外見やイメージとはまるで異なるストリートファイター
左手側のブレーキレバーを握りながらイグニッションボタンを押すと、C-evolutionは音もなく起動。いつでも発進できる状態になります。まずはROADモードに設定しスロットルを捻ってみました。モータードライブらしい「ヒュイイイイイン」という独特の動作音は、クルマでは聞きなれているのですが、バイクでは新鮮です。
静粛性やエコのイメージが強い電動車。それゆえ走りは楽しめないという考えは昔の考えで、イマドキの電気自動車はトルクの太さから来る鮮烈な加速が楽します。C-evolutionもその例に漏れず、驚きの速さを見せます。スペック的には最高速度は129km/h、0-50km/h加速2.8秒、0-100km/h加速5.6秒を誇るのですが、信号待ちの加速を体験するとその数字に偽りナシ! 250ccスクーターはおろか、スポーツバイクでは? と思えるほど。走りはじめると、275kgという車体の重さを感じることはあまりなく、むしろ「300kgなのに、この軽やかさは一体……」と驚くとともに、重さゆえの安定度も加わるのだから恐れ入ります。そんな圧倒的な機動力ゆえに警視庁が採用するのも納得です。
乗り味は硬めで、しっかりとしたもの。重量があることもあってか、タイヤの指定空気圧が高いらしく、細かな段差を結構拾います。一方、足がシッカリしているゆえに、前出のようなスポーティーな走りも楽しめるのかなとも。エンジンを搭載していないということは、走行中に手や尻などから振動が伝わりません。これを寂しいと感じるか否かは人それぞれですが、疲労低減には効果がありそうです。
モードを回生ブレーキを使わないSEILへ切り替えると、より軽さを感じる傾向に。アクセルを戻しても回生しないため、乗り味は普通のスクーターのよう。少しアクセルを入れて、戻して……という走り方をすれば、航続距離が延びるかもしれません。回生力の強いDYNAMICとECO PROのモードに設定すると、いわゆるワンペダル動作のような走りに。アクセルを完全に戻せば、ブレーキを使わずに車両を停止することもできます。この走り方なら、今度はブレーキパッドを使わなくていいのでメンテナンスコストはもちろん、洗車がラクになるかも。航続距離を稼ぎつつ、ブレーキ操作をせずラクに運転するなら、ECO PROモードで航続距離を稼ぐという走り方は賢い使い方かもしれません。
渋滞中のバイクといえば、横からすり抜けるように走る姿を思い浮かべる方も多いかと思います。試乗している時にも渋滞につかまりました。普段からすり抜けはしない方なのですが、C-evolutionは車体が重いうえに幅も広めなので、すり抜ける気にまったくなれず。そのまま大人しくECO PROモードで走ることにしました。
走行中でいいナと感じたのは、サイドミラ-が大きく、かなり上に置かれていること。後方確認は容易で、車線変更などもラク。しかも角度を変えても空力的に変化がないよう、ミラー部だけ動くという仕様も気に入りました。ちなみにミラー部は折りたたむこともできますので、狭い駐輪スペースに停車する時にも邪魔にはなりません。
充電の問題ですが、バイクは正直クルマ以上に難儀であることを痛感。まずC-evolutionは急速充電が使えない上に、通常充電の設備があってもクルマ専用駐車場に設置されているため入れないという場所が意外と多いのです。充電している写真を撮りたく探したのですが、自分のリサーチ不足もあり、都心部でも見つけることができませんでした。とはいえ「スクーター移動で1日100kmも乗ることはあるのか?」とも感じた次第。つまり家に充電設備があるのなら、このバイクを所有して充電の心配は少ないかもしれません。いわゆる都市型シティコミューターとして、快適かつ速いC-evolutionはアリどころか大正解な気がします。たとえば横浜在住で東京のオフィスに通う場合でも、100km以上の後続距離があれば往復できます。
ちなみに電動車の強みであるコストメリットですが、250ccのビッグスクーターが50万円前後であるのに対し、C-evolutionは150万円強。ガソリン代に比べて電気代の方が安く、エンジンオイル交換不要とはいえスクーター1台で100万円分の油脂類を使うことは、毎日相当な距離を乗り回したとしても困難でしょう。ですが走りの魅力を知るとこっちの方が……と思ってしまうほど、C-evolutionは魅力的なバイクなのです。
またC-evolutionに乗りながら、電動バイクは都市部で交通取り締まりを行なう白バイの運用に適していると感じた次第。交通取り締まりの場合、いつでも緊急発進できるようエンジンはかけた状態で待機するため、環境によくありません。またトルクが太いので緊急発進にも好適。もしバックミラーに赤色灯が点灯する白いスクーターの姿を見ても、「スクーターなら追いつけない」と思わない方がよいでしょう。
残念ながらC-evolutionは、本国での生産が完了しており、販売は在庫分のみとのこと。というのも、C-evolutionの日本導入は2017年ですが、本国では2014年から発売されているロングランモデルで、次世代機の話がちらほらと。BMWは2020年11月11日に開催したデジタルイベント「#NEXTGen 2020」にて、Definition CE 04というコンセプトモデルを発表しています。BMWによると、Definition CE 04は大都市圏での通勤・通学用をターゲットにしているとのこと。よって長距離の快適性よりも乗り込みやすさやスマートフォン連携といった扱いやすさに重点が置かれているとのこと(C-evolutionはそういった連携なし)。今から登場が待ち遠しいですね。