このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

混沌とした世界にエンジニアが貢献する方法も語る、「CODE BLUE 2020」特別講演レポート

オードリー・タン氏「台湾のデジタル社会イノベーションはどう実現したか」

2020年11月11日 08時00分更新

文● 谷崎朋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

「お尻はみんなひとつしかないよ」大変なときこそユーモアを忘れずに

 そして最後の「Fun」は、災禍で流れるデマや誤情報に対してユーモアで対抗し、封じ込めようというものだ。

 「私たちは、デマがSNSのトレンドに入ったら『2時間以内に200文字以内の面白い文章と2枚の画像を拡散する』という目標を設定している。面白いミームは拡散力が高く、どんなデマを読んだ後でも、面白い投稿の方が印象に残って冷静になれる」(タン氏)

 実際、台湾でも「マスクとティッシュペーパーは同じ原料・産地だから在庫切れになる」というデマが広がり、一時はティッシュペーパーの買い占めが起こった。しかし、その拡散が始まってから数時間後には、お尻を振るマンガ絵の行政院長が「お尻はみんなひとつしかないよ」と語り、「マスクの原料は台湾産、ティッシュペーパーは南米産」と説明したポスターを投稿。こちらが拡散し、事態は悪化せずに済んだという。

行政院長自ら体を張って「Fun」に協力

 こうしたユーモアは、ほかの取り組みでも実践されている。たとえばソーシャルディスタンスについては、衛生福利部のイメージキャラクターである柴犬(總柴)を使い「相手との距離は、柴犬2匹分」といった広報ポスターを作成した。

「室内なら柴犬3匹、室外では柴犬2匹ぶんの距離を」。カワイイ柴犬が楽しく感染予防対策をアピール。ちなみに「總柴」のネーミングは「總裁(CEO)」と同じ発音から来ているという

コードという「共通言語」でエンジニアは世界に貢献できる

 講演の後半、タン氏はたっぷり時間をとってオンライン参加者からの質問に答えた。

 セキュリティイベントということもあり、多くの質問は「セキュリティエンジニアやハッカーがコロナ禍の世界にどう貢献できるか」という内容に集中した。これに対してタン氏は、まずはGitHubなどで自作のコードを公開し、「自分ができること」を広く知ってもらうよう努めてみてはどうかと提案した。

 これには実例もある。3月初旬、韓国政府が台湾と同様のマスク在庫状況確認マップを開発しようとしている話を聞いた台南市在住のエンジニアが、韓国政府が公開しているAPIを使ってそのマップを開発、提供した。これは韓国初の公式配給マップとして公開されたという。

 「台南市のエンジニアは韓国語が話せない。でも、JavaScriptは話せる」(タン氏)

 タン氏自身も、東京都の委託でCode for Japanが開発した東京都公式の新型コロナウイルス感染症対策サイトに対して、設定ファイルにあった誤字脱字のプルリクエストを送った。「プログラミング言語という共通言語でつながる世界は広い」と、タン氏は強調する。

参加者からの質問に対して丁寧に答えるタン氏

 また、そうしたエンジニアの意欲を政府がしっかり受け止めて、具体化するのを支援することも大切だ。

 今年5月、台湾政府は米国政府と共同で「cohack」ハッカソンを開催した。これは接触確認やPCR検査を効率的かつ迅速に実施するための技術、クライシスコミュニケーションなど、コロナ関連の課題を解決するサービスやツールを提案するハッカソンで、7か国から53チーム、215人が参加。優勝した5チームからは、地域の感染状況をマップで確認できるシステム、医療施設での診断を効率化するシステムなど、行政として今すぐにでも役立てたいアイディアが飛び出したという。

台湾政府は米国政府と共同でcohackハッカソン(cohack.tw)を開催。優勝5チームには副賞として両政府とスポンサーから特製炊飯器、国立HPCセンターから高級台湾米が贈られた(……ユーモア?)

 最後にタン氏は、レインボーフラッグのマスクでスタートレックのヴァルカン人式挨拶をしながら、こう締めくくった。

 「(COVID-19で)友達や家族と離ればなれになったと感じているかもしれないけど、実はデジタルが、これまで以上に私たちの距離を縮めてくれている。つながり、協力しあうことが、いま以上に大切な意味を持ったことはない。台湾と日本は“カワイイ”などさまざまな文化を共有している。今後も協力していけたら幸いだ」(タン氏)

「長寿と繁栄を!🖖🖖🖖」(タン氏)

■関連サイト

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード