スイス2大時計フェアの取材歴25年以上という時計ジャーナリスト 渋谷ヤスヒトさんとアスキー編集部エリコが、時計業界にまつわる旬な話題を話すClubhouseの「時計トーク」Room。
毎週 日曜日の21時からレギュラーで開催するRoomで話したキーワードを基に、ASCII.jp上で時計業界のトピックスを紹介します。
2020年はスイスで開催される予定だった、新作を発表する2大時計フェアが中止になりました。その結果、新作モデルの発表方法が大きく変わりました。オンライン、それも独自のタイミングとスタイルで、新作を世界に向けてアピールする高級時計ブランドが増えました。
大きく変化した理由はフェアが開催されなかったからですが、実はもうひとつ理由があります。それは3月から4月にかけてのロックダウンによる生産の遅れです。外出制限のために工場の組み立て製造ラインが予定通りに動かなかったので、予定通りの生産ができなかったからです。
その結果、良いこともあります。各ブランドの「絶対オススメしたい」モデルが、2020年末から2021年の年初にかけて、タイミング良く出揃ったのです。そこで今回は、2020年末から2021年の年初に発表・発売がスタートした「絶対オススメモデル」を紹介しましょう。
大進化したオメガの「月に行った腕時計」
まずオススメしたいのが、1月16日から直営ブティックで発売を開始した、名門オメガを代表する傑作であり定番であり、絶対的なアイコンモデルのひとつ「スピードマスター プロフェッショナル」の最新定番モデルです。
時計好きの間では「スピードマスター プロフェッショナル」、通称「スピマス」と言われ、現在は「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル」という名前です。
この手巻きの機械式クロノグラフはアメリカ航空宇宙局(NASA)による過酷なテストを世界で唯一パスして、アメリの宇宙開発計画で宇宙飛行士の正式な装備になり、人類を月面に初めて立たせた「アポロ計画」では大活躍しました。
正式に装備品になったのは1965年。1969年にはアポロ11号のニール・アームストロング、バズ・オルドリンをはじめその腕に巻かれて月面での活動をサポート。これをきっかけに“ムーンウォッチ”の愛称で呼ばれるようになります。
さらに1970年のアポロ13号では、月に向かって飛行中に宇宙船が深刻な事故を起こし、地球に帰還する際にコンピュータに代わり、このクロノグラフが大気圏突入の際の姿勢制御ロケットを手動操縦で14秒噴射する際に、時間計測に使われ、宇宙飛行士たちの生還を支えました。これも月での使用に加えて、“ムーンウォッチ”に関する伝説的なエピソードのひとつです。
ところでオメガはスイスのビッグな時計ブランドの中でも、特に機械式ムーブメントの技術革新に積極的です。1999年には時を刻む心臓部である脱進機に「コーアクシャル」という革新的な機構を採用。この結果、精度も耐久性も大きく向上しました。さらに2013年にはテレビやスマートフォンのスピーカー、バッグの開閉部などに使われる強力なマグネット類に触れても磁化しない新合金を開発して、これをムーブメントに導入し、1万5000ガウスという超耐磁性能も実現しました。
そしてオメガはすでにほとんどのモデルにこの新世代ムーブメントを搭載してきました。ただ“ムーンウォッチ”だけは違いました。この技術を組み込むにはスペース上の制約があったそうです。しかしこの新しい“ムーンウォッチ”の定番モデルから、ついに導入が実現。精度も耐久性も耐磁性も劇的にアップしました。ブレスレットも新設計になって、着け心地も向上しています。
またうれしいのはディテールの改良&進化とバリエーションの豊富さ。どれも、スピードマスターのマニアックなコレクターでも納得できるものばかりです。
価格は70万4000円からで、すでに発売中。宇宙が好きな人には、絶対オススメの1本です。
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