IT戦略を経営の重要な取り組みに
一方、楠見社長兼グループCEOが打ち出した経営基本方針のなかには、パナソニックの歴代社長にはなかったものがある。
それは、IT戦略を、同社の経営の重要な取り組みに位置づけ、それを時間をかけて説明した点だ。
同社では、DXプロジェクトの名称を、「パナソニックトランスフォーメーション(PX)」とし、ITの変革に留まらない重要な経営戦略として推進。PXのプロジェクトリーダーには、2021年5月にパナソニック入りしたCIOの玉置肇氏が就いた。同氏は、アクサ生命保険やファーストリテイリングで、DXを推進してきた経歴の持ち主であり、楠見社長兼グループCEOも、「社外で多くの実績を積んできたITのプロ」と評価。そして、「私自身もオーナーとして、PXの推進にしっかりとコミットする」と、楠見社長兼グループCEO自らも、プロジェクトに深く関与する姿勢を示す。
楠見社長兼グループCEOは、「DXは、パナソニックグループが、卓越したオペレーション力を獲得する上で不可欠な取り組みであり、各事業会社のDXによる支援と、グループ全体のIT経営基盤の底上げに向けて、早急に変革を進める」と発言。さらに、「パナソニックグループには、事業ごとの個別最適によって、過去に導入された多数のシステムがあり、結果としてそれぞれの事業において、ITが経営のスピードアップに貢献できていない。残念ながら、これが現実である。その現状を打破して、グループの成長に直結するようなITに変えていくために、ビジネスのやり方や社員の働き方を、ITを活用して変えていく。ITを徹底的に活用して経営のスピードを高めていく」と述べた。
PXでは、情報システムのクラウドへの移行を加速させるITモダナイゼーションを推進するだけでなく、働き方やビジネスのやり方を含めた変革に着手するとともに、データドリブン基盤を構築し、それを活用したデータドリブン経営へのシフトも図ることになる。
「ITで仕事のプロセスを規定するという考え方から脱却し、社会や事業環境の変化に応じて、仕事のプロセスを進化させることに取り組む」とし、「従来のITは、仕事のプロセスを規定することが目的であったが、迅速に変化する社会環境や事業環境にあわせて、プロセスを、俊敏に、絶え間なく、アジャイルに進化させていくことが必要である。そのためには、システム構築だけでなく、仕事をアジャイルな仕方に変革することが大切である。また、しっかりとデータに向き合い、経営に活用できるデータドリブン基盤の構築を進める。DXの推進を通じて、グループ全体で経営のスピードアップを果たし、業界のトップランナーとなることを目指す」と述べる。
社長会見において、ここまでIT戦略に触れたパナソニックの歴代社長はいなかった。
DXは、Digital Transformationの略称だが、それをDTと言わずに、DXとしているのは、Transの省略をXと表記する英語圏の慣習にならったものだが、その意味には、Xの文字に示されるように、上下が反転したり、交差して入れ替わるという意味がある。つまり、チェンジやモディファイといった部分的な変化とは異なり、Xで表現されるトランスフォーメーションには、すべてが大きく変わるという意味がある。
最新技術を活用したとか、あるいは、少し生産性があがった、経営が変化したというレベルではDXとは言わない。それになぞらえれば、PXには、パナソニックのすべてを反転させるほどの変化を及ぼすという意味があるといっていいだろう。
60年ぶりに経営基本方針を改訂することから第一歩を踏み出した楠見社長兼グループCEOには、デジタルによって、パナソニックを大きく変えるという強い覚悟も感じられる。
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