富士通は3月8日、スーパーコンピューター「富岳」が、3月9日に完成を迎えると発表した。理研と高度情報科学技術研究機構(RIST)は、富岳を広く学術・産業分野向けに提供するため、同日から共用を開始する。
富岳は、文部科学省が推進する革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の中核システムとして、開発・整備されたスーパーコンピューター。理化学研究所(理研)と富士通は、2014年から共同で富岳の開発に着手し、2020年5月にすべての筐体の搬入を終了し、開発と利用環境整備などを進めてきた。
その間、スーパーコンピューターの性能ランキングの4部門において2期連続で世界第1位を獲得。また、成果創出加速プログラムや新型コロナウイルス対策利用などで2020年4月より試行的に利用されている。これらの試行的な利用の中で、すでにゴ-ドン・ベル賞ファイナリストとして「大規模数値流体シミュレーションに関する研究」および「史上最大規模の気象計算」が選出された。
同社は今後も、富岳の運用において協力して安定稼働に努めるともに、世界一の運用技術の開発、利用環境の高度化、スーパーコンピューティング技術の開発や提供などを通じ、社会的課題の解決や最先端研究の加速などに貢献していくとしている。
また、登録施設利用促進機関であるRISTは、富岳の共用開始以降、成果創出加速プログラムの継続とともに、幅広い研究者などが即時に本格的利用を開始できるよう、一般公募を行い2021年度の一般利用・産業利用課題74件を採択した。さらに、今後の富岳利用拡大にむけて、早期成果創出を狙う小規模な課題、アプリケーションの動作検証や性能評価を試行する課題の2種類を随時募集している。
富岳は今後、シミュレーション、AI(人工知能)とデータサイエンス、シミュレーションとAI・データ科学の融合などを通して社会的・科学的課題の解決と超スマート社会Society 5.0の実現を図る。具体的には、以下の成果が期待できるという。
・高速・高精度な創薬シミュレーションの実現による新薬開発加速化
・医療ビッグデータ解析と生体シミュレーションによる病気の早期発見と予防医療の支援実現
・気象ビッグデータ解析により、竜巻や豪雨を的確に予測
・地震の揺れ、津波の進入、市民の避難経路をメートル単位でシミュレーション
・太陽電池や燃料電池の低コスト・高性能化や人工光合成メタンハイドレートからメタン回収を実現
・電気自動車のモーターや発電機のための永久磁石を省レアメタル化で実現
・次世代産業を支える新デバイスや材料の創成の加速化
・飛行機や自動車の実機試験を一部代替し、開発期間・コストを大幅に削減
・宇宙でいつどのように物質が創られたのかなど、科学の根源的な問いへの挑戦
なお、3月9日10時30分にイベント「HPCI フォーラム ~スーパーコンピュータ『富岳』への期待~」をオンライン開催する。共用開始セレモニーのほか、アカデミア・産業界の研究者による講演・パネルディスカッション、ウェブ展示を実施予定している。参加は無料で、午後の部のみ事前申し込みが必要。