プライム・ストラテジーがチャレンジした業務の可視化と自動化
自社開発CMSで現場向けのダッシュボードを作ったらテレワークの生産性が上がった
2021年03月15日 09時00分更新
多種多様なクラウドサービスのデータを収集したダッシュボードを、自社開発CMSのカスタマイズで実現したのがプライム・ストラテジー。コロナ禍を機に、今までまったく縁がなかったテレワークに取り組み、業務の可視化や自動化で大きく業務を変えていったこの1年を同社代表取締役の中村けん牛氏に振り返ってもらった。
テレワークで必要になった業務の可視化と自動化
プライム・ストラテジーはWordPressを独自に拡張した「KUSANAGI」という高速CMSの開発を手がけており、サーバーの移設・構築・運用やセキュリティ対策までを一貫して行なっている。ソフトウェア開発会社ということで、テクノロジーに明るい企業ではあったが、過去にテレワークはほとんど経験なく、顧客にほど近い東京駅近くの大手町にオフィスをかまえ、社員はそこに出社して仕事するのが当たり前だったという。
そんなプライム・ストラテジーだが、新型コロナウイルスの影響を受け、昨年3月から任意のテレワーク制を導入した。その結果、開始一週間で全社員の8割はテレワークになってしまったという。「一番多かったのは、ゴールデンウィークの前後でしたが、それでも2~3人しかいません。誰かがトイレに立ってしまうと、複数の電話に対応できない状態でした(笑)」と中村氏は語る。
3月は希望者による任意のテレワークだったが、4月以降は原則テレワークにシフト。その後は現在に至るまで7割がテレワークになり、特にエンジニアは9割以上がテレワーク勤務となっている。オフィスも大手町のオフィスから複数の分散型オフィスに移転し、ほとんどはテレワークでの勤務となった。
ここまで迅速なテレワークシフトが可能だったのは、クラウドサービスへの依存率が高かったからにほかならない。そもそもKUSANAGIというプロダクト自体がマルチクラウドでの動作を売りにしているため、AWSやAzureなどは日常的に用いられているし、ビジネスクラウドとしてG SuiteやMicrosoft 365、プロジェクト管理にRedmineやBacklog、顧客や取引先とのやりとりにSlack、Chatwork、Teamsなどとにかくいろいろ使っている。
クラウドを全面採用したことでテレワークに迅速に移行したという絵に描いたような成功事例に見えるが、実際は弊害も大きかった。「なにしろメンバーがほぼテレワークになったので、顔は見えないし、クラウドサービスもこれだけ使っていると、なにが起こっているかわからなくなります。これは徹底的な業務の可視化と自動化が必要になると思いました」と中村氏は語る。
iPaaSやBIツールの課題を見越して、KUSANAGIのカスタマイズへ
業務の可視化と自動化を実現するために検討したのが、クラウドサービス同士を連携するiPaaSや業務指標を見える化するBIツールだった。しかし、メジャーなiPaasは国内のクラウドサービスに対応していなかったり、自由度が高すぎるためにエンジニアによるSIが必要だった。一方、可視化を前提としたBIツールはできることが限られ、データの前処理にも手間がかかるという課題があった。
そこでプライム・ストラテジーでは、自社開発しているKUSANAGIをカスタマイズする方法に舵を切ることにした。API経由でクラウドから必要なデータを取得し、KUSANAGI上でグラフ化。一部の自動化機能は取り込まれていたため、あとはiPaasのようなAPI連携を実装すれば、他のクラウドサービスと利用できると見込んだ。
こうして作られたのが経営ダッシュボードとして利用できるプライム・ストラテジー専用のKUSANAGIだ。このカスタマイズされたKUSANAGIでは会計や労務、営業、プロジェクトなどを管理する各クラウドサービスからAPI経由で取得した値を可視化できる。数値だけでなく、進捗に時間がかかっているBacklogのプロジェクトや管理部の日報などもブロック表示できる。
たとえば、リアルタイムに更新される管理・財務会計は、後ろで動いているfreee 会計の数値を取得している。「正確に言うとfreeeのデータをいったんM365上のExcelに出力して、部門別の損益を出しています。Excelを社内でファイル共有している時代だったらこんな連携は難しいけど、クラウドで動いていたらAPI経由でいろいろな数値を持ってこられるんです」と中村氏は語る。
業務フローに手を加えず、非エンジニアでも使えるダッシュボード
特筆すべきは、今までの業務をほとんど変えてないという点。社内で利用しているクラウドの値をAPIで取得し、KUSANAGI経由でWebページに表示されるため、ユーザーは意識せずにダッシュボードを利用できる。
現在では普段通りサービスを使い、タグ付けの操作を付加するだけで、経営指標やトピックが全自動で可視化される。「お恥ずかしい話、今まではKUSANAGIの累計稼働台数がリアルタイムにわからなかったんです。マーケティングの担当にお願いすると多忙なので3日後と言われて、数字が出たときにはすでに4万台を突破しているみたいなことがあったんです(笑)」と中村氏は振り返る。
もう1つは非エンジニアでも扱えること。プロ向けツールであるKUSANAGIはエンジニア向けで、操作が難しいという課題があった。「自分で開発しているので素晴らしい製品ですって言いたいのですが(笑)、黒い画面ですし、難しい技術を使っているので、誰でも扱えるとは言いがたい」とは中村氏の弁。しかし、ダッシュボードは現場で利用するものなので、毎回エンジニアに頼まなくても、設定や変更が必要な仕組みが必要だと考えた。
これに対して、カスタマイズしたKUSANAGIでは「コンテナ化」という仕組みを導入し、標準的に利用しているクラウドサービスとのAPIのつなぎこみをモジュール化している。ここで言うコンテナはDockerというより、規格化・隠ぺい化するイメージ。「ブロックエディターでモジュールをドラッグ&ドロップして、プロパティを設定すれば、必要な画面がプレビューできるという世界を目指しています。これができるのがAPI連携のいいところ」(中村氏)とのことだ。
制約条件だったテレワークからの脱却 そして外販も検討
今回の取り組みで面白いところは、IT企業でありながらテレワークにあまり縁がなかったプライム・ストラテジーがテレワークにチャレンジし、テクノロジーの力を借りて、生産性を上げるところまで進めたという点だ。
たとえば同じくWordPressベースのCMSを手がける競合のデジタルキューブは、もともとオフィスに依存しないテレワークを前提の組織として知られている(関連記事:神戸のデジタルキューブが実践するコミュニティ、ビール、たまに仕事)。一方、都内に拠点を構えて、大手顧客と密接に連携しながらビジネスをしてきたプライム・ストラテジーにとってみると、オンサイト対応できないコロナ禍でのテレワークは未経験だった。「テレワークはむしろ制約条件でした。プロジェクトの進捗も口頭で説明する前提だったため、担当者に聞いたらプロジェクトが遅れていたということもあった」と中村氏は語る。
しかし、こうした問題はクラウドをきちんと使いこなしていなかったからだと中村氏は指摘する。「プロジェクトの遅れは、管理・監督者の問題だと思っていたのですが、実はスキームや仕組みの問題なのがわかりました。われわれは技術をちゃんと使えてなかったんです」と振り返る。
プライム・ストラテジーにしてみれば、可視化と自動化を進めれば進めるほど、生産性は上がるというのが1年通しての感想。社員同士のリテラシギャップが埋まり、社内で共通のプロトコルができたという。「社員当たりの売上高を可視化できたので、テレワーク下においても生産性をきちんと上げられました」と中村氏は語る。
そして当然の帰結として、外販も検討されている。「もともとは自分たちが困っていて、作れる技術があるから作ったもの。でも作ってみたら、コロナ禍が終わってもこれって必要だよねという話になり、今はどれだけ簡単に使えるかにチャレンジしているところ」と中村氏は語る。コロナ禍を経て、テレワークで得た知見を自社製品に惜しみなく投入したKUSANAGIの次の展開が楽しみだ。