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スポーツアナリティクスジャパン2021基調講演

ピッチデザインで野球界にデータを取り入れた サイ・ヤング賞投手

2021年02月16日 06時00分更新

文● 末岡洋子 編集● ガチ鈴木/ASCII編集部

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 2月に入りドジャース入団が発表されたTrevor Bauer(トレバー・バウアー)氏――2020年のサイ・ヤング賞受賞投手であり、その年棒も話題だ。そんなバウアー氏が2021年1月30日、日本スポーツアナリスト協会(JSAA)が主催した「SAJ 2021(スポーツアナリティクスジャパン2021)」にオンラインで登場し、基調講演で自身の「ピッチデザイン」について語った。

 同イベントはアナリティクスでスポーツを強化、競技を活性化させることを目的にJSAAが主催、今回で7回目の開催となる。基調講演はイベント開催時点ではまだフリーエージェントだったバウアー氏が登壇し、スポーツジャーナリストの丹羽政善氏との対談形式で行なわれた。

Trevor Bauer(トレバー・バウアー)氏と丹羽政善氏

 データや動画を使ってピッチをテスト、評価しながらリアルタイムに調節することでピッチを設計するピッチデザイン、「父親とピッチデザインの話を始めたのは2010年ごろ。公の場としてYouTubeでピッチデザインについて開設したのは2013年。当時はフォーシームを高めに投げるなと言われていた時で、概念についても認識されていなかった」とバウアー氏は振り返る。

 2011年にプロ入りした時は重いボールを使っていたというが、「そんなことをすると腕を痛めると言われた」とバウアー氏。だが現在は多くの投手が重いボールを持っており、「この練習方法が受け入れられるようになった」とも。「誰も回転効率なんて口にしていなかったし、調べる方法もなかった。投手によりフォーシームの質がまるで異なるのに、ひとくくりにされていた」。

 ピッチデザインの影響について、「選手のプレー改善につながっている。野球そのものが進化している。故障も少なくなり、全体のレベルがあがり、野球がもっと魅力的なスポーツになっている」と評価しつつも、「まだまだメインストリームではない。将来、自分がやっていることが普通のプロセスとなってほしい」とも。もっとわかりやすく体系化して、他の選手が理解して取り入れやすくしたい、と続ける。

 丹羽氏によると、バウアー氏が通うトレーニング施設Drivelineは、日本人選手の訪問も増えており「日本でも大きな変化になっている」という。

 2018年のオールスター選出、2020年のサイ・ヤング賞の受賞などにより「自分のやり方がうまくいっていると実証することができた」と喜ぶ一方で、バウアー氏がポイントに上げるのは、自分に応じたメニューやプログラムでなければ効果がないという点だ。「人それぞれで必要なプログラムは異なる。どうやって見極めるかが大切」とし、そのためにどうなりたいかを定め、自分の現在地をしり、その間のギャップを埋めること、という。

 さまざまなデータを収集・分析してプレー改善に役立てるピッチデザインのようなアプローチは、野球のみならずサッカーでもほぼ全てのスポーツで適用できるとバウアー氏。「何を達成したいのか、自分はどんなタイプでどんな球を投げたいのかを理解すること」と述べる。地図で目的地と現在地を把握して、そこに行くまでのルートを考えるという行動に例え、「目標がわかれば、何が必要かがわかりもっとシンプルになる」という。なお、その過程で成果がでているのかを常に確認することも大切だとする。

 なお、野球界で導入が進み始めたHawk-Eye Innovations(ホークアイにも大きな期待をしているようだ。ホークアイでもっともほしい情報としてバウアー氏が挙げたのが「縫い目の方向」だ。「縫い目の方向がはっきり分かれば、そこに回転軸、球速、スピン方向のデータを加え、計算式の精度がもっと改善する。どのように空気力学が作用しているのか、縫い目から判断できる」とバウアー氏。

「引退するまで一度は日本でプレーしたい」というリップサービスもしていたバウアー氏

 一方で、科学的なアプローチを好まない人がいるのは、米国でも同じだ。この点については、両者の間の葛藤や衝突があることを認めながら、「データが野球に不可欠なものであることを理解する過程にある」と述べた。

 日本の野球界について、来日時に「和」が重要な役割を果たしていることを学んだというバウアー氏は、これまで土台となり続けてきた和を失うべきではないという見解を示した。「古い考え方の人が伝統にこだわりすぎると思うような育成ができなくなる。一方で、新しい考えの人が育成にこだわりすぎると日本の野球の伝統を失ってしまう。理想は、2つの考え方がうまく融合すること」と述べた。

 その上で、野球界でもっとも必要なのは「通訳」とバウアー氏は述べる。「大量のデータからの情報をアスリートが理解できる言葉に変えることができる人が必要」とバウアー氏。

 自身を「オタク」と自称して憚らないが、「オタクの言葉をシンプルな言葉に変える中間の存在がなければ、選手たちは自分でデータの専門家に聞きに行かなければならない。だが、それはアスリートの仕事ではない」という。そして、「シンプルさは重要。シンプルでなければ広がらない」と強調した。

 バウアー氏が興味を持っているのは、数値で表現できるものだけではない。対談の終わりに丹波氏が「アート」と「サイエンス」の境界について尋ねると、バウアー氏は白線の内側に入るまでがサイエンス、白線の内側でおこることはアートと回答した。「バレリーナと同じ。つま先で歩いたり、ピルエットができなければ観客を魅了できない。つま先で歩く、ピルエットをするにはどうすればいいのかを科学的なメソッドを用いて習得し、舞台ではアートをする」。

 バウアー氏はさらに、試合でパフォーマンスを出すという点での意識の使い方についても語った。

 例えば、脳で考えて体に指令を出す「内部意識(トップダウン)」と状況に反応して自然に体が動く「外部意識(ボトムアップ)」、トップダウンの方が時間がかかり、自然で迅速な反応ができなくなる。そのような意識の違いをどう使い分けるのかについて関心があり自身のYou Tubeチャンネルでも議論しているという。

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