いやぁ〜、人をだますことに知恵をしぼる人っているのですね。もちろん、筆者もマジシャンなので、その一人でしょう。でも、ここで触れる「だます」は「悪いこと」、つまり犯罪についてです。
携帯やメール、SNSなど、コミュニケーション手段が増えると同時に、それを悪用する詐欺も急増しました。よく知られる高齢者を狙ったオレオレ詐欺から、「アダルトサイトの料金が未払いで……」と罪悪感を利用した架空請求、還付金詐欺や「カードが不正使用されました」と警察を騙る手口まで。ここ数年、ニュースサイトをにぎわせない日はないほどです。
最近、頻発しているのはワン切りの国際電話課金詐欺と外国からの自動音声による詐欺。今まで流行した、主な手口をまとめました。
●オレオレ詐欺(固定電話/高齢者対象)
●アダルトサイト架空請求(郵便/携帯)
●還付金詐欺(携帯電話など)
●警察を騙るクレジット/キャッシュカード詐取
●結婚/恋愛詐欺(SNSなど)
●国際電話課金詐欺(携帯電話)
●自動音声詐欺
これは猛威を振るった時系列で並べています。現在、被害を拡大しているのは「自動音声を使った詐欺」です。
新たな詐欺は自動音声の「フィルタリング」が特徴
自動音声を使った詐欺とは、どのようなものでしょうか。まず、「未払いの料金がある」「知らせたいことがある」と自動音声で伝え、「オペレーターにかわるには0を押してください」などとプッシュボタンを押させます。そしてオペレーターや、大使館員、公安局員などの職員を名乗る人物が、「支払わなければ訴訟に入る」「外国で犯罪の容疑がかかっている」と脅迫してくるという手口です。
「そんな手口に騙されるのか……」と思われるかもしれませんが、40代女性が計411万円を振り込んだ例があったほか、全国で被害総額3500万円を超えているそう。これは届けが出ている被害額なので、実際は数倍の被害があることも考えられます。
この詐欺が新しいのは、これまでは犯罪者が一人ずつ直接通話していた手口が、自動音声とプッシュボタンで「被害者候補者」を選別、いわば「フィルタリング」している点。犯罪者も設備投資で効率化をしているのが巧妙な部分です。
バリエーションとしては、「新型コロナウィルスの流行で給付金があります」などの自動音声もあるとのことで、警視庁は注意を呼びかけています。
「知らない番号には出ない」がむずかしいこともある
こうした詐欺の対処法として「心当たりのない電話には出ない」「折り返し連絡しない」などが紹介されています。たしかに、多くの人にとっては、有効なのかもしれません。
筆者の知り合いも「怖いから、知らない番号からの着信はもちろん、家のチャイムが鳴っても出ない」というほどの心配性です。配偶者から「アマゾンからの配達を待っていたのに……」と文句を言われることもあるそう。
ところが、筆者の仕事はフリーランス。事務所や仕事用の携帯電話やメールの半数は「知らない番号」やメールアドレスからです。ときには、SNSのメッセンジャーで出演依頼や取材依頼などがあることも。
さらに、外国にも友人が多いので、知らない国番号からの着信も年に数回あり、着信にはいつもドキドキしています。ただし、最近は海外でも不審電話が多いらしく、海外の友人からは「この番号で電話するから」とメールやSNSで事前に知らせを受けることが多くなりました。
それでは、フリーランスだから「詐欺に遭うリスク」も折り込み済みか……というと、そうではありません。筆者はアスキーの連載を含めメディアなどで、詐欺被害予防のコラムをたまに書いたりしています。「マジシャンがだまされた!」なんて、詐欺被害でイメージダウンになっても困るからです。
電話に出ても、詐欺に遭わないために
事務所のスタッフは、知らない番号やアドレスから電話やメールがあると、必ず相手企業の代表番号に折り返しています。フリーランスの記者や制作会社のスタッフからでも、メディアや放送局に問い合わせて委託や在籍を確かめるようにしています。あわせて、NTTの番号案内に登録されているかを調べることもあります。
警察の式典や交通安全運動などにもたまに協力したりするので、「ちょっと危ない話だなぁ……」と思ったら、管轄する警察署に相談するつもりではいますが、いままでそんなケースになったことはありません。
これらの対策を聞くと、「コミュニケーション力でだまされない自信がある」と誤解されるかもしれません。しかし、こうしたプロセスは「常に、誰でも詐欺にあう可能性がある」というリスクマネージメント、仕事の一部だと筆者は思っています。
詐欺の予防法、3つのパターン
筆者がオススメする詐欺に遭わない予防法は下の通りです。携帯電話を使う人のタイプ別に紹介します。
●知らない番号には出ない(コミュニケーションが面倒くさい人向け)
友人、知人や仕事仲間にしか番号を教えない、コミュニケーションが苦手な人向けです。
ただし、警察などから、緊急性の高い連絡が来る可能性はあります。警察署の電話番号は、多くの都道府県では「XXX XXX 0110」(末尾が「0110」)となっていますが、大阪府警では末尾が「1234」、大分県警では「2131」と、異なる場合もあります。県によっては統一されていないところも。
警察と関係のない一般の店舗などでも、「0110」で終わる番号が使われていることがあるので、知らない番号から着信があった場合、調べたほうがよいかもしれません。
また、加入している保険会社やクレジットカード会社などから買い物(利用)について本人確認の電話がある可能性があることを覚えておくといいでしょう。これは、クレジットカードを申し込んだ場合もかかってくることがあるので注意が必要です。
●用件を聞いたら、必ず代表番号などにかけ直す(コミュニケーションの手間を惜しまない人向け)
筆者や筆者の事務所が実践している方法です。ただし、電話に出た相手に「〇〇部署の▲▲さんから、こんな用件で連絡をいただいたのですが……」と明確に伝えるスキルが多少必要です。
これは相手企業にも「社員の部署や氏名を電話口で教えない」「電話によるセールスを繋がない」というルールがあるからです。そんな場合は「お手数ですが、その方から代表番号でご連絡をいただけますか?」と伝言をお願いすればオーケーです。どちらかというと、社交的な人向けの方法です。
●迷惑電話フィルタ製品を使う(企業のサービスを活用したい人向け)
迷惑/詐欺電話をフィルタリングする製品もあります。固定電話に接続するタイプ、スマホにインストールするアプリ版、携帯キャリアと連携したサービスも存在しています。
アプリ版なら、利用料金も月額300円ほどとリーズナブルなものも。「携帯を活用したいけど、知らない番号からの着信が多くて心配」という方は、試してみるのはいかがでしょうか。
マジックでだまされるのはエンターテイメントですが、詐欺でだまされると金銭の被害だけでなく精神的なショックもあるはず。みなさま、くれぐれもご注意を。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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