●自社内でも、対応しきれていない
iPhone 12で撮影したHDRビデオをiPhone 12で再生すると、これまでに見たこともないような、立体感、現実感の強い映像体験を得られます。正直なところ、ポケットに入るデバイスでここまでの品質のビデオを撮影できるのか、と驚かされるばかりでした。
しかし、問題があります。
たとえばiPhone SEやiPhone 11のような液晶ディスプレーを搭載するモデルでは、HDRビデオに対応しているものの、ダイナミックレンジが有機ELのように広くないため、撮影時と同じように再生できません。
さらに、iPhone 12のHDRビデオを正しく認識したり再現して再生できないアプリや、Instagram、LINEといったアプリで共有すると、やはり撮影したiPhone 12で再生するようなHDRビデオの体験は得られません。
そうした事情から、2020年、撮影するデバイスとしてのiPhone 12が先行したHDRビデオでしたが、再生するデバイス、共有するプラットホームの整備が追いつかなかった、という問題を取り残したことになります。
有機ELディスプレーを搭載するiPhone以外でこの映像体験を再現できるアップル製品は、60万円と高額なProDisplay XDRしかありません。つまり、このディスプレーがないMacBookシリーズ、iMacシリーズ、そしてiPadシリーズでは、編集はおろか再生品質もiPhone 12と同等にならない、ということです。
筆者は、アップルがこの問題を放置するわけがないと見ています。つまりiPadやMacBookシリーズ、iMacにおいて、HDRビデオの再生に対応するディスプレーを早期に搭載することになるはずだ、ということです。
●HDR対応は新チップと共に
iPhone 12やM1チップを搭載したMacBook Air、MacBook Pro 13インチ、Mac miniで、iPhoneで撮影したHDRビデオを編集しても、今までのビデオを扱っている以上の印象を受けません。書き出しも同様です。
情報量が大きいはずなのに、と不思議に思いましたが、これはA14 Bionic、M1に秘密がありました。双方共に、HDRビデオのアクセサレータを搭載しており、再生や編集、書き出しなどを高速化する役割を担っていると考えられます。HDRビデオを扱うのが当たり前になることを見越して、2020年の各種Apple Siliconに、あらかじめ仕込んでおいた、と言うわけです。
そうなると、だんだん2021年に何が起きるか、分かりやすくなってきたのではないでしょうか。2020年は小幅なアップデートに留まったiPad Proシリーズ、そしてMacBook Proの上位モデル、iMac、Mac miniの上位モデルに、このHDRビデオアクセラレータを含んだ新世代のApple Siliconが搭載され、処理性能の面でHDRビデオ対応を果たすことになるはずです。
そのタイミングで、デバイスに組み合わせるディスプレーについても、HDR対応を果たしていくことになるでしょう。
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