最大約34時間!駆動時間重視でFHD+Core i5モデルという選択
VAIO Zのバッテリー・電源まわりの気になる点を開発者に訊く
気になるバッテリー周りについて開発者に伺った
ここで、バッテリー駆動時間や電源周りなどについて、気になる点を前回に引き続きPC事業本部エンジニアリング統括部デバイスエンジニアリンググループ システム設計課 エレクトリカル プロジェクトリーダー(PL)の板倉功周氏にお話を伺っている。
――バッテリー容量は先代モデルより少なくなっていますが、そのあたりのバランスはどのように決めたのでしょう。
板倉功周氏(以下板倉) 「確かに、先代のZの58Whとくらべれば53Whに減っています。ただし、バッテリーライフは社内的にも厳しく高い要求をされるので、電気PLとしては重量とサイズのバランスを見ながら検討してきました。また、ターボ・ブーストで駆動した際の電力消費も考えなければならないので、カタログ値としては長い時間を出せるようになりましたが、これは出すぎだという声も中にはありました。実使用と乖離するというお客様からの声があることも承知しています。
バッテリーは定格より出力のほうが大きく出せるパラメーターを持っています。容量と出力できる電力に関して1.2倍ぐらいで、単純計算で50Whを載せれば60Whは出せるというイメージです。今回の容量も、こうした重量とバッテリーライフ、どれだけ出力できるかという3つのバランス取りを考慮した結果なのです。メカのほうからは、もっと軽くと言われましたが、経験値をもとにコンマ何ミリ薄くすると、何Wh減ってバッテリーライフにこのような影響を受けると説明して説得しました」
――今回、USB Power Delivery(PD)による充電のみに絞りました。これによるメリット、デメリットはありますか?
板倉 「メリットの1つとして、薄型化の実現が挙げられます。電力を大きくしようとした場合、DCジャックの径が薄型化の阻害要因となってしまいます。
写真はS15で比較していますが、Z Canvasのアダプター(VJ8AC19V77、65W出力)も同じ径です。今回、新規に開発したVJ8PD65WはVJ8AC19V77と同じ電力でありながら、USB Type-Cのプラグにすることで、DCジャックの径という薄型化を阻害する要因を解決できています。Sシリーズなどで使用しているアダプター(VJ8AC10V9)よりも電力を大きくしつつ、本体を薄くできた、というのは大きなメリットです。
次に挙げられるのは、やはりPDという規格でしょう。この恩恵もメリットです。PDを採用することで、ドッキングステーションなどのペリフェラル機器を接続するときに、ワンタッチで機能拡張と電源供給ができます。
加えて、万が一アダプターを忘れてしまった際にもほかのアダプターを使えるという点です。PDに対応した全てのアダプターとの接続保証はできませんが、規格に準拠していれば、他社製品であっても接続できるはずです。
逆にデメリットを強いて挙げるとしたら開発の難易度でしょうか。機構設計でいえば、どのようにして構造的な強度を保つかという点、電気/ソフトウェアの観点でいえば、どのような電力のアダプターが接続されるかは接続されてみないとわからない、という前提でシステムの電力をどのように制御するか、というのも課題でした。これらは、あくまでも一例ですが。
われわれは設計が大変になったアピールをしたいわけではないので、これくらいにしますが、開発陣がチャレンジの困難さよりも得られるメリットの大きさを感じ、お客様の体験を改善する目標に取り組みました」
――USB-Cを両サイドに装備し、どちらもPD対応にしていますが、開発で苦労したことはありますか?
板倉 「構造に加え、組み立て性を考慮することですね。一枚基板で対応することが難しいことがわかったので、子基板で実現したのですが、これは苦労しました。Thunderboltという高速信号を、コネクタを介して接続する必要があるので、信号品質の担保に苦労しています。
あとは電源の経路が真逆にある、ということですね。これは基板設計の際に苦労したポイントになります。ですが、これらも「開発時点からの前提」で取り組んできていますので、苦労でありチャレンジでもあります。モチベーションが高まる苦労、という感じでしょうか」
――ACアダプターも小型化して持ち運びやすくなりました。開発にあたって気をつけた点、目指した点などあればお聞かせください。
板倉 「安心と使いやすさの向上を併存させることです。小型化のために内部のスイッチング素子にGaN(窒化ガリウム)を採用しましたが、小型化を目指すにしても過度に小さくしすぎて熱くなるような製品ではダメなので、サイズと発熱のバランスに気を配りました。
また、ケーブルを一体型にしたのはケーブルの携帯忘れの心配もないですし、安全なケーブルであることが保証できるからです。ほかにもType-Cプラグ部分にテーパーをつけることで、抜きやすくしています。気づきにくい部分ではありますが、細かい点に配慮しているんです。
『なんでもっと小型化にしないの?』とか『ケーブルは別の方が良かったなぁ』という声もあるかもしれませんが、そうしなかったのが“VAIOのこだわり”なんです。
ただ、コンセントプラグ部は最後まで悩みました。折り畳み式は収納性/携帯性に優れていることは認識しています。ただ、可動式にすることで、破損する可能性が高まるなどのリスクが増えますし、折り畳み式は収納するためのスペースを必要とするのでサイズがかえって大きくなる、という社内の声もありました。
折り畳み式プラグを否定するつもりはないのですが、サイズとデザイン性を損なわない、かつ安全な機構とのバランス、というなかで今回の形状を選択しました」
バッテリーは持つけどCore i5だと性能が気になる?
さて、長時間駆動することはわかったが、やはりVAIO Zだと高性能を求めるユーザーが多いことだろう。搭載されているCore i5-11300H プロセッサーの気になる性能はどの程度なのかCPU性能を検証する「Cinebench R23」で計測してみた。なお、Core i7-11375H搭載マシンは4Kモデルで検証している。
結果としては、シングルコアは170pts程度の差がついたが、マルチコアだと300pts程度の差という結果になった(10~5%程度の差)。より速さを求めるならCore i7搭載がいいのは明らかであるが、4K解像度はFHD解像度よりも高負荷になるため、同じ解像度で計測した場合よりは差が縮まる面もある。この結果だけを見れば、そこまで大きな差がついていないと感じるかもしれない。
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