すでに20年近く前になるFlashコンテンツのブーム
中国では正規の特別版がまだ提供される
アドビは、2020年12月31日で長らく続いたFlash Playerのサポートを終了した。Flash PlayerにおけるFlashコンテンツの実行は2021年1月12日以降ブロックされるようになり、またアドビはシステム保護のためにFlash Playerを直ちにアンインストールすることを勧めている。
日本では2001年頃に登場した吉野家語りで知られる「ゴノレゴシリーズ」をはじめとしたコンテンツがFlashの状態では見ることができなくなるだけでなく、文部科学省によるプログラミングツール「プログラミン」などのサービスも終了した。
ただし、中国では状況は異なる。アドビの代理店である重慶の企業「重慶重橙網絡科技(略称:重慶重橙)」が、「Flash Player中国特供版」なる、文字どおりの中国限定特別提供版をリリースしている。つまりそれを活用すればFlash Playerを利用し続けることができる。「中国特供版」という名前ではあるが、エンドユーザー使用許諾契約を読むと中国以外での利用について禁止をしているわけではなさそうだ(https://www.flash.cn/)。
しかし、中国のネット論壇において、存命した新しいFlash Playerの評判はよろしくない。Flashを継続すべく中国特供版Flashをインストールすると、「FF新推荐」という広告窓が強制的についてくるのでユーザーから不満が続出しているのだ。
中国特供版Flashのソフトウェア使用許諾契約を読むと、はじめにアドビ版の文章があり、その後に重慶重橙が新たに加えた文章が続く。このなかに商業目的で個人情報を利用するということが書かれている。少なくともここについて中国のネットユーザーが不満を出しているのが確認できる。さらに、中国の法律法規を遵守した形になるとしている。中国のほかのSNSやクラウドサービス同様、Flashコンテンツが暴力的、ポルノ的、反政府的など、法律法規に反するという理由で突如消えることはあるだろう。
新しいものもドンドン出てくるが
古いネットサービスも使い続ける中国
「中国は変化が激しい」とよく言われるが、一方で過去に定番となったサービスを使い続けるという傾向もある。Flashも昔によく使われたこともあって、サポートが継続されることとなった。以前には中国で初めて普及したパソコン用OSであるWindows XPについて、2014年のマイクロソフトによるサポート終了後もテンセント(騰訊)やキングソフト(金山軟件)などが中国でのサポートに名乗りを上げたこともあった(「サポート終了で盛り上がり!? 中国のWindows XP事情」)。
中国においてFlashは、Windows 98の頃からスマートフォン登場以前まで広く普及した。中国のFlashというと棒人間がアクション映画ばりに生き生きとアクションをする「小小系列」を思い浮かべる人はいるだろう。小小系列を作ったのは中国ネット世代の一番年輩となる、1976年生まれの朱志強氏だ。ハッカーが「黒客」と呼ばれていたように、朱氏のようなFlashクリエイターは「閃客」と呼ばれた。
そのFlashクリエイターである「閃客」の公開の場となったのが、1999年に高大勇氏によって開設されたFlashコンテンツポータルサイトの「閃客帝国」だ。高氏は1997年にウェブページをはじめて作った後、Flashに未来を感じてポータルサイトを開設。現ネットイース(網易)のCEO 丁磊氏などと並んで注目のネットユーザーだった。
中国のインターネット黎明期に登場したこともあって注目を集め、様々なFlashコンテンツが作られて投稿された。当時のFlashコンテンツの広告制作費は1秒300元と破格の収入が得られることもあり、その能力アピールの場としても活用された。
2000年代に入るとFlashは活躍の場を広げた。テレビでは全国ネットの中国中央電視台(CCTV)ほか、様々な局でFlashアニメによる漫才やコントが流れた。かくいう筆者もテレビやバス内でのディスプレーでよく見た。テレビや映画でも番組内の一部にFlashアニメを導入するコンテンツは数知れず、またFlashアニメも珍しくはなかった。
街の大型ディスプレイでFlashアニメが流れることもあれば、カラオケ屋で流れた映像はFlashアニメだったということもよくあった。そんな状況だったのでFlashアニメによるアマチュアの作品は無数に投稿され、日本のゴノレゴを越える長編の動画作品が登場した。たとえば「大話三国」「新長征路上的揺滾」「大学生自習室」などのタイトルが有名だ。Flashを使ったミニゲーム集サイトも「4399」をはじめ多数登場し、ゲーム初心者を中心に現在まで遊ばれた。書店に行けば、無数のFlashハウツー本が販売されていた。
動画配信サービスの台頭でFlashは追いやれるように
重要なインフラで使われていて問題になったケースも
それほどまでに人気だったFlashが人気でなくなるきっかけとなったのが、優酷(YOUKU)などの動画サイトの台頭だ。ADSL普及と相まって、オンデマンドで映像が見られるようになり、Flashのコンテンツは息をひそめるように。それでもミニゲームサイトは気軽に遊べるとして人気だったし、CCTVのサイトなど動画サイトで、Flashを利用して動画を配信するなどFlashは残った。
1月には本家Flash終了にあわせ、Flashを導入していた大連駅での運行管理システムがFlash終了にともない動かなくなり、バックアップされたアプリケーションも入った海賊版の旧バージョンをリストアし、システムを復旧させたという事件があった。そんな状況になるのも、実はFlashがこれほどまでに人気であり普及したからにほかならない。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」(星海社新書)、「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)
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