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ゲーム市場の“成長の波”に乗るためには、バンダイナムコスタジオがゲスト出席しDX事例を披露

マイクロソフト、国内ゲーム業界に対するDX支援の取り組みを紹介

2021年05月19日 11時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 日本マイクロソフト(日本MS)は2021年5月18日、国内ゲーム業界に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)支援の取り組みに関する記者説明会を開催した。具体的な支援策として「『働き方改革』への支援」「先端技術による開発者支援」「ビジネスチャンスの拡大支援」「ゲーム産業の裾野を広げる支援」の4点を掲げる。

 説明会には同社 ゲーム&エンターテイメント営業本部 本部長の米倉規通氏らが出席し、ゲーム業界における現在のビジネス課題と、マイクロソフトのソリューション群や取り組みを紹介した。またゲストとして、バンダイナムコスタジオ 代表取締役社長の内山大輔氏も出席。リモートコラボレーションや開発パイプラインのクラウド化、クラウド認証基盤の採用といった、同社におけるゲーム開発環境のDXの取り組みを披露した。

マイクロソフトが国内ゲーム産業に提供するDX支援策

日本マイクロソフト ゲーム&エンターテイメント営業本部 本部長の米倉規通氏、同社 Global Black Belt Asia Apps & Infra担当Technical Specialistの下田純也氏

ビデオ出演した米マイクロソフト Gaming Industry Vertical General Managerのジェームズ・グウェルツマン(James Gwertzman)氏、ゲスト出席したバンダイナムコスタジオ 代表取締役社長の内山大輔氏

成長するゲーム市場、乗り遅れないために必要なDX

 日本マイクロソフトでは2年前に、ゲーミングおよびエンターテイメント業界を対象にビジネスを行うゲーム&エンターテイメント営業本部を設置。さらに、ゲーム関連の技術支援やDXに関する支援を行う「Global Black Belt」チームを構成して、ゲーム業界のDXを推進しているという。

 ゲーム&エンターテイメント営業本部 本部長の米倉氏はまず、ゲーム業界が右肩上がりで成長していることを紹介した。国内のゲーム人口は5000万人に達し、年間2兆円の市場規模となっている。グローバルでは20兆円市場であり、日本は米国、中国に次ぐ世界3位の市場規模を持つ。「ゲームは日本が世界に誇ることができる業界になっている」(米倉氏)。

 その一方で、米倉氏は「既存システムの老朽化」「消費行動の変化」「ビジネス環境の変化」という3つの環境変化から、他の産業と同じようにゲーム業界にもDXが必要であることを指摘する。

 たとえば「既存システムの老朽化」については、シリーズ化したゲームタイトルにおいては、初期から使用しているシステムを使い続けたり、独自開発のゲームエンジンを長期にわたり利用したりといったことが起きていると説明する。「システムの初期設計をした人がすでに退社しており、既存システムに手を加えることが大きな工数になってしまう場合もある」(米倉氏)。そのほか、ゲームをプレイするだけでなく実況配信をする/視聴するという新たな楽しみ方、あるいはコロナ禍の影響を受けた生活スタイル、サブスクリプションモデルなど、さまざまな市場変化に呼応する製品/サービス開発にいち早く対応するためにもDXが必要だと語る。

 同社 Global Black Belt Asia Apps & Infra担当Technical Specialistの下田純也氏も、ゲーム開発環境における「4つの課題」を指摘し、DXの必要性を訴えた。

 「次世代ゲーム機の登場により、開発時間や開発コストが増大する一方で、新型コロナウイスのビジネスへの影響や事業の継続性といった課題、さまざまな状況にも柔軟に対応できる開発環境の実現、ユーザーのゲームプレイスタイルの変化にも柔軟に対応することが求められている。ゲーム業界は、これらの課題をDXによって解決することが必要だ」(下田氏)

下田氏が挙げた「4つの課題」

マイクロソフトが掲げる4つのDX支援策

 冒頭で述べたとおり、マイクロソフトでは具体的に4つのDX支援策を掲げている。米倉氏は、マイクロソフトがゲーム業界に提供できるものは「Xbox」だけでなく、Windowsプラットフォームや「Office」、「Azure」や「Teams」などのクラウドサービス、「Visual StudioやGitHub」のような開発ツール、さらに「Surface」デバイスなど広範に及ぶと述べ、これらがDX推進を支援することを説明する。

 たとえば「働き方改革への支援」では、「Microsoft 365」やTeamsをハブにしたリモートワーク下でのオンラインコラボレーション環境、「Azure Active Directory」の認証基盤を活用したゲームの統合開発環境などを実現できる。同社によると、社員500人以上のゲームパブリッシャー/デベロッパーの60%が全社員を対象にTeamsを導入しており、これは2年前の3倍の割合だという。

 「AIを活用して重要なアラートだけを開発者に伝えたり、問題対応を自動化したりといったソリューションも提供できる。コロナ禍においても、事業継続にとどまらず『事業成長』のためのDX実現を支援でき、ゲーム開発体制のさらなる効率化と柔軟な仕事環境の構築をサポートする」(下田氏)

Microsoft 365、Teams、Azureによるソリューション

 「先端技術による開発者支援」では、Microsoft ResearchとXbox Game Studiosの共同研究成果であるAIや先端技術を活用し、ゲーム開発における創造性、開発力、生産性の向上を支援しているという。

 「たとえばレーシングゲームの『Forza Mortorsport』では、レースコースの忠実な再現とライバル車のリアルな挙動を実現。『Microsoft Flight Simulator』では、『Bing Map』のデータとAIを活用して地球全体の3Dマップを生成し、さらに管制塔からの指令の声は声優の音声を(AIが)学習して、テキストをもとに自動的に発話する機能を取り入れている。これらの技術がゲーム会社に提供されており、研究成果の共有やGitHub上でのコード共有、実験環境の提供などを通じて、開発コストを削減できる」(下田氏)

Microsoft ResearchとXbox Game Studiosの研究成果を実際のゲームに取り入れ、さらに業界内で共有している

 同時に、ゲーム開発会社におけるAI人材の育成も支援していくという。育成プログラムとして、無償オンラインコースの「AI Business School」、クラウド&AI人材育成プログラム「Enterprise Skills Initiative」、無償のスキルトレーニングである「Virtual Training Days」などを提供する。

 続く「ビジネスチャンスの拡大支援」では、ゲームプラットフォームの変化によって「次のパラダイムシフトが起きている」(米倉氏)と述べ、その潮流に乗ることでビジネス規模を飛躍的に伸ばせるとした。

 「ゲーム機に対してコンテンツを提供するというこれまでの『コンソールセントリック』な考え方から、今後は、いつでもどこでも誰とでも、好きなデバイスでゲームをプレイできる『ユーザーセントリック』な環境にシフトすると見ている。マイクロソフトではそれをAzureで実現しようとしており、ライトユーザーを含む約30億人のゲームユーザーが利用できる環境が整う。ゲーム開発会社のビジネスチャンスが広かることになる」(米倉氏)

 さらに「ゲーム産業の裾野を広げる支援」も掲げている。具体的には、他業界の企業とゲーム業界が連携して新たなビジネスを立ち上げる「Cross Industry」や、スタートアップ支援を通じてゲーム業界に貢献する「Startups Citizen Developers」を提供しており、さらに2021年夏からはゲーム業界に特化したスタートアップ支援「ID@Azure」も開始すると発表した。詳細は今後発表予定となっている。

 なお、女優の本田翼さんがマイクロソフト製品を駆使してゲーム開発を行っていることにも触れ、「これもゲーム業界の裾野を広げる支援の一環。マイクロソフトの製品やサービスを利用することで、ゲーム業界の参入ハードルが下がることを訴求できる」と説明した。

バンダイナムコスタジオが自社の取り組みを披露

 ゲーム開発環境におけるDXの事例として、バンダイナムコスタジオの取り組みが紹介された。同社では、リモートコラボレーション環境の実現、開発パイプラインのクラウド上への構築、クラウド認証基盤とセキュリティの実現に取り組んでいる。

バンダイナムコスタジオがDXの取り組みで実現したことの概要

 バンダイナムコスタジオでは、開発環境をオンプレミスからAzureに移行。これにより、クラウドネイティブなCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)を実現するとともに、Azure VMの高い性能を享受することでパフォーマンス向上とコスト削減を両立させた。さらにテスト業務のリモート化も促進できたという。

開発環境をオンプレミスからAzureに移行し、クラウド上にCI/CD環境を構築。さらにテストまで一環してクラウド化し、リモートからの活用を進めている

 バンダイナムコスタジオ 代表取締役社長の内山氏は、かねてからDX推進のためにクラウド利用やリモート開発を検討してきたが、コロナ禍を受けたこの1年で大きく環境が変化し、「クリエイターの出社率が10%になるなど、DXが一気に進んだ」と語る。

 DXの検討において同社では、人が行う「データ作成」とコンピューターが行う「データ加工」の2つに業務を分けて考えたという。

 「データ作成は、人がクリエイティビティを発揮する部分であり、開発マシンをクリエイターの自宅に設置し、VPNを通じて作業を行えるようにした。ただし完璧な開発環境とは言えない。将来的にはクラウド上で開発を行う環境へと移行し、クラウド上のデータを(複数の)クリエイターが同時編集するといったことも可能にしたい」(内山氏)

 さらに内山氏は、開発環境でありながら、海外のさまざまなクリエイターとも場所や時間の違いを越えてつながり、「クリエイター同士が話し合いを行える場も実現したい」と期待を語る。またデータ加工については、「クラウド上にゲームデータを置き、完成版やテスト版に組み上げる作業を自動化するビルドパイプラインの試験導入を行っている」と述べる。

 ただし内山氏は、この環境にはまだ課題があることも指摘した。ひとつは「クラウドでの開発環境はコストが高い」こと、そしてもうひとつはクリエイター間のコミュニケーションだという。

 「ゲーム開発においては、対面での雑談のなかから生まれるアイデアが大切だということを改めて実感している。Teamsを活用しているが、コミュニケーション部分がさらに高度化できる新たなアイデアや技術の登場にも期待したい」(内山氏)

 今回の説明会にビデオメッセージで参加した米マイクロソフト ゲーム業界担当GMのグウェルツマン氏は、「マイクロソフトは、ゲーム業界で選ばれるクラウドプラットフォームになるために日々努力している。私は日本のゲーム業界をリスペクトしており、日本は重要なエリアと捉えている。日本のゲーム開発者を常にリスペクトし、フォーカスし、全方位で支援する」と述べた。

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