このページの本文へ

Veeam CTOに聞く「コンテナデータ保護の課題」とVeeamの市場戦略

Veeam、Kubernetes向けデータ保護基盤「K10」のKastenを買収

2020年10月06日 11時45分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 Veeam Softwareは2020年10月6日(米国時間)、Kubernetes環境に対応したデータバックアップ/DR技術を開発、提供するKasten(キャステン)の買収を発表した。買収金額は1億5000万ドル。Veeamはこれまで提供してきた仮想化、クラウドのデータ管理プラットフォームに、コンテナのデータ保護機能を追加、統合する。

 この買収にあたって、ASCII.jpではVeeamでCTOを務めるダニー・アラン氏にインタビューを行い、現状のKubernetes/コンテナ環境におけるデータ保護の課題やKasten買収の狙いなどを聞いた。

KastenはKubernetes環境向けのバックアップ/DRソリューションを開発、提供してきた(画像はKastenのWebサイトより)

Veeam Software CTOのダニー・アラン(Danny Allan)氏

 2017年創業のKastenは、Kubernetes環境向けのデータ保護技術を開発するベンチャー企業。Kubernetesネイティブなデータ保護/バックアップ/復旧技術を「K10プラットフォーム」として提供している。

 VeeamとKastenは以前から提携関係にあり、両社テクノロジーの統合作業も進めてきた。Veeamが6月に開催した年次イベントにおいて、アラン氏は「Kastenとの技術統合により、顧客の(Kubernetesに対する)ニーズに応えていく」と発言していたが、今回、そのKastenを買収という形で取得することにした。

Kastenの「K10プラットフォーム」概要(Kastenサイトより)

――両社はすでに提携関係にあったが、なぜ買収する必要があったのか?

アラン氏:Veeamは1月にプライベートエクイティのInsight Partnersの下に入ったが、InsightはKastenにも投資していた。そのような背景もあって協業をスタートし、5月に正式発表した。その提携のもとで、営業、マーケティング、技術の3分野における協業を続け、これは順調に進んできた。

 協業を進める中で、Veeamの顧客からの(Kastenに対する)期待が高いこと、データ保護に対する両社のアプローチが似ていることなどがわかり、買収することにした。今後、顧客は単一のベンダーでコンテナまで含めたデータの保護ができることになる。

 もう一つ強調したいのが、この買収によって、VeeamがコンテナとKubernetesを重要なシフトだと考え、コミットしていることが明確になったということだ。Kastenはコンテナのデータ保護で非常に先進的な技術を持ち、これをVeeamのCloud Data Managementプラットフォームに統合することで、37万5000社のVeeam顧客にメリットを提供できる。Veeamは(データ保護の)業界全体に先んじて動くことができる。

 (エンタープライズ市場では)4社に3社がすでにKubernetesを使っている、あるいは今後2年のうちに使うという予想もある。コンテナへのシフトは、データ保護にとって新しい挑戦であり、Veeamにとってはチャンスとなる。

VeeamとKastenは、Kubernetes環境におけるデータのバックアップ/モビリティに関して戦略提携を進めてきた(画像はKastenサイト)

――両社の「データ保護のアプローチが似ている」とは、具体的にどういうことか?

アラン氏:Veeamは、仮想化技術がまだ早期段階だったころに、いち早く仮想化環境にもデータ保護やバックアップが必要であるというニーズを見抜いた。そしてKastenは、コンテナの世界で同じことをやっている。

 仮想化やコンテナといった新しい技術に対しては、レガシーな技法を適用して保護しようとしてもうまくいかない。新しい方法で構築し、一部は無料でも提供して市場の反応を見ながら、コミュニティとエンゲージして進めていく必要がある。ここでもVeeamとKastenは同じ戦術をとっている。Kastenでは、最大10 PodまでのKubernetes環境に無償で製品を提供している。

 さらにKastenは、ストレージやエージェントのレベルではなく「アプリケーション中心」に考えるという重要な特徴を持っている。

 市場に投入されているいくつかのコンテナ向けデータ保護製品は、ストレージレベルでの保護を行っている。しかしコンテナには、(物理/仮想マシンなどとは異なり)ひんぱんに作成されては削除されるという特性がある。ストレージレベルの管理では全体のコンテキストがわかりにくく、アプリケーションをある時点に戻すときにそれを見過ごす可能性がある。一方で、Kastenはデータセットがあるところでスナップショットを作成しており、全体の状況がわかる。

――コンテナのデータ保護における課題は何か?

アラン氏:課題としてはまず、ワークロードは分散したKubernetes環境――パブリッククラウド、オンプレミス 、GKE(Google Kubernetes Engine)、AKS(Azure Kubernetes Service)など――をまたいで存在するが、1つの環境しか保護対象になっていないことが多いという点が挙げられる。つまり、データ保護という観点で“抜け”が出てきてしまう。これは大きな問題であり、KastenのK10プラットフォームはこの問題を解決するのを支援する。

――コンテナを扱う開発者はデータ保護の必要性を認識しているか? この市場そのものをどう見ているのか?

アラン氏:現在、コンテナ環境を運用しているのはDevOpsチームというケースが多い。コンテナを活用して迅速にアプリケーション構築を進めることにフォーカスしているが、必ずしもデータ保護には明るくない。われわれから開発者に対して、データ保護の重要性を啓蒙していく必要はあるだろう。

 この啓蒙活動を通じてコンテナのデータ保護への理解が浸透するまでには、1年半か2年はかかるが、それを実行していく。それにより、コンテナデータ保護の市場が立ち上がるだろう。Veeamでは、すでに「Office 365」のデータバックアップ市場で同じことを行ってきた。

――Kasten買収後の計画は?

アラン氏:K10プラットフォームは、今後も独立した製品としても提供を続ける。KastenはVeeamのKubernetes事業部の下に入り、Kastenの共同創業者でCEOのニラージ・トリア(Niraj Tolia)とヴァイバーブ・カムラ(Vaibhav Kamra)が同事業部を率いる。

 同時に、Veeamの「Veeam Backup & Replication」への統合を進める。これにより、Veeamは仮想マシン、物理サーバー、SaaSアプリケーション、クラウドワークロードのバックアップに加えて、コンテナワークロードも保護できるようになる。単一の管理プレーンにすべてを統合し、ユーザー企業は単一のポリシーで運用できるので、コンプライアンスやガバナンス対策も強化できる。

カテゴリートップへ

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード