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社会課題を解決する位置情報サービスの実現になにが必要か?

三菱商事、NTTがHERE Platformを活用した物流・コネクテッドカー事例を披露

2021年08月18日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2021年7月15日、自動車・モビリティ業界のイベントである「Intelligent Mobility Summit」(フロスト&サリバン主催)では、HERE Technologiesとユーザー企業である三菱商事、NTTが物流やコネクテッドカーに関するプレゼンを披露した。

位置情報にまつわるサービスを迅速に構築できるHERE Platform

 HERE Technologies シニアビジネスディベロップメントマネージャーの橘幸彦氏は、位置情報データを活用したサービスを構築するための「HERE Platform」(旧称:Open Location Platform)について説明する。

 HERE Platformはレイヤー構造となっており、演算処理を基盤となるインフラ、地図と位置情報関連コンテンツ、検索やルーティングなどの位置情報サービス、開発や分析、可視化、マネタイズを可能にする環境、さらに産業ごとのアプリケーション、プロフェッショナルサービスなどで構成されている。

HERE Platformについて説明するHERE Technologies シニアビジネスディベロップメントマネージャー 橘幸彦氏

 このうち環境と呼ばれるワンストップソリューションは、位置情報を中心としたデータプロダクトや業界向けのアプリケーションを実現するもので、位置情報に特化したクラウドサービスである「HERE Workspace」、サードパーティによる位置情報データやAPIを安全に交換するための「HERE Marketplace」などが提供されている。

 HERE Workspaceは、HEREの地図をベースとしてさまざまなレイヤーを追加することで、地図をカスタマイズしたり、位置情報などデータ分析することで、特定のイベント処理を行なったり、データをグラフやチャート、地図などにグラフィカルに図示したり、特定の定義に基づいたデータの保護を可能にする。検索や経路案内といった基本的なロケーションサービスはすでにAPIが用意されているため、独自のWeb・モバイルサービスを迅速に構築できるという。

 HERE Workspaceは物流分野ではどのように活用できるのだろうか? たとえば、荷物の運搬において、道路の曲率や勾配、車両の平均速度、外気温度、貨物の温度などさまざまなメトリックスを用いると、到着にかかる時間とは異なるルート選択が可能になる。ワクチンや医療機器のようなものを運ぶのであれば、なるべく曲がりや勾配が少ないルートの方が望ましいはずだ。さらに、天候情報などHERE Marketplaceで提供されるサードパーティデータを組み合わせることで、サービスの精度はより高めることができる。

 橘氏は、「コロナ渦で、ヒト、モノ、カネの移動と経済の関連性が再認識されている。この位置情報技術を活用した技術は、この後の世界や日本の経済、技術、産業の回復と前進に欠かせないものだと考えている。われわれが提供するオープンでニュートラルな位置情報プラットフォームはみなさまの企業や社会に貢献できるモノだと思っている」とまとめた。

三菱商事では小売、物流、観光の分野でHERE Platform活用を推進

 HERE Platformの説明に先立って、事例を紹介したのは三菱商事のHEREプロジェクト室の草場拓也氏になる。三菱商事は2020年にHERE Technologiesと資本提携を結んでおり、物流・都市交通・小売・金融などのロケーションサービスの展開を進めている。

 同社の顧客である大手食品流通企業では、食材のラストマイル配送において、ドライバーの配送実態の見える化と最適ルートのシミューレーションを実施したという。登録店舗数は数万点、配送件数は数千件、稼働車両は数百台という規模だ。

 このうち配送実態の見える化に関しては、スマホアプリである「HERE Tracker」をインストールしたスマホをドライバーが携行し、走行軌跡や駐車位置を地図上に可視化した。また、走行時間や各拠点での停車時間などの指標も算出。これらのデータをHERE LastMileをインプットし、最適なエリアやルートをシミュレーションしたところ、車両台数の約20%を削減できることがわかったという。

物流の事例について説明する三菱商事 HEREプロジェクト室 草場拓也氏

 また、物流現場では、各地域に詳しいベテランドライバーに依存していたが、ベテランのルートや駐車場所を可視化することで、新人や臨時のドライバーでも効率的な配送が可能になるという。また、委託先の交渉においても、データによるコスト項目の分解と物流の実態を踏まえて、適切な金額で交渉が行なえるという。さらに、今までドライバーの自己申告と過去実績による管理も、ルートごとの実態を把握し、配車やルートの見直しが可能になる。

 さらに観光分野では、ユーザー行動の可視化がDXの切り札になるという。国内観光業では、観光客の行動データが把握できておらず、施策に活かせてない点が課題となっている。そこで三菱商事では観光や地方創生事業に明るいマップル社と共同で、観光客の移動データ、属性データを収集し、HEREで分析した。

 会津若松市で行なわれた実証実験では、観光地として有名な鶴ヶ城から市内の回遊が低いという課題が得られたという。カフェや食堂の多い地域へのコースを提案しつつ、機動性の優れたレンタサイクルの予約機能を備えた専用サイトを構築し、一定の効果を確認したという。同じく三菱商事が参加する「会津Samurai MaaSプロジェクト」においても、モビリティ間連携、店舗や施設の連携に、HERE Platformが活用されているという。

NTTはパートナーとともにコネクテッドカー基盤を構築

 三菱商事と同じくHERE Techonologiesに出資しているNTTはおもにR&D事例を披露した。説明したのはNTT 研究企画部門の深田聡氏だ。

R&D事例について説明したNTT 研究企画部門 プロデュース担当 深田聡氏

 NTTではさまざまな分野のデジタルツインを複製・融合・交換することで多面的な意思決定や街全体の全体最適を実現する「デジタルツインコンピューティング」を推進している。また、デジタルツインのリアルタイム性や正確な位置を実現すべく、4Dデジタル基盤を構築。モビリティ分野においては、来るべく完全自動運転の世界を実現すべく、高度地理空間情報データベースを元にした4Dデジタル基盤を連携する自動車メーカーやキャリア、サービス事業者に提供していくという。

 具体的なR&Dの取り組みとしては、2018年12月から実施しているトヨタ自動車との取り組みが紹介された。ここでは、大量の車両からデータを収集し、実空間をクラウド上に再現し、NTTグループが持つICT技術を駆使して、スマートモビリティ社会の実現を目指すという。

 また、高速度時空間データ管理技術「Axispot」では、数千万台の車両データからリアルタイムな格納や検索、分析が可能になる。さらに精度が劣化する都市部での位置検索を高精度に行なうため、伝播遅延の少ない不可視衛星信号を選択できる「スマートサテライトセレクション」や、GNSSレシーバーの測位演算処理をクラウド側にオフロードする「クラウドGNSS測位アーキテクチャ」など、さまざまなR&Dの取り組みが行われているという。

 こうしたさまざまなR&DではHEREとの連携も推進。さまざまなパートナーとともに、グローバルでのコネクテッドカー連携基盤の実現やモビリティの高度利用を進めていくという。

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