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中堅中小企業向けプログラムを拡充、2025年までに5万名のオブザーバビリティ技術者育成を目指す

中堅中小企業にも「オブザーバビリティの民主化」を! New Relic

2021年10月12日 07時00分更新

文● 五味明子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 ここ1、2年、SRE(Site Reliability Engineering)やマイクロサービスの文脈で「オブザーバビリティ(observability)」というキーワードが使われる機会が増えている。日本語訳としては“可観測性”が一般的だが、約3年前から日本でもビジネスを展開するNew Relicは、オブザーバビリティを「単なる監視(モニタリング)システムにとどまらず、「つねに安心安全なシステムの実現を図ることで、デジタルで稼ぐ力を増大させる技術」(New Relic 代表取締役社長 小西真一朗氏)と位置付けている。

 実際、同社のソリューションを採用したダイキン、NTTドコモ、トラスコ中山などは、コロナ禍であってもオブザーバビリティによってDXを加速させ、新たなビジネスチャンスを多数生み出しており、オブザーバビリティのビジネスにおける有効性をはっきりと示している。

オブザーバビリティでDXを推進させたNTTドコモ、ダイキン、トラスコ中山などは、平均収益成長率でオブザーバビリティを導入していない企業に大きく差を付けている

 一方で、バズワード化しつつあるとはいえ、国内企業のオブザーバビリティに対する認知度は米国などに比べるとやはり低いと言わざるを得ない。とくにIT予算や人材を確保しにくい中堅/中小企業は、オブザーバビリティ導入への足がかりをつかむことも難しい。こうした現状を受け、これまでエンタープライズ中心にビジネスを展開してきたNew Relicは「中堅/中小企業向けに『オブザーバビリティの民主化』を拡げる」として、2021年9月16日付けでいくつかの施策を発表した。本稿ではその概要を紹介する。

New Relic 代表取締役社長の小西真一朗氏

調査で露呈、日本企業の「オブザーバビリティに対するレディネスの低さ」

 New Relicは日本企業185社を含むグローバル1300社を対象に、オブザーバビリティの認知度や成熟度の現状、関連するテクノロジの採用傾向を調査したレポート「2021 Observability Forecast」を発行している。調査項目は多岐に渡るが、小西氏は日本企業のオブザーバビリティ認知度を象徴する3つのポイントを紹介している。

・オブザーバビリティ理解度 … オブザーバビリティについて「まったくわからない」と回答した日本企業は36%で、グローバルの10%を大きく上回る。また「とてもよく理解している」は日本21%、グローバル45%となっており、オブザーバビリティに対する理解度の低さが目立つ。

・パフォーマンス監視対象 … パフォーマンスの監視対象に「アプリケーション」「インフラストラクチャ」「データベース」などを選ぶ企業の比率は日本とグローバルの間にほとんど差は見られないが、「デジタル顧客体験」を監視対象にしている日本企業は17%と、グローバルの40%と比べて半分以下となっている。また、「サーバレスアプリケーション」についても日本企業16%、グローバル30%とダブルスコアに近い差が付いている。

・Kubernetes/コンテナ採用状況 … 「コンテナ化は検討していない」と回答した日本企業は46%と約半数に上り、グローバルの12%と比べると非常に大きな差が生じている。

New Relicの調査では、日本企業のオブザーバビリティ理解度はグローバルに比べて低く、導入のための環境や人材が整っていないことが明らかになっている

 この調査結果は日本企業の「オブザーバビリティに対するレディネスの低さ」をそのまま反映していると小西氏は指摘する。「オブザーバビリティは基本的に計測の技術であり、計測したデータを管理していくことが前提。だが“計測できないものは制御できない”というとおり、オブザーバビリティのレディネスが低いままでは認知度も広がらず、計測/管理できる人材も育成できる状態にない」(小西氏)。

 オブザーバビリティのレディネスの低さはそのままDXの遅れにつながっていく。たとえば上記の調査では、パフォーマンス監視対象に「デジタル顧客体験」を含めている国内企業は17%と非常に少ない。これはスマホやタブレットなどユーザ側のフロントエンドまでを監視対象にしている企業が少ないことを意味している。

 デジタル顧客体験の向上はDXの実現に欠かせない要素だが、マイクロサービスを前提とした、エンドツーエンドでのモニタリングやトレーシングを日常的に行う必要がある。しかしながら、実際は「監視対象をフロントエンドまで拡張するにはコストがかかり、さらにマイクロサービスのAPIやシステム構成、(オブザーバビリティ実現のために)ユーザ側のアプリに実装すべき機能などを理解していない企業が多い。そのもそもその重要性に気づいていない」(小西氏)という状況にある。国内企業のDXのスピードが遅れがちな原因の一端はこういうところにあらわれている。

 「顧客体験をベースにサービスをアップデートすることは難しい。とくに日本企業の場合、サービスをローンチしたものの、トラブルが発生して風評被害に悩むケースも少なくないため、なるべく良い状態にサービスを作り込んでからローンチする傾向が強い。それではどうしてもビジネスのサイクルが遅くなり、競争力が低下する。オブザーバビリティはスピーディな開発とローンチをサポートする側面も強い」(小西氏)

中堅中小企業向けに3つのプログラムを発表

 ただし前述の調査結果にもあるように、国内企業の約20%はオブザーバビリティの有用性に気づいており、一部の企業はDXを加速させるドライバとしてフルに活用している。そうした企業では「内製化が進んでおり、オブザーバビリティに精通したエンジニアが育っている」(小西氏)という共通項が見えてくる。DXの推進速度は、オブザーバビリティを含む内製化率と密接な関係があることは疑いない。

 2018年から日本でオブザーバビリティビジネスを展開してきたNew Relicは「オブザーバビリティのトッププレイヤーとして、オブザーバビリティ民主化のための投資をする必要性を感じている。誰もがオブザーバビリティに挑戦できる環境を提供し、2025年までにオブザーバビリティエンジニアの数を5万人以上に増やしたい」(小西氏)として、今回、中堅中小企業を対象にした3つのプログラムを発表している。

・無償利用モデルの大幅拡張 … これまでの2週間限定のフリートライアルから、全機能が利用できる期間無制限のフリーティアモデルへと変更。1ユーザかつ月間のデータ保存量が100Gバイト以下の利用頻度であれば半永久的に無償利用可能
・中堅中小企業向けライセンスを提供開始 … 日本語サポートの対象レンジを2~4ユーザの小規模利用まで拡大(これまでは4ユーザ以上)し、月額3万8400円から利用可能に
・New Relicの学習モデルを体系化し、無償提供を強化 … インストール手順や技術ドキュメントの日本語提供を強化、ハンズオンを含む日本語学習パスコンテンツを50以上に増強、9月15日付でユーザグループを発足

New Relicが新たに打ち出したオブザーバビリティ普及のための施策は、中堅中小をターゲットに「誰もが全機能を利用できる」「無償でオブザーバビリティを習得できる」「コミュニティを促進する」の3ステップで構成される。プログラムの普及を通して2025年までに5万名のオブザーバビリティ技術者の育成を掲げる

 もともとNew Relicには5000を超えるフリーティアプログラムのユーザが存在していたが、今回の施策は単に無償で利用できる範囲を大幅に拡大し、オブザーバビリティへの入り口を広くしただけでなく、その次のステップであるオブザーバビリティの本格活用までをサポートしている点に注目したい。

 ひとりのエンジニアがオブザーバビリティを学びたいと思ったときに、すぐにスタートできる期間無制限の無償利用枠と多くの日本語コンテンツを提供し、そのエンジニアがツールの利便性を理解して習熟度が上がれば、低コストなエントリプログラムを通してチーム内に利用を拡げていく可能性が高まる。事業を始めたばかりで資金に余裕がない部署やスタートアップでも、全機能が利用できる無償プログラムにより、オブザーバビリティを初期投資に含めることが可能になる。

日本でも「オブザーバビリティ」を掲げるベンダは増えてきたが、New Relicは「我々が日本でやってきたことは他社が一朝一夕に真似できることではない」と強い自信を見せる。今後もエンジニアにコミットしたサポートプログラムを数多く提供していくという

 小西氏はこれらのプログラムについて「オブザーバビリティの民主化に本気で取り組んでいるNew Relicだからできること。我々がもつオブザーバビリティの使命感は他者が真似しようと思ってもできない。製品は米国発だが、日本のユーザを支援する施策やコンテンツはすべてメイドインジャパン」と、過去3年間の国内ビジネスの実績にもとづいた施策である点を強調する。

 オブザーバビリティへの注目度が高まる一方で、本質的な普及が進まない日本のオブザーバビリティを、中堅中小やスタートアップのエンジニアにフォーカスすることで民主化へとつなげていこうとするNew Rrelic。今後はアイレットなどパートナー企業との提携も強化し、より幅広いレンジを対象にした「オブザーバビリティの民主化」をめざす。

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