ドコモはらくらくスマートフォンに続くシニア向け端末「あんしんスマホ KY-51B」を発表したが、ドコモが初めて京セラ製スマートフォンを扱うことでも話題となった。両社がタッグを組んだ経緯や、シニア向けスマートフォンを開発する上で注力したポイントなどについて、ドコモのプロダクト部 第二商品企画担当部長である長沢秀之氏と、京セラの通信機器事業本部 通信事業戦略部 シニア・ビジネスユニット部責任者である伊東恭弘氏に話を聞いた。
シニアの多様化に応えるという方向性が一致
──NTTドコモでは既に「らくらくスマートフォン」を長らく販売していますが、なぜ今のタイミングで、シニア向けスマートフォンを増やすに至ったのでしょうか。
ドコモ長沢氏(以下敬称略) 弊社では昨今、シニアの多様化が進んでいると捉えており、シニアをひとくくりにできないという傾向が顕著に出てきていました。一層の高齢化社会が進むにつれ色々なシニアのニーズが出てくる中、従来の「らくらくスマートフォン」だけでなく、多様化するシニアの要望に応え、より多くのシニアにミートするスマートフォンを増やしたいと考え、ラインアップを増やすという判断に至りました。
──確かに京セラはシニア向け端末を多く手掛けていますが、ドコモ向けにスマートフォンを提供するのは初となります。両社がタッグを組んだ経緯について教えて下さい。
ドコモ長沢 京セラとは以前より付き合いがあり、商品企画を含め継続的にコミュニケーションを取っている中で、両社の意向がマッチしてあんしんスマホを販売する形となりました。
京セラ伊東(以下敬称略) 弊社は2015年より、auやソフトバンク向けにシニア向けスマートフォンを提供していましたが、戦略を変えた訳ではありません。実際ドコモにはスマートフォン以前から「カードケータイ KY-01L」や「DIGNOケータイ ベーシック KY-41B」を納品しています。
京セラ伊東 また弊社がシニア向け端末に取り組んできたのには、60代以降にデジタルを普及させるための出口を探す思いも強くありました。シニアにもデジタルシフトの波が半強制的に訪れている中、広がるシニアの多様性をサポートできないか? とドコモと話をし、らくらくスマートフォンとは違った軸で端末に特徴付けをして開発を進めた結果、採用に至ったという経緯があります。我々としてはシニアのための出口を広げるべく、縁があるならば大小さまざまな通信事業者とお話をする可能性があると思っています。
──ドコモは秋冬商戦に向け、シニア利用を意識したホーム画面やサポートを用意したスマートフォン新機種を増やしています。そうした状況下で、あえてシニア向けであることを明確に謳ったあんしんスマホを投入したのはなぜでしょうか。
京セラ伊東 弊社では2015年からシニア向け端末を手掛け、シニアに向けた使いやすさや日本人特有の考え方などを積み重ねて入れ込んでいます。ターゲットを明確にシニアに設定し、シニアが使いやすい機能を詰め込んでいる点が、標準的なAndroidスマートフォンに機能を追加したものとは違っている部分なのです。
──あんしんスマホの投入が、2026年3月末で終了する3Gサービス利用者の巻き取りを意識している部分もありますか?
ドコモ長沢 確かに巻き取りの期限は決まっていますが、3Gが停波するから移行のためにこの端末を出すというのではなく、まずはシニアの多様な要望に応え、その結果、顧客が新しいスマートフォンを使ってみようと思う形を弊社では考えています。
“シニア向け”だがシニアらしくない工夫とは
──あんしんスマホはらくらくスマートフォンと比べ、シニアらしさを抑えることに力が入れられている印象です。
京セラ伊東 シニアらしさを嫌がる人が増えていることは確かです。あんしんスマホではアクティブシニアや、アンチエイジングを求めるシニアなどを対象としていることから、デザインをよりAndroidスマートフォンの標準的ものに近づけていますし、大画面や大容量バッテリーの搭載などで使い勝手も強化しています。
京セラ伊東 ですが単にハイスペックであるとか、高機能であることなどを謳ってしまうと、現在3Gを利用しているドコモのユーザーが乗り換えるには障壁も出てきてしまいます。そうした部分を取り除き、なおかつシニアが抱える身体的衰えをカバーする部分をユーザーに伝える必要があることから、シニア向けの特徴づけをしています。
──シニア向けの配慮や特徴づけとは、具体的にはどのような部分になりますか?
京セラ伊東 シニア向けスマートフォンとしての路線は、他社向けで培ったシニア向けスマートフォンの特徴を継承しています。ですがハード面では、より狭額縁にして大型のディスプレーやバッテリーを搭載するなど、全体的に性能を上げています。
またソフト面では、5Gを機として初めてスマートフォンに触れるドコモのユーザーに対する動線、たとえばドコモのアプリとの連携などに力を入れていますし、スマートフォンを使いやすくするため「こういった使い方がある」ということを教えて新しい気づきを与える「使い方ナビ」を用意しています。
京セラ伊東 そしてもう1つ、画面録画機能も新規で開発しています。シニアユーザーはスマートフォンを使っていて分からない所の操作を、キャリアショップや周辺の人に聞くことが多いのですが、その時は理解しても家に帰ると分からなくなってしまうといった声が多く寄せられていました。そこで画面を丸ごと録画して操作を思い出しやすくする機能を搭載し、その動線も画面下部に最初から配置しています。
──シニアの多様性を支援する仕組みは、どのような形で反映させているのでしょう?
京セラ伊東 元々電話ができればいいという人から、最近ではLINEやビデオ通話をしたいとか、コロナ禍前であれば旅行で活用したいといった要望も聞こえてきました。これまでLINEもビデオ通話もあまりやらないという人に対し、我々は使い方ナビを用意することで多様性をカバーしています。
一方で、フィーチャーフォンからの乗り換えたばかりで物理キーに安心感を持つユーザーのため、本体下部に3つの物理キーを設置し、メールや電話などを呼び出せるようにして操作性や利便性を上げる仕組みも用意しています。
京セラ伊東 そしてもう1つ、最近ではキャッシュレス化やサービスのオンライン化などでデジタルシフトが騒がれていますが、それをカバーするため5Gに対応したというのも大きなポイントです。シニア向けなので5Gは必要ないという見方もありますが、中には動画を撮影し、家族と共有したいと言った要望も出てきている。そうした要望をサポートできるスペックを用意し、色々な使い方に応えている点も、多様性に対するあんしんスマホの1つの回答となっているのです。
シニア向けスマートフォンの将来像は?
──シニアはスマートフォンの価格に敏感なだけに、端末開発コストも重要な課題かと思います。どのようにしてコスト削減と低価格を実現しているのでしょう?
京セラ伊東 「これをやってコストを削減している」という明確なものはありませんが、部材調達や作り方などをブラッシュアップさせて必要十分なコストを実現しています。それでも価格勝負だけになると世界的に出しているほかのメーカーに太刀打ちできませんが、シニア世代は価格だけでなく、それに付随する付加価値も重要と捉える人が多い。それゆえ日本で製造から開発まで一貫してやっているという、日本メーカーならではの付加価値や安心感を理解してもらう取り組みにも力を入れています。
──価格はいくらくらいになりそうでしょうか?
ドコモ長沢 まだ鋭意検討中ですが、価格に敏感な層に向けたものなので、ミドルクラスやローエンドを意識しないといけない価格帯なのかなと思っています。顧客の認識から大きく乖離すると手に取ってもらえないことから、それを考慮して決めていきたいですね。
──では今後のシニア向け端末について、どのような進化の方向性を描いていますか?
京セラ伊東 シニアのリテラシーは年々上がってきて、やりたいこともどんどん増えていくと思います。今までは簡単に使えるというだけで良かったのですが、今後は従来のスマートフォンに近い機能と、シニア向けの使いやすさの両立を求めていくことになるでしょう。
ただいつまでもスマートフォンだけにこだわっていると事業が縮小していくとも思っていて、今後はスマートフォンだけでなく、それを取り巻く周辺のデバイスやサービスを加えた取り組みを進めていく必要があると考えています。
ドコモ長沢 シニア向けスマートフォンのラインアップが2つに増えましたが、シニアのリテラシーの状況に応じてこの部分は考えていく必要があると思っています。顧客の要望やニーズを把握しながら、タイムリーにミートするものを提供するというのが基本路線となるでしょう。
そこで重要なのはUIやUXです。今後もリテラシーが少し低い人に向け、使いやすさを重視して利用のハードルを下げるものが必要でしょうし、一方でリテラシーが結構ある人に応えるスペックや機能も必要になってくるでしょう。そのバランスを京セラと話し合いながら、時代に合った端末を提供していきたいですね。
──ありがとうございました。