飲食店に特化したフェイスシールド
このシミュレーション結果をもとにして開発したのが、サントリー酒類と凸版印刷が共同で開発した「飲食に特化したフェイスシールド」である。
サントリー酒類の山田賢治社長は、「コロナ禍において、厳しい状況にある飲食店を応援したいと考え、飲食の場に適した感染対策のひとつとして取り組んだのが、飲食時に相応しいフェイスシールドの開発である」とする。
ちなみに、理研では、「この結果は、マウスガードの装着のみで、飲食時の安全性を保障するものではない。飲食店では、漏れ出たエアロゾルに対する十分な換気対策や、接触感染へ各種対策を併用する必要がある。それにより、マウスガードが感染リスクの低減に貢献できる」としている。
飲食文化を守りたい
サントリー酒類は、「山崎」や「響」といったウイスキーに代表されるスピリッツ、「プレミアムモルツ」や「金麦」といったビールなどの国内販売を行っている。
サントリー酒類の山田社長は、「日本の外食は世界に冠たる日本の文化である。日本人ならではの『おもてなしの心』を感じることができ、大切な人と語りあい、みんなと笑いあえる場所でもある」と前置きし、「サントリーは、飲食店とともに、新しい飲酒文化を創造してきた。1950年代には日本全国にトリスバーが生まれ、日本の洋酒文化を切り開く原動力となり、2008年には、角ハイボールでウイスキー市場の復活につながった。1963年に参入したビール事業では飲用時品質にこだわり、それがいまのプレミアムモルツにつながっている。サントリーは、飲食店に育ててもらったブランドである」と語る。
その上で、「新型コロナウイルスの影響により、飲食店は厳しい状況にある。とくに、パブ、レストラン、居酒屋など酒主体の飲食店への影響が大きい。。日本が世界に誇る外食の文化を守りたい。そこにサントリーはなにができるのかを考えた」とする。
同社では、食事代の先払いによって、お気に入りの飲食店を支援することができる「さきめし」や、来店した顧客に「ありがとう」を伝えることを目的に、松岡修造さんをイメージキャラクターに起用した「食べて、飲んで、元気を」キャンペーンなどを展開。コロナ禍において飲食店を応援する取り組みを進めてきた。今回のフェイスシールドの開発もその延長線上にある取り組みだ。
「外食のすばらしさや価値を認識してもらいたいいまだからこそ、最高に美味しい状態で飲料を提供する活動に力を入れている。久しぶりに飲食店を訪れた顧客が、『やっぱり店で飲むビールやハイボールはおいしい』と言ってもらえることがうれしい」と、山田社長語る。
ストレスなく、見た目にも優れ、そして安全性も
一方、凸版印刷は、サントリー酒類とともに、ノベルティや販促ツールを一緒に開発、提供してきた経緯がある。社内には、企画、開発、製造といったモノづくり部門を持ち、新型コロナウイルス対策として、ソーシャルディスタンスを啓発するフロアステッカーシートや、低コストで簡単に導入できる紙製の消毒液ボトルスタンド、オフィスや店舗で利用できるパーティションなどを製品化している。
両社が「飲食時に相応しいフェイスシールド」の開発においてこだわったのは、ストレスなく装着や使用ができる「簡便さ」、飲食時の使用に最適化した「飲食のしやすさ」、楽しい飲食の場を実現するために「表情が見える」ことに加えて、飲食の場に相応しい「見た目」、来店客や従業員が使用、管理しやすい「運用面」の5つの点だ。
だが、安全面に対する科学的検証ができないという課題があった。
「ここに、富岳を活用した新型コロナウイルスに関する研究と科学的検証を用い、感染リスクを軽減するためのデザインを実現した」という。
理研でも、研究成果の実効性を検証する機会を探しており、両社の思惑が一致したという。
ちなみに、富岳には、Society 5.0実現への貢献が政策的目標としても盛り込まれており、産学官連携の取り組みを通じて、富岳を活用した科学的知見をもとに、企業が実効性ある現実の対策を実施する協働を行うことになっている。今回の取り組みは、その一環だ。
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