公正な競争環境を保てるのか?
通信事業者が公平性の議論を求める
KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルなど電気通信事業者28社は11日、趣旨に賛同する37社を代表し、日本電信電話(NTT)によるNTTドコモの完全子会社化に係る意見申出書を総務大臣に提出した。
これは9月29日に、NTTがNTTドコモの完全子会社化を発表したことを受けて進められたもので、各社の発表によると「電気通信市場の持続的発展に向けた公正な競争環境の整備」が目的とされている。発表と同日には東京都内で記者会見が実施され、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社の担当者から意見の申し出に至った経緯や目的について説明した。
そもそもなぜ、NTTのNTTドコモ完全子会社化を問題視するのか。そこには元々NTTグループが日本電信電話公社(電電公社)、つまり国営企業であり、多くのインフラ設備を持ち、競争上圧倒的優位な立場にあったことが背景にある。
それゆえ日本政府は1985年に電電公社をNTTとして民営化して以降、NTTのあり方について政策議論を進めてきた。その結果として1992年にNTTドコモを分割、1999年にはさらに国内の地域通信を担うNTT東日本とNTT西日本(NTT東西)、長距離通信や国際通信を担うNTTコミュニケーションズ、それらを統括する持ち株会社のNTTへと分割がなされている。
また2001年に閣議決定された規制改革3ヵ年計画では、NTTドコモの出資比率引き下げを含め、NTTグループ内の企業同士での相互競争実現を注視するとされていたという。つまり、政府はNTTグループを分割してグループ内、そして他の通信事業者との競争を加速する方針を採っていたわけだ。
その結果として電気通信市場では競争が加速し、結果的にNTTグループのシェアも低下していった。だが依然として携帯電話ではNTTドコモが43.1%、光ファイバー(FTTH)ではNTT東西が65.2%と、いずれもトップシェアを持つことに変わりはなく、NTTがNTTドコモを完全子会社化するというのは従来の政府方針とは逆に、NTTグループが再び一体化する動きともいえる訳だ。
KDDIの理事 渉外広報本部 副本部長である岸田隆司氏によると、そもそもNTTの目的や事業は、日本電信電話株式会社等に関する法律(NTT法)で定められている「NTT東西株式の保有等」「NTT東西に対する助言・あっせん等の援助」「電気通信技術に関する研究の実施」「その付随業務」であるとのこと。NTTドコモの完全子会社化は、そのいずれにも当てはまらないと説明する。
その上で、今回のNTTドコモ完全子会社化は従来の政府方針に逆行するものであり、NTTを経由してNTT東西とNTTドコモが資本的に強く結びつくことで、市場支配力が一層高まることを懸念していると岸田氏は説明。NTTが目論んでいるとされる、NTTドコモとNTTコミュニケーションズとの経営統合に関しても、NTTコミュニケーションズが公正競争用件等の対象となる特殊なグループ会社とされてきた経緯があることから、実現には議論が必要だとしている。
NTTドコモの子会社化によってNTTグループの実質的な一体化が進んでしまえば、公正競争環境が担保されなくなり競争が停滞し、5G、ひいては6Gの時代に向けての技術革新や利便性向上が損なわれる懸念がある。それだけに、NTTのあり方に関する政策や公正競争の要件を見直すならば、結論ありきではなく見直しのための検証と議論が必要だと岸田氏は説明。従来、NTTのあり方関する議論は情報通信審議会で進められてきたことから、同様の場で今後のあり方を議論すべきだとしている。
では意見申出書を提出した各社は、具体的にどのような議論が必要があると考えているのだろうか。最大の焦点はNTT東西が持つ光ファイバー網であるようだ。
岸田氏は「5G時代を支えるのは光ファイバー」だと話し、周波数が高く、エリアカバーにより多くの基地局を設置する必要がある5Gでは、基地局整備のため多くの光ファイバー回線が必要になると説明する。そしてNTT東西は光ファイバー設備で約75%のシェアを持つだけでなく、電電公社時代から引き継いでいる電柱や管路、ほぼすべての市区町村にあるという約7300の局舎など、競争上のボトルネックとなる設備を多く保有しているという。
そうしたことから光ファイバーの重要性が高まる今後、NTT東西を持つNTTグループがこれまで以上に競争上優位性を持つ可能性が高いと岸田氏は説明。そうした状況下で公正な競争環境を保つためには、NTTグループと他の事業者が、NTT東西が持つ光ファイバーなどのボトルネック設備を、完全に同じ条件で使える環境整備が必要だというのだ。
楽天モバイルの執行役員 渉外部長である鴻池庸一郎氏は、「基地局建設をするのに光ファイバーなどを借りているが、料金が高止まりすると新規参入者の公正競争環境が阻害される」と話す。新たな事業者が参入しやすい環境を整備する上でも、公平性の担保が求められているようだ。
そのためにはNTT東西とNTTドコモが一体化しないことを明確に担保する必要があり、ボトルネック設備の接続や卸に関するルールは、公平性や透明性を確保した厳格な運用が求められるとしている。もちろんそうしたルールは現在も存在し、厳格な運用もなされているはずだが、NTTドコモが子会社化になると問題の度合いが大きく変わってくると岸田氏は答えている。
たとえばNTTドコモを完全子会社化し、ボトルネック設備をNTTドコモと競合他社に同じ条件ながら、非常に高額な料金で卸した場合、どの会社も事業が継続できなくなる程の大きな赤字を出すことになる。だがNTTドコモとNTT東西はいずれもNTTの完全子会社となるため、このような措置を取っても実質的にはNTTドコモからNTT東西に資金が移動するだけに過ぎず、NTTとしては痛手を負うことなく競合を排除できることにもなりかねないのだという。
また完全子会社化によってNTTドコモとNTT東西との間で情報や人材の交流が強まることで、競合他社に情報が公平に流れてこないなど、透明性が担保されなくなるといった懸念もあるという。それゆえソフトバンクの渉外本部 本部長 渉外担当役員代理の松井敏彦氏は、接続や卸のルール策定、NTTによるルール順守の報告などだけでは不十分で「もう少し踏み込んだ措置が必要と感覚的に思っている」と話している。
ただ、NTTによるNTTドコモの株式公開買付(TOB)は既に始まっており、子会社化に向けた準備は着々と進められているのが現状だ。それゆえ松井氏は「TOBを止めるのは難しい」と話すが、TOBが終了した後であっても公正競争に向けた検証と議論は公の場でしていくべきだとしている。