このページの本文へ

本多達也(富士通)

2021年01月20日 12時00分更新

文● minamoto-c

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

誰もが音を「感じられる」ガジェットを開発。大企業を動かす行動力で量産化に漕ぎ着けた。

本多達也が開発した「オンテナ(Ontenna)」は、聴覚障害者を含む誰もが、「音」を感じて楽しめるようにするガジェットだ。

まるでヘアピンのような小さな白いこのガジェットを髪につけると、外部の音を256段階の光と振動に変換して使用者や周囲に伝えてくれる。手話や文字だけでは伝えるのが難しい音の強さやリズムを認識できるようにすることで、健聴者と聴覚障害者が一緒にダンスや音楽を楽しめるようになるというものだ。

ヘアピンのようなユニークな形のアイデアのもとになったのは、「髪の毛が風で靡く感覚」だという。音の強さを視覚情報として聴覚障害者に伝えると、情報過多となって疲れてしまう。振動で伝えるにしても、腕などにつけると邪魔になってしまう。使用者の負担が少ない方法を聴覚障害者たちとの共同作業で追求した結果、現在のオンテナの形にたどり着いた。

大学時代に聴覚障害者と知り合い、音を届けたいとの思いを抱いた本多は、大学で学んでいた情報デザインの知識をもとに、在学中にオンテナの開発をスタート。試行錯誤を重ねてプロトタイプを完成させた。大学院を出てある大手電機メーカーに入社した後も製品化の夢を諦めきれなかった本多は、富士通に転職。新天地でオンテナの製品化へ向けたプロジェクトを率いることになる。

2019年には量産に漕ぎ着け、障害者専用の特殊なデバイスではなく、手頃な価格で購入できる富士通のガジェットとして一般に販売している。驚くべきは、本多のその行動力だろう。前例なき製品分野において、個人が発案したアイデアを短期間に製品化して世に送り出すことは、日本の大企業では極めてめずらしいことだ。資金力や製造技術、マーケティング力といった大企業の豊富なリソースをフル活用し、理想的な社会の実現にテクノロジーを役立てようとする本多は、日本発のイノベーターの新たなロールモデルとなるだろう。

(元田光一)

カテゴリートップへ

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ