関東在住の方は、「不思議な不思議な池袋、東が西武で西東武♪」というカメラ屋のCMソングを覚えているかもしれない。池袋駅の東口には西武、西口には東武の電車が出入りして百貨店もあり、池袋駅で降りて東口に行く時は「西武」を目指す事になる。
多くのラーメン屋がある池袋だが、その中でも「大勝軒」を外して語る事はできない。
中野「大勝軒」の店長として「特製もりそば(つけ麺)」を考案した山岸一雄マスターが、1961年に東池袋「大勝軒」を独立開業させた。当時は地下鉄有楽町線もなく、後にサンシャインシティが立つ場所にあった巣鴨プリズンが目印という静かな立地だった。しかし、しっかり煮込んだスープにたっぷりの自家製麺、そして当時は珍しかったつけ麺の存在もあって、開業当初から行列店として知られていた。
再開発の為に東池袋「大勝軒」が2007年に閉店し、山岸マスターも現役引退。それを惜しむ声に応える形で、弟子だった飯野敏彦氏が2008年、地下鉄東池袋駅近くに「東池袋大勝軒 本店」(以下「本店」)を開店させた。
しかし、池袋駅から東池袋駅にかけての「池袋東口エリア」には、他にも「滝野川大勝軒」(以下「滝野川」)、「東池袋大勝軒 南池袋店」(以下「南池袋店」)と、計3軒の「大勝軒」がある。「大勝軒」には様々な系譜があるが、この3軒とも「東池袋大勝軒」の直営店。ラーメン界の「不思議な不思議な池袋」案件かもしれない。このエリアにある3軒の「大勝軒」の謎を、「中華そば」の味を確認しながら紐解いていきたい。
まずは「本店」。東池袋駅近くの首都高速ガード下に開店して12年経った。基本メニューの「中華そば」は、豚骨を中心に白濁させた動物系スープに、サバ節や煮干しなどの魚介系素材を加えてまろやかに仕上げている。
自家製の中太麺を勢いよく啜りたくなる力強さが感じられる。茹で玉子や厚めのチャーシューも含め、山岸マスターが作り上げた「大勝軒」の世界観を継承したかのような一杯になっている。
なお、中華そばは各店舗に「小」サイズがあるが、それでも一般的な東京のラーメン店と同程度のボリュームがある。
続いては「滝野川大勝軒」。大勝軒に弟子入りしていた飯野敏彦氏が1995年に独立。山岸マスターの下で修業した人の多くが独立したが、「大勝軒」の名をつけて独立した最初の店にあたる。北区滝野川の明治通り沿いで営業していたが、店舗老朽化に伴い現在の場所に移転した。店名は変わらずに「滝野川」の地名を冠している。
移転前から豚骨を中心とした動物系と魚介系の濃厚な味で知られていたが、移転後もその方向性を継続している。移転前からの常連も多いとのことで、濃いめの味が求められているのかもしれない。つけ麺でも濃厚に感じるが、中華そばの麺を啜る時、更にパワフルな旨みを楽しめる。
最後に「東池袋大勝軒 南池袋店」。「滝野川大勝軒」の飯野店主が、2003年に「南池袋大勝軒」として開店。その後、飯野店主が「東池袋大勝軒 本店」を立ち上げた事により、店名は「東池袋大勝軒 南池袋店」に変更された。
「本店」とも「滝野川」とも異なるスープである事は一口目に分かるが、それでも「大勝軒」らしさを感じられる味。あっさりに見えるが、豚骨と魚介を感じるスープを下支えする油や塩味の存在も発揮されていて、シコシコした食感の麺をしっかりと啜らせる。
3軒とも「東池袋大勝軒」の直営店だが、「本店」は山岸マスターの味を強く意識し、「滝野川」は濃厚感を強めた味わい、「南池袋」はあっさりした中にシャープな味わいを出すといった感じで、三者三様のスタイルを発揮している。異なる味の3軒があるのも、それぞれの歴史や常連さんの存在など、依って立つ所があったからではないだろうか。
自分の好みに合わせて行くのも楽しく、お腹に余裕があれば連食しての食べ比べもオススメです。
山本剛志 Takeshi Yamamoto (ラーメン評論家)
2000年放送の「TVチャンピオンラーメン王選手権(テレビ東京系列)」で優勝したラーメン王。全国47都道府県の10000軒、15000杯を食破した経験に基づく的確な評論は唯一無二。ラーメン評論家として確固たる地位を確立した現在も年に600杯前後のラーメンを食べ続けている。
百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/)
本人Twitter @rawota
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