めるため、社員の衆知を集めて結集するという考え方である。

 その実現のための三種の神器を考えた。1つはストラテジー=ブレない軸を持つことだ。スマートギャザの考え方を中心に据え、オフィスをフリーアドレスにするオフィス改革、リモートワークや直行直帰を可能にする制度の改定、そして、どこでも仕事ができる環境を整えるためのkintoneの導入を柱に据えた。

 kintone導入にあたって、同社では組織横断でデジタルワークプレイスチームを編成した。土木部、営業部、建築部、経営企画部それぞれからメンバーが出され、それぞれの部署から課題を出し、対策を検討し、アプリの開発を行なっている。

「マンパワーから脱却し、業務の完全デジタル化を目指すために、今ある業務をkintone化していこうというデジタルワークプレイスの戦略ロードマップを描いた。これによってブレない軸を持って改革に取り組むことができた」(清水氏)

 三種の神器の2つめは、「パッション(情熱)」だ。「私も、自称CIOとしてやりきることを目指した。改革の取りかかりであるスモールスタートの舞台を役員に定め、kintoneの導入を経営戦略と位置づけるように持っていった」

 清水氏は、「試験導入で利用できるものは何でも利用した」と語る。30日間無料お試し、導入相談カフェなどをフルに活用し、まずワークフローと通知設定を組み合わせた小さな起案書のアプリを作った。試験導入後の本導入時には国の「働き方改革支援助成金」も活用した。

 2020年4月、同社は「デジタルワークプレイス宣言」を発表する。「デジタルワークプレイスを作ることで、時間の短縮と送出による企業価値の向上を目指している。この基本指針を示すことで、社員一体となってkintoneの導入を果たすことができた」(清水氏)

「A」からはじめる現場重視のPDCA

 そして、三種の神器の3つめは「PDCA」、つまり継続するための仕組み構築である。「通常、PDCAの最初の計画から始めるが、我々は最も大事なのは人が働く現場であると考え、アクションから始めている」(清水氏)

kintone定着サイクルのPDCAは、右上のAからスタートする。

 まず、Action=現場の活動に焦点を当てる。現場で目標と現実のギャップから課題を見つけ、その課題を現場のキーマンとともに、デジタルワークプレイスチームがアプリの検討、企画を行なう。

 アプリの試作ができると、それを経営戦略会議に諮る。これはPlanにあたる。経営戦略会議には、若手の幹部候補やデジタルワークプレイスチームも参加し、方向性の確認を行なう。「もっとも大事なのは、ベクトルが合うまでこのアクションとプランの間で何度もやりとりをすること」(清水氏)

 ここでGOサインが出ると、次はDo=開発だ。アジャイルで進める一方で、書面や動画によるマニュアルを必ず用意する。最後が、Checkである。利用現場にとことん寄り添い、モニタリングしてリリースしたアプリの効果を検証し、改善点は修正する。このサイクルを回すことで、現場の課題を確実に解決するアプリを作り、浸透させている。

ワークスタイル改革の目標を達成

 三種の神器を活用し、現場の声をいち早く取り入れることで、kintoneの導入1年で、すでに約100個のアプリを運用中という。「三種の神器と業務のkintone化によって、社員が出社しなくても仕事ができるようになった。それによって風土が変わり、小さなイノベーションが起こるようになった」と佐藤氏は話す。

八洲建設 経営企画部次長 佐藤和嘉氏

 当初のデジタルワークプレイスの目標に対して、年間休暇日は125日を達成。週5日工事も実現し、残業は月14時間へと、大幅削減を達成した。また、ペーパーレスかが進んで印刷コストは約2割減、企業価値の向上で中途採用者がなんと7.5倍に増加。新卒採用もインターンシップへの参加が2.5倍になるなど、目覚ましい効果を挙げている。女性社員の入社も増えているという。

デジタルワークプレイスの効果。全て目標値を達成。

 これらの効果に加えて清水氏は、「ここまでのアプリ開発は全て社内で行い、外注費はゼロだ。アプリに命を吹き込めるかは、かけたコストでなく、三種の神器次第だ」と評価する。

 そして、kintoneの導入に際しては、かけたコストでなく、得られたバリューに目を向けるべきだと清水氏は語る。「私たちはkintoneの導入コストをはるかに上回る価値を手にすることができた。今後もkintoneの可能性を追求し、業務の完全デジタル化を進めることで、働きたい会社No.1を目指していく」

 清水氏は最後に「この講演を聞いて、中小企業、建設業でもできると感じてくれる人が現れてくれれば嬉しい。いっしょにkintoneの活用を盛り上げたい」と、講演を締めくくった。

さらに、紙のコストが2割減、中途採用者7.5倍、新卒向けインターンの参加2.5倍と大きな効果が出た。

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※初出時、佐藤様と清水様の写真が逆になっておりました。お詫びし、訂正させていただきます。本文は訂正済みです。

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